国立大学法人 筑波技術大学 National University Corporation Tsukuba University of Technology 文部科学省認定 教育関係共同利用拠点(平成22 年度~ 26 年度) 障害者高等教育研究支援センター - 聴覚・視覚障害学生のイコールアクセスを保障する教育支援ハブの構築- 「障害者高等教育拠点」事業 報告書 巻頭のご挨拶 近年、大学等の高等教育機関に入学する障害学生の数が年々増加する状況の中で、本学の機能の一つである「他大学支援」がさらに重要となっています。本学では「障害者高等教育研究支援センター」が中心となり、開学以来の教育・研究活動の経験および成果を学内のみならず、他大学等にも広く提供することにより、障害学生の 高等教育環境の改善・充実・強化を支援しています。 障害者高等教育研究支援センターでは、平成22 年度から26 年度まで「聴覚・視覚障害学生のイコールアクセスを保障する教育支援ハブの構築」をテーマとした教育関係共同利用拠点「障害者高等教育拠点」事業の認定を受けました。 本事業は、本学がこれまで蓄積してきた教育資源や支援のノウハウを全国の高等教育機関で学ぶ聴覚・視覚障害学生、支援や指導に携わる教職員の皆様にご活用いただくことにより、聴覚・視覚障害学生が障害特性に配慮され、よりよい環境のもとでの修学の機会を得られることを目的として取り組んでまいりました。 本事業のこれまでの活動や他大学での活用事例をとおして、高等教育機関の障害学生支援がいっそう充実することを祈念し、巻頭のご挨拶に代えさせていただきま す。 平成27 年3 月 筑波技術大学学長 村上 芳則 目次 事業概要 2 各取組の活動 I. FD/SD研修会の開催 8 II.教育コンテンツの開発 1.ろう者学(デフ・スタディーズ)教育コンテンツ 15 2.英語教育コンテンツ 29 3.体育・スポーツ教育コンテンツ(聴覚障害関連) 35 4.体育・スポーツ教育コンテンツ(視覚障害関連) 40 III.アカデミック・アドバイス提供体制の整備 53 IV.情報保障技術の提供 1.パソコンノートテイカーの養成 63 2.教育支援機器の評価と提供(聴覚障害関連) 71 3.教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連) 77 平成 27年 2月 6日実施: FD/SD研修会報告 86 取組担当者一覧 107 あとがき 108 事業概要 Ⅰ.障害者高等教育研究支援センター概要 障害者高等教育研究支援センター(以下、「本センター」)は、障害者基礎教育研究部と障害者支援研究部からなり、教養教育の実践と研究を行うとともに、障害補償システムの研究・開発および障害者の能力開発に関する研究を進めている。さらに、聴覚・視覚障害者が在籍する全国の大学等への支援、世界の聴覚・視覚障害者に対する教育方法開発のシンクタンクの役割を担うことが期待されている。聴覚・視覚の障害別に 2つのキャンパスにまたがっている。 また、本センターでは、聴覚・視覚障害学生支援に関する各種プロジェクト(教育関係共同利用拠点「障害者高等教育拠点」事業、東日本大震災における聴覚障害学生への支援経験をベースとした大学間コラボレーションスキーム構築事業、高度な専門職業人を目指す視覚障害者のための学習資料アクセス円滑化支援事業)を実施しており、全国の大学等からの相談に対応するほか、支援機器の開発等も行っている。 Ⅱ.教育関係共同利用拠点制度の趣旨 この制度は、平成 21年 9月から施行されている文部科学省の制度で、大学間連携を図る取組を一層推進するものである。 制度の趣旨としては、「多様化する社会と学生のニーズに応えるべく、各大学において、それぞれの教育理念に基づいて機能別分化を図り、個性化・特色化を進めながら教育研究活動を展開していくことが重要である。質の高い教育を提供していくためには、個々の大学の取組だけでは限界があるため、他大学との連係を強化し、各大学の有する人的・物的資源の共同利用等の有効活用を推進することにより、大学教育全体として多様かつ高度な教育を展開していくことが必要不可欠である」としている。 本センターでは、障害を持つ学生に対する高等教育の推進において、全国的な拠点としての役割を果たすものと期待をされ、「障害者高等教育拠点」として認定を受けた(平成 22年度~ 26年度)。 文部科学省[教育関係共同利用拠点]認定について(参考 Webサイト) http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakukan/1292089.htm Ⅲ.「障害者高等教育拠点」事業の目的・概要 平成 21年度に教育関係共同利用拠点の 1つ「障害者高等教育拠点」として文部科学省より認定を受けた。障害のある学生に対する高等教育を推進するために、本センターが全国的な拠点としての役割を果たし、他大学における障害学生支援をバックアップすることを目的とした事業である。 平成 22年度から平成 26年度までの 5年間、「イコールアクセス」の理念に基づき、高等教育機関で学ぶ聴覚・視覚障害学生が障害特性に配慮された修学機会を得られるように、これまで本学が蓄積してきた教育・支援のノウハウを提供する。本学の教育資源を自由に利用できる体制を構築するとともに、障害学生支援のノウハウを持たない一般大学の教職員を対象とした FD/SD研修会を開催し、共同利用拠点として情報交換の場を提供するものである。 それぞれの取組において、他大学からの相談に対応するほか、視覚障害学生支援全般に関する相談に対応する。また、視覚障害者スポーツに高い専門性を有するアダプテッドスポーツコーディネーターの養成を行う。 写真: FD/SD研修会(分科会)の様子 写真: FD/SD研修会(講演)の様子 本事業は、聴覚、視覚の 2つの障害に関連する下記の取組を実施する。 [事業の各取組] ●FD/SD研修会の開催 ●教育コンテンツ開発 ろう者学(デフ・スタディーズ) 英語 TOEIC試験対策 Web講座  留学準備Web講座 体育・スポーツ(聴覚障害関連) 体育・スポーツ(視覚障害関連) ●アカデミック・アドバイス提供体制の整備 ●情報保障技術の提供 パソコンノートテイカーの養成 教育支援機器の評価と提供(聴覚障害関連) 教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連) [「障害者高等教育拠点」事業イメージ図] (図) Ⅳ.事業の有効性(効果) 本事業の取組の実施により、これまで十分に大学で実施される授業にアクセスすることができなかった聴覚・視覚障害学生に、イコールアクセス理念に基づく新たな高等教育の可能性を提供することができる。 また、本センターが障害学生支援の全国的なハブ機構としての機能を果たすことにより、支援技術・ノウハウの移転が推進され、さらに教育・支援のノウハウの蓄積がなされる。併せて、単発的に障害学生を受け入れてきた大学等の支援に関する取組や情報、技術開発情報や評価・フィードバックなども集積されることとなり、障害学生支援に関するデータバンクとしての機能拡充や、障害学生の社会参加と自立の促進や高等教育のバリアフリー化に寄与することができる。 Ⅴ.各種プロジェクト (図) ■東日本大震災における聴覚障害学生への支援経験をベースとした大学間コラボレーションスキーム構築事業 平成 19年度~ 23年度にかけて実施してきた「聴覚障害学生のための拠点形成事業( T-TAC)」をベースに、東日本大震災で明らかになった現在の支援体制における脆弱性を補い、より強固な大学間連携体制の構築を進めている。本事業では、全国の連携大学・機関を中心とした地域ごとのネットワーク形成や、インターネットを活用した遠隔情報保障支援の枠組みづくり、聴覚障害学生に関わる新たなモデル事例の形成といった取組を行っている。 ■高度な専門職業人を目指す視覚障害者のための学習資料アクセス円滑化支援事業 平成 23年度より文部科学省の特別経費で、高等教育を受ける視覚障害者が専門的職業人を目指すうえで役立つ学習資料に円滑にアクセス出来るようにするための技術開発、人材育成、環境整備等を、学習資料の開発、製作、提供等の実務と一体化して行っている。 各取組の活動 Ⅰ. FD/SD研修会の開催 目的・目標 本取組では全国の大学における障害学生指導・支援担当教職員を対象に、本事業および本センターで蓄積してきた聴覚・視覚障害学生の指導・支援に関するノウハウや情報を全国の大学に提供することを目的として、各種の FD/SD研修会を開催した。研修会の開催にあたっては、これまで本学を中心に構築してきた障害学生ネットワーク( PEPNet-Japan(注 1)、 VISS-Net(注 2)、障害学生支援交流会)と連携して広く情報を共有し、本事業について周知と利用の促進を図ることで、全国の大学における聴覚・視覚障害学生の修学環境の向上に資することを目指した。 (注 1)日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク (注 2)名称については、 p.78を参照 活動報告 ※本文中のカッコ[ ]内は、本事業の取組名 本事業全体および複数取組合同の活動として、全国の聴覚・視覚障害学生の指導・支援に携わる教職員を対象とした FD/SD研修会を開催したほか、各取組において実施した研修会や講習会等のうち他大学への FD/SDの要素を含むものについて、本取組の一環として実績を共有することとした。 また、本学を中心とした障害学生支援ネットワークや、他大学・機関との共催により実施した研修会等についても 9回開催した。これには、本学に事務局を置く「障害学生支援交流会」との共催により[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)]を中心に実施した「『障害学生支援交流会』研修会」や、筑波大学との共催により開催した「筑波障害学生支援研究会」などが含まれる。後者については、平成 24年度以降は日本学生支援機構(以下「 JASSO」)のシンポジウム・セミナー事業として、 3機関の共催となった。本学の実施体制としては本センター支援研究部・支援研究領域を中心に取り組むとともに、本事業の取組から[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)]が中心となって実施したことから、本取組の成果として実績を共有した。 実績・成果 これまでに開催した FD/SD研修会について、年度ごとの開催回数と内訳を次頁の表に示す。なお、主に複数の取組が合同で開催したものや、他大学・機関および障害学生ネットワークとの連携により開催したものについては、場所、概要、参加者数等の詳細を示す。 (表) 開催月 場所 研修会等のタイトルおよび担当取組名 参加者数 平成23 年度: 5 件 9月 筑波技術大学 「障害学生のエンパワメントにおける『デフ・スタディーズ』 指導の意義と各高等教育機関におけるニーズについて」 ※PEPNet-Japan主催「平成 23年度聴覚障害学生エンパワメント研修会」教職員向けプログラムの一部として実施[ろう者学教育コンテンツの開発] 16名 10月 筑波技術大学 「第 5回視覚障害学生支援ワークショップ」「障害学生サポー トフォーラム第 6回交流会」合同セミナー※障害学生サポートフォーラムとの共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)] 31名 12月 筑波大学 「第 1回筑波障害学生支援研究会」 ※筑波大学との共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)] 34名 2月 筑波技術大学 「障害者高等教育拠点」事業説明会 [本事業全取組] 20名 このほか、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)] 1件については、取組の報告を参照。 平成24 年度: 10 件 6月 筑波技術大学 「障害学生支援交流会」第 1回研修会 ※障害学生支援交流会との共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)] 38名 9月 つくば国際会議場 「語学・ろう者学・体育へのアクセスを考える」 ※日本特殊教育学会第 50回大会自主シンポジウムとして実施[ろう者学教育コンテンツの開発]、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(聴覚障害関連)]、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)]、[英語教育コンテンツの開発]、[アカデミック・アドバイス提供体制の整備] 30名 12月 筑波大学 「第 2回筑波障害学生支援研究会」 ※「障害学生修学支援ブロック別地域連携シンポジウム【関東地区】」として JASSO、筑波大学との共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)] 184名 このほか、[パソコンノートテイカーの養成] 2件、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)] 5件については、各取組の報告を参照。 平成25 年度: 15 件 7月 筑波技術大学 「 FD/SD研修会~聴覚・視覚障害学生の修学環境向上のため に~」[本事業全取組] 72名 12月 つくば国際会議場 「第 3回筑波障害学生支援研究会」 ※「平成 25年度障害学生支援セミナー【 7】」として JASSO、筑波大学との共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)] 148名 2月 筑波技術大学 「障害学生支援交流会」第 2回研修会 ※障害学生支援交流会との共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)] 18名 このほか、[パソコンノートテイカーの養成] 2件、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)] 10件については、各取組の報告を参照。 平成26 年度: 18 件 6月 上智大学 「障害学生支援交流会」第 3回研修会 ※上智大学、障害学生支援交流会との共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)]、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)][パソコンノートテイカーの養成]、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(聴覚障害関連)]、[教育支援機器の評価と提供(聴覚障害関連)] 53名 9月 日本福祉大学 「語学教育のイコールアクセスを考えるシンポジウム ~聴覚障害学生の語学授業をめぐって~」[アカデミック・アドバイス提供体制の整備] 48名 12月 筑波大学 「第 4回筑波障害学生支援研究会」 ※「平成 26年度専門テーマ別障害学生支援セミナー【 6】」として JASSO、筑波大学との共催により実施[教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)] 160名 2月 筑波技術大学 「 FD/SD研修会~合理的配慮の実施に向けた拠点事業の機 能と役割~」[本事業全取組] 48名 このほか、[パソコンノートテイカーの養成] 7件、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)] 7件については、各取組の報告を参照。  このうち、筑波大学との共催で開催した「筑波障害学生支援研究会」について、第 1回~第 4回研究会の詳細を、以下に記す。  本研究会は、全国の高等教育機関(大学・短期大学・高等専門学校)、および関連機関(高等学校を含む)の教職員・関連企業関係者等を対象として、毎年、障害学生支援を軸として様々な視点で取り上げ、講演や事例発表などのプログラムを提供してきた。  第 1回研究会では、「東日本大震災から学ぶ障害学生への災害時対応」をテーマとして、聴覚障害、視覚障害、運動障害、発達障害の分野ごとに、被災した大学の職員・学生からの体験談や、被災地の障害者支援についての報告を行ったほか、発表者によるパネルディスカッションでは、震災時の対応やその後の復旧・復興、日常的な備えについて、活発な意見交換がなされた。  第 2回研究会は、 JASSO「障害学生修学支援ブロック別地域連携シンポジウム【関東地区】」として開催し、「高等教育機関における障害学生支援の合理的配慮のあり方について」をテーマとして、障害のある学生の修学支援状況について JASSOから行政説明を行うとともに、 2つの基調講演(「発達障害学生の理解と支援」「高等教育機関における障害支援の合理的配慮のあり方について」)を行った。また、聴覚障害、視覚障害、運動障害、発達障害の障害別分科会では、それぞれ合理的配慮の提供や支援体制の構築に関するテーマに沿って、講演およびディスカッションを行った。  第 3回研究会は、 JASSO「平成 25年度障害学生支援セミナー【 7】」として開催し、「障害学生支援とテクノロジー」をテーマとして、基調講演、各障害別セミナー、障害学生支援に関する機器展示をとおして、障害学生支援に資する最新のテクノロジーを紹介するとともに、それらを活用した支援のあり方について議論が行われた。また、障害のある社会人 3名による座談会では、「大学生活を通じて学んだこと」「障害学生支援」のテーマに沿って、今後の障害学生支援を考えるにあたり、有意義な意見交換がなされた。  第 4回研究会は、 JASSO「平成 26年度専門テーマ別障害学生支援セミナー【 6】」として開催し、「大学における障害学生の支援体制を考える~業務、組織、人員、財政、学内部門間連携、大学間情報共有など~」をテーマとして、総合大学や単科大学など独自の特徴を持つ 7大学(主催 2大学を含む)から、各大学の支援体制の現状と課題についての報告を行うとともに、発表者 7名によるパネルディスカッションを行い、大学におけるこれからの障害学生支援体制づくりについて議論がなされた。 写真:第 4回研究会の様子 ※第2回~第 4回目の開催詳細については、JASSO ホームページ「開催報告」を参照 【第 2回】http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/event/sympo_blocks.html#tsukuba 【第3 回】http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/event/h25seminar_7.html 【第4 回】http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/event/h26seminar6.html  次に、平成 25年度以降に開催した FD/SD研修会のうち、本事業全体として(または複数の取組合同で)実施した 3件について、以下に詳細を記す。 1)「聴覚・視覚障害学生の修学環境向上のために」(平成 25年度 7月開催) <プログラム> ■バリアフリー体験ツアー・支援機器室見学 ■利用体験ワークショップ:「ろう者学および英語教育」、「支援技術紹介・情報保障のデモンストレーション」「体育・スポーツ活動への教育的支援] ■基調講演「合理的配慮と障害者高等教育拠点について」  本研修会では、本事業で開発した教育コンテンツや指導法、支援技術および保有している支援機器について各取組担当者から紹介を行った。また、プログラム中に、開発したコンテンツ等を参加者が利用体験をできる場を提供し、利用促進と指導・支援ノウハウの共有をはかった。当日は、参加者から各取組の内容や導入に関して具体的な質問・相談が寄せられ、閉会後に実施したアンケートでは、多くの回答者から本事業の各取組の内容や利用に対して関心を持った旨の回答を得ることができた。 写真:ワークショップの様子 2)「障害学生支援交流会」第 3回研修会(平成 26年度 6月開催) <プログラム> ■事例報告(上智大学、明治大学、明星大学) ■分科会:「障害学生の支援体制」、「パソコンノートテイクの導入」、「視覚・聴覚障害学生の体育およびスポーツ活動」「視覚障害学生の支援」 ■全体討論 ■情報交換会  本研修会は、上智大学との共催で実施した。当日は、事例報告において 3大学の障害学生支援担当教職員から学内の支援体制や支援プログラム等について報告があり、分科会ではそれぞれのテーマに沿って情報交換を行った。また、各分科会や全体の質疑応答の時間には、具体的な支援方法について多くの質問があり、各取組担当者からアドバイスを提供した。プログラムとして実施した情報交換会では活発な情報・意見交換がなされ、参加者同士の交流の場として大変有効であった。 3)「 FD/SD研修会~合理的配慮の実施に向けた拠点事業の機能と役割~」(平成 26年度 2月開催) <プログラム> ■事例報告(東海大学、東洋大学、恵泉女学園大学) ■パネルディスカッション ■障害者高等教育研究支援センター事業に関する展示 ■支援機器室見学 ※希望者のみ  本研修会では、各プログラムの実施をとおして高等教育機関における障害学生支援での本事業の活用方法の提案や、合理的配慮の実施に向けた指導・支援のあり方について議論を行った。事例報告では、これまでに本事業の取組[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(聴覚・視覚障害関連)][パソコンノートテイカーの養成][教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)]を活用した 3大学の教職員から、利用の経緯や評価に関する報告があり、参加者から多くの質問が寄せられ、活発な意見交換がなされた。また、本事業取組担当者 5名によるパネルディスカッションでは、各取組の実績を報告するとともに、法改正による「合理的配慮の提供」を見据え、共同利用拠点として本事業が果たすべき役割について提案した。  このほか、希望者を対象に支援機器室見学を行い、視覚障害学生のための各種支援機器を紹介するとともに、貸出について案内した。  閉会後に実施したアンケートには、各プログラムの実施をとおして、「障害者高等教育拠点事業について具体的な利用イメージを持つことができた」「合理的配慮について理解が深まった」という旨の感想や、今後、本事業を活用したいという意見も多く見られた。本研修会では、今後、各大学で合理的配慮の実施や支援体制構築について検討を行う際に必要となる有益な情報を提供することができた。 ※本研修会の内容詳細については、 p.86~の「平成 27年 2月 6日 FD/SD研修会報告」を参照。 写真:パネルディスカッションの様子 まとめ  事業全体(または複数の取組合同)で実施した FD/SD研修会では、 3件(前述の 1)~ 3))の開催をとおして、関東地方を中心に全国から 130大学・機関、延べ 174名の参加があった。参加大学の約 3割は、 1人が複数回の研修会に参加、あるいは 1回の研修会で 1大学から複数名の教職員が参加している。このことから、これまで本事業で開催してきた研修会が参加者の期待やニーズに沿っており、一定の評価を得られたものと思われる。  本取組では、これまで聴覚・視覚障害学生の指導や支援に関する様々な研修会等を開催し、いずれも概ね高評価を得ることができた。各研修会の参加者の割合を見てみると、在職年数や障害学生支援担当年数が短い教職員の参加が多く見られる回もあったが、回数を重ねるごとに管理職、専門職に就いている職員の参加も多く見られるようになった。また、本学、および本センターで実施する研修会に初めて参加する大学も多くみられ、合理的配慮の実施に向けて障害学生支援に取り組む大学が増えている状況がうかがえる。併せて、本取組で実施してきた研修会プログラムは、様々な立場の教職員のニーズに応えることができており、有益な情報を提供できたと考えられる。  研修会参加者を職種別に見ると、職員(支援コーディネーター、保健師、看護師等専門職員を含む)がほとんどを占めていたが、教員の割合も回を重ねるごとに増加の傾向にある。また、語学などの教育方法に関する研修会において、支援担当職員だけでなく教科担当教員の参加が特に多く見られた。授業の場面では教員の協力・理解も不可欠であり、指導と支援の両面から障害学生を支える意識が浸透してきたことが、これらの状況からうかがえる。  合理的配慮の提供の義務化に伴い、全国の大学で障害学生支援体制の整備が進むことが予想される。これに伴い、平成 28年の「障害者差別解消法」施行を翌年に控え、これから支援を始める大学を対象とした研修会のテーマやさらに支援体制の充実を図る大学を対象としたテーマなど、様々なニーズに即した研修会の開催が期待されている。  本取組をとおして、本学や本センターで実施している各事業は、全国の高等教育機関から障害学生支援に関する情報の発信を期待されていることが明らかになった。今後も、本事業のみならず、障害学生支援ネットワークや他大学・他機関と連携を図りながら、研修会を開催する。これまで実施してきた研修会のアンケート等で寄せられた要望や意見を取り入れながら、障害学生支援に関する情報を提供・発信する研修会を開催することで、期待に応えていきたい。 II.教育コンテンツの開発 1.ろう者学(デフ・スタディーズ)教育コンテンツ 目的・目標  「ろう者学(英語名: Deaf Studies)」とは、ろう者の生活・文化を研究する学問であり、海外では、「ろう者学」を研究し指導する大学や、ひとつの科目として教えているろう学校も多く見られ、ろう・難聴の児童や学生が自分自身の障害について理解しアイデンティティを形成するためにも、非常に重要な学問とされている。米国では、 1983年、全米で初めてカリフォルニア州立大学ノースリッジ校にろう者学科が開設され、 4年間の学部プログラムを提供している。その後、ロチェスター工科大学やギャローデット大学などでもろう者学のプログラムが立ち上げられた。ニュージーランドでもろう学校向けにろう者学のカリキュラムが開発されており、その内容は「コミュニティ」「歴史」「スポーツ」「芸術」「テクノロジー」の 5分野にまとめられている。  日本においては「ろう者学」のカリキュラムが整備されておらず、指導のノウハウや指導者の不足から「ろう者学」のカリキュラムや授業の開設が困難とされているのが現状である。そこで本取組では、本学の前身である筑波技術短期大学の開学以来蓄積されてきた教育資源や指導ノウハウを活用して「ろう者学」の指導カリキュラムおよびコンテンツを開発・整備し、全国の高等教育機関におけるろう者学の指導やろう・難聴学生へのエンパワメント指導の活用を視野に、全国の大学の教職員が活用できるシステムを構築してきた。本取組は専任教員 2名および技術補佐員 2名の体制で実施した。以下、活動内容について説明する。 (図) 研究協議会  本取組を展開するにあたり、ろう教育およびろう者学関連分野の有識者にご協力を頂き、毎年 1回研究協議会を開催して、ろう者学のあり方といった根本的な問いかけからろう者学教育カリキュラムの構成、各テーマに適したリソースの検討に至るまで、ろう者学教育コンテンツに関する意見交換を積み重ね、具体的な検討を行ってきた。 写真:平成 26年度研究協議会の様子(平成 27年 1月 18日に実施) 《研究協議会委員》※所属・職名は現在 太田富雄氏(福岡教育大学附属特別支援教育センター教授) 木村晴美氏(国立障害者リハビリテーションセンター学院手話通訳学科教官) 倉谷慶子氏(関東聴覚障害学生サポートセンターコーディネーター) 小中栄一氏(一般財団法人全日本ろうあ連盟副理事長) 全国聴覚障害教職員協議会 西滝憲彦氏(一般財団法人全日本ろうあ連盟京都事務所長) 野呂一氏(ろう史研究家) 藤井克美氏(日本福祉大学非常勤教授) 森亜美氏(筑波技術大学非常勤講師) 小林洋子氏(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校講師)※平成 25年度まで 白澤麻弓(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター准教授) 本取組で開発した教育コンテンツ 1)ろう者学教育 Webサイト ①指導カリキュラムの開発  研究協議会での議論内容を踏まえて、欧米諸国のデフ・スタディーズのカリキュラムやニュージーランド教育省主導の教員用指導マニュアル「 Deaf Studies」を参考に、「手話」「芸術」「スポーツ」「コミュニティ」「歴史」「テクノロジー」「教育」の 7分野で構成する指導カリキュラムとした。平成 23年度は「手話」「芸術」、平成 24年度は「コミュニティ」「スポーツ」、平成 25年度は「歴史」「テクノロジー」、平成 26年度は「教育」に取り組み、 7分野全てのカリキュラムを完成させた。 (表) カテゴリ 課題数 手話 26課題 芸術 69課題 コミュニティ 45課題 スポーツ 27課題 歴史 5課題 テクノロジー 4課題 教育 解説用語集18用語 ろう教育の経験 インタビュー 8名 《課題例》 コミュニティ 単元名 ろう者コミュニティを理解しよう 課題テーマ 栃木県に存在した不就学ろう者コミュニティについて考える 課題文 動画は栃木県に存在した不就学ろう者コミュニティについての説明です。ろう学校卒業生で形成されるろう者コミュニティとの違いを意識して、このろう者コミュニティの特徴をまとめなさい。動画:川俣英一氏「不就学ろう者コミュニティについて」 芸術 単元名 写真芸術とろう者の関わりを学ぼう 課題テーマ ろう者のプロ写真家:持田俊昭さん 課題文 プロカメラマンとして写真を撮る仕事を続けていらっしゃる持田俊昭さんです。動画を視聴してろう者・難聴者がカメラマンをやっていく上で必要なこと、大切なことが何かであるかを考えてみましょう。動画:持田昭俊氏「鉄道写真家として」 スポーツ 単元名 ろう者が大会参加を阻まれた事例を学ぼう 課題テーマ 事例 ①:北城ろう学校野球部 課題文 動画では、松島謙司さんが今までに一般の競技大会にろう者が参加を阻まれた事例を紹介します。参加を拒まれた理由を調査し、当時の社会背景や人々の障害者観などにどういうものがあったのかを考察しなさい 動画:松島謙司氏「ろう学校が大会への参加を阻まれた事例:北城ろう学校」 歴史 単元名 ろう者と人権を学ぼう 課題テーマ ろう者の人権の変遷 課題文 「ろう者は昔、差別を受けていた」という話を良く聞きますが、人権の観点でどのように扱われてきたのでしょうか。田門弁護士が解説する動画を視聴して、聴覚障害のある人間として「人権の変遷」をどう考えるかを記述しなさい。動画:田門浩氏「ろう者の人権の変遷」 手話 単元名 手話の年代的バリエーションを学ぼう 課題テーマ 手話の年代的バリエーション(土曜日の手話) 課題文 手話言語地図で「土曜日」の手話表現を 70代と 30代両方観察し、手の位置、手の形、手の動きに注目して全国の分布にどのような特徴が見られるか記述しなさい。 Webサイト:日本手話言語地図(試作版) テクノロジー 単元名 補聴システムを学ぼう 課題テーマ 補聴器の歴史 課題文 佐藤正幸先生が補聴器の歴史を簡潔に説明する動画の視聴を出発点に、インターネット等でリサーチして、新しい科学技術の出現が補聴器の発展にどのように貢献したのかをまとめなさい。動画:佐藤正幸先生「補聴器の歴史」 ②リソースの収集・整理  各カリキュラムを構成するリソースの収集・選定を行った。 ③ Webサイトの作成  課題やリソースの提供を通して学習・指導をサポートできるよう、 SNS(ソーシャルネットワークサービス)の機能がついた Webサイトを作成し、本学での試行を経て、他大学に向けて運用を開始した。カリキュラムやリソースについては、随時追加・更新し、コンテンツの拡充を目指した。 (図) 画像: Webサイト課題画面。手話、字幕付きの映像を視聴した上で、下画面の解答欄に解答やレポートを記入し、送信できるシステムになっている。 2)日本手話ドリル、アメリカ手話ドリル  手話を学ぶ初心者の学生のために、基本的な手話単語や指文字の動画を読み取って学習するドリル式のコンテンツを作成した。併せて、本学でアメリカ手話クラスが開講されていることに伴い、アメリカ手話ドリルを作成した。ドリルのカリキュラム内容は以下の通りである: (表) 日本手話ドリル       アメリカ手話ドリル 人名の読み取り 10課題 人名の読み取り(一般) 100課題 指文字の読み取り 10課題 人名の読み取り(著名なろう者) 100課題 人の紹介の読み取り 50課題 州名の読み取り(手話) 51課題 指文字(カタカナ語) 20課題 州名の読み取り(指文字) 51課題 家族構成の読み取り 50課題 数字の読み取り 10課題 文章の読み取り 5課題 家族構成の読み取り 15課題   (なし)      単語の読み取り 5課題 (図) 画像:アメリカ手話ドリルの課題画面 3)ろう者学映像アーカイブ  これまで収集したリソースの整理を行い、それらを一覧として、保存・活用できるよう、映像アーカイブを作成した。現時点で本コンテンツに収めているリソース(映像)は以下の通りである: (表) ①ろう者学プロジェクト制作映像 49本 人(ろう者) 36本 団体 3本 行事・出来事 10本 ②「目で聴くテレビ」提供映像 59本 人(ろう者) 22本 団体 16本 行事・出来事 13本 他団体提供 8本 ③手話言語学教材用映像 18本 (図) 画像:ろう者学映像アーカイブのトップ画面 ※手話と字幕の番組「目で聴くテレビ」は聴覚障害者のための放送局で、全国的な聴覚障害者関連ニュースや地方のニュースなどを提供している番組である。「目で聞くテレビ」にて過去放送された映像をリソースとして提供して頂いた。(制作: CS障害者放送統一機構) 4)自立活動教材用ページ  「ろう者学教育コンテンツ開発事業評価アンケート」の結果を受け、ろう学校高等部の自立活動において本コンテンツが活用されるよう、各カテゴリから 1題ずつ選抜して指導モデル案を作成した。 5)日本聴力障害新聞記事データベース  一般財団法人全日本ろうあ連盟発行の機関紙「日本聴力障害新聞」の縮小版 1. 2巻(昭和 23年.昭和 48年)と 3巻(昭和 48年.昭和 51年)に掲載されたすべての記事を検索できるデータベースを作成した。見出しや本文中にあるキーワードとタグ、掲載年月日などから、記事が検索できるシステムとなっている。戦後のろう者の生活、権利運動、雇用問題、当時のろう教育状況などについて調査し、ろう者学教育コンテンツのカリキュラムを検討するための内部資料として作成した。 (図) 画像:日本聴力障害新聞記事データベース検索画面 6)「舞台」記事データベース  聴覚障害者演劇情報提供センターの機関紙「 The Deaf Theatre News 舞台」(昭和 58年.平成元年)のすべての記事を検索できるデータベースを作成した。見出しや本文中にあるキーワードとタグ、掲載年月日などから、記事が検索できるようになっている。演劇における変遷、当時のろう演劇の活動状況などを整理し、ろう者学教育コンテンツのカリキュラムを検討するための内部資料として作成した。 その他の活動 1)ろう者学ランチトーク  ろう者学教育コンテンツの開発と並行して、( 1)「ろう者学」の啓発と( 2)ろう・難聴学生に必要なロールモデルの検討を目的として、本学を訪れたろう・難聴者と学生が交流する企画『ろう者学ランチトーク』を定期的に開催した。(平成 25年度、平成 26年度に実施。)毎回様々なゲストを招聘し、自分のこれまでのろう者としての経験や仕事、ろう者や手話に関する研究等をテーマとし、講演を実施した。海外のろう者が来学した際には、海外のろう者コミュニティの状況やろう者たちの事情などについて学ぶ機会を提供できた。また、本学の学生や教職員だけではなく、本学近隣に在住のろう者や手話学習者も参加できるよう周知に努め、地域に開かれた場を提供した。 写真:ろう者学ランチトークの様子 (表) 平成 25年度ろう者学ランチトーク実施内容 第 1回 7月 1日 竹内かおり氏「 ASLマンガ」 第 2回 7月 11日 田澤龍太郎氏「イタリアのろう者事情」 第 3回 7月 17日 管野奈津美「デフアート①」 第 4回 7月 23日 川俣郁美氏「アメリカ留学体験」 第 5回 10月 30日 重田千輝氏「映像メディアについて考える~ろう者が見やすい字幕とは~」 第 6回 11月 13日 映画「生命のことづけ」上映会 第 7回 11月 26日 ブラーム・ジャダーン氏「手話アニメーション」 第 8回 12月 2日 マーティン・デール -ヘンチ氏「アメリカ人ろう者から見た日本文化 ―」 第 9回 12月 11日 管野奈津美「デフアート②」 第 10回 1月 23日 大杉豊「ケニアのろう者事情」 第 11回 1月 30日 持田昭俊氏「鉄道写真家として」 平成 26年度ろう者学ランチトーク実施内容 第 1回 4月 22日 小林香里氏「ニュージーランドでの仕事」 第 2回 5月 13日 イー・チャン・ロー氏「シンガポールのろう者事情」 第 3回 5月 21日 岩本重雄氏「手話検定.ろう者も受けられる ?!.」 第 4回 5月 28日 井上正之先生「電話リレーサービス.聴覚障害者の社会的自立のために」 第 5回 6月 4日 小林洋子「ろう者と遺伝子.どうしてろう・難聴になるのかな?」 第 6回 6月 18日 大杉豊「アイスランドのろう者事情と学会報告」 第 7回 7月 2日 管野奈津美「デフアート③」 第 8回 7月 9日 辻功一氏「企業でのコミュニケーション方法」山本綾乃氏「真の情報保障って何だろう.群大ライフから学んだこと.」 第 9回 7月 16日 米山文雄先生「手話表現を取り込んだ教科教材について.ろう幼児、生徒にとって必要なライブラリの準備を進めるために.」 第 10回 10月 15日 村井晃子氏「ケースマネージャーの1日.ろう者学の視点から.」 第 11回 10月 24日 小立哲也氏「デフリンピックと手話の出逢いに感謝」 第 12回 11月 11日 ロバート・ニコルズ氏「デフ・アーツ・ミュージアム・センター-博物館及び美術館の新しい展開、感覚デザイン、文化、コミュニティから見たキュレーターの役割 -」 第 13回 12月 10日 坊農真弓氏「手話の相互行為分析とは」 第 14回 12月 18日 鈴木怜子氏「看護師と保健師.専門職と手話との出会い~」      1月 14日 特別企画・ろう者学アフタヌーンティトーク 奥沢忍先生「聴覚障害をもつ小学校教員により授業展開の試み~児童とのコミュニケーションを図りながら授業を成立させる工夫を探る~」 第 15回 1月 23日 繁益陽介氏「畜産の世界へようこそ」 第 16回 1月 28日 堀米泰晴氏「聴覚障害者の就業とろう協会活動~卒業生の経験から~」 2)パディ・ラッド博士特別講演会  平成 25年 11月 12日にパディ・ラッド博士特別講演会を開催した。パディ・ラッド博士はイギリスのろう者で、長年、ブリストル大学ろう者学センターにおいて講師及び修士課程コーディネーターを務めた経験を持つ、ろう文化の研究者である。パディ・ラッド博士が提起した「 Deafhood」は「ろうであること」を意味する文化的な概念であり、「 Deafness」の対語として医療的な視点とは一線を画するものである。「 Deafhood」を解説した、パディ・ラッド博士の著書「 Understanding Deaf Culture: In Search of Deafhood」は、欧米で広く読まれている。「 Deafhood」の概念について説明して頂くとともに、『植民地主義』をキーワードとして、アメリカにおける黒人差別や先住民の例を交えながら、ろう者コミュニティにおける植民地主義についてわかりやすく解説頂いた。また、講演終了後は、イギリスのろう者学カリキュラムについて聴取を行い、本取組についても助言を得た。大変有意義な講演会であった。 写真:特別講演会の様子。パディ・ラッド博士(左) 3)デフリンピック啓発パネルの作成  「デフリンピック( Deaflympics)」は、ろう者自身が運営する、ろう者のためのオリンピックであり、 4年に一度開催されている。第 22 回夏季デフリンピック『ソフィアデフリンピック 2013』が平成 25年の 7月 26日. 8月 4日、ブルガリアの首都ソフィアで開催された。デフリンピックの開催をうけてデフリンピック啓発パネル 3枚を制作した。(①第 22回夏季デフリンピックソフィア 2013、②デフリンピックの歴史、③オリンピックに出場したデフ・アスリートの情報)また、デフリンピック壮行会会場、障害者スポーツイベントの会場など様々な会場へパネルの貸出を行い、デフリンピックの啓発を行った。 (図) 画像:デフリンピック啓発パネル②「デフリンピックの歴史」 [主な貸出先] ・全日本ろうあ連盟スポーツ委員会 ・ろう者サッカーイベント『アジアンタールカップ 2013』会場 ・デフリンピック応援プロジェクトチーム主催:ソフィアデフリンピック 2013日本選手団壮行会会場 4)情報アクセシビリティ・フォーラム映像エリアの企画運営  平成 25年 11月 22日~ 24日に東京都・秋葉原 UDXで『情報アクセシビリティ・フォーラム -音をつかむ未来をつかむ -』(主催:一般財団法人全日本ろうあ連盟、特別協力:公益財団法人日本財団、国立大学法人筑波技術大学)が開催された。同フォーラムの映像エリアの企画運営を本取組が担当し、ろう者と関わりの深い映画作品の上映を行った他、ろう者にとって見やすい字幕制作、映画とろう者やろうコミュニティとの関わり、デフムービー(聾映画)の存在、ろう者によるドキュメンタリー映像の保存と発展などを調査して制作したパネル 8枚を映像エリアのロビーにて展示した。 写真上:映像エリアの講演の様子 写真下:映像エリアのロビーの展示の様子 [展示内容] .「映像メディアを考える~無声映画から発声映画へ、ろう者コミュニティと映画の関わり~」 .「商業映画に見るろう者の生活文化とろう者観」 .「映像メディアを考える~ろう者が見やすい字幕とは~」 .「情報・コミュニケーションの問題を撮る」 .「睦ろう者映画友の会」 .「たき火」 .「小さな下町 -さくらの詩 -」 .「 Braam Jordaanの世界:無声アニメーションの新しい風」 (図) 画像:「商業映画に見るろう者の生活文化とろう者観」のパネル 5)本学で開催された平成 26年度公開講座「ろう者学セミナー~映画『名もなく貧しく美しく』と『ゆずり葉』」を比較分析する~」の企画運営  2日間の日程で大杉が講師を務め、ろう者コミュニティに大きな影響を与えた映画として「名もなく貧しく美しく」「ゆずり葉」の 2作品を比較分析し、本取組の成果物を活用して、①ろう者コミュニティと生活文化、② 2作品の製作におけるろう者コミュニティの関わり、③ 2作品に描かれるろう者の生活文化、④ 2作品に見られる各時代のろう者観の 4つのテーマに基づいて参加者同士で意見交換やディスカッションを行った。 広報活動 1)通年 「ろう者学教育コンテンツ開発プロジェクト」 HPにおいて、イベントの案内・報告( NEWS)およびリソースの紹介( RESOURCES)を行った。 URL: http://www.deafstudies.jp/ 2)各行事等への参加・研究発表 ①全国ろうあ者大会「聴覚障害者の生活に関するバリアフリー展」出展  全国ろうあ者大会は、 1年に 1度、全国各地から聴覚障害者やその福祉や支援に携わっている関係者たちが一堂に集まり、ろう者の社会的自立・地位の向上及び社会福祉の増進について討論し、交流を深める場となっている。平成 24. 26年、全国ろうあ者大会にて開催された「聴覚障害者の生活に関するバリアフリー展」へブース出展し、本学の産業技術学部や大学院技術科学研究科の案内、そして教育関係共同利用拠点、特に本取組の紹介を行った。出展した年と開催場所は以下の通りである: ・第 60回全国ろうあ者大会「聴覚障害者の生活に関するバリアフリー展」:平成 24年 6月 9. 10日、みやこメッセ(京都) ・第 61回全国ろうあ者大会「聴覚障害者の生活に関するバリアフリー展」:平成 25年 6月 15. 16日、ビッグウィング(山形) ・第 62回全国ろうあ者大会「聴覚障害者の生活に関するバリアフリー展」:平成 26年 6月 14. 15日、ビッグハット(長野) ②日本特殊教育学会第 51回大会にてポスター発表  発表テーマ:「ろう者学教育コンテンツ開発事業の取組」  著者:石原保志・大杉豊・管野奈津美・戸井有希  平成 25年 8月 30日~ 9月 1日に東京都の明星大学の日野キャンパスにおいて、日本特殊教育学会(第 51回大会)が開催された。当該学会企画のポスター発表では、「ろう者学教育コンテンツ開発事業の取組」として、海外におけるろう者学カリキュラム、そして日本の現状をふまえた上で本取組の目的について発表を行った。また、コンテンツの仕組みや開発方法、カリキュラムの一部についても紹介を行った。 ③第 48回全国聾教育研究大会にて研究発表  発表テーマ:「ろう者学教育コンテンツ及び手話言語コーパスの開発と共同利用 ~聾学校(特別支援学校)における活用の可能性.」  著者:大杉豊・小林洋子・戸井有希・管野奈津美  平成 26年 10月 16日~ 17日に兵庫県神戸市において第 48回全日本聾教育研究大会(兵庫大会)が開催された。当該学会企画の研究協議分科会「自立活動 II (言語・障害認識・コミュニケーション )」にて、研究発表を行った。全国のろう学校(特別支援学校)高等部および高等教育機関を対象にアンケート調査を実施した結果をもとに、ろう者学教育コンテンツの共同利用の有効性について述べ、ろう学校の自立活動の教材として使える可能性について述べた。 ろう者学教育コンテンツ開発事業評価アンケートの実施  高等教育機関の障害学生支援担当部署( 75校)およびろう学校高等部( 65校)を対象に、ろう者学教育 Webサイトの有効性を検証することを目的としたアンケート調査を実施した。得られた回答をもとに、本コンテンツの共同利用の有効性を検討した結果、高等教育機関におけるエンパワメント指導やろう学校高等部における自立活動の教材として、非常に有効であることが確認された。本コンテンツはろう者の専門家によるインタビュー映像や解説映像を中心に構成しており、視聴した学生にとっては自分以外のろう・難聴者と画面を通して出会うことになる。このような体験が肯定的な自己アイデンティティの形成・確立において重要であり、本コンテンツが有効に活用できるとの評価が、多数得られた。しかし、一方では教育現場の通信環境との適応など技術的課題も示唆されていることから、利用環境については引き続き検討していく。  今後は、キャリア指導への活用も視野に入れ、高等教育機関およびろう学校高等部におけるエンパワメントや自立活動の指導に有効な教材として活用されるよう更なる開発と改善を続けたい。本アンケート調査の結果と考察をまとめて本学テクノレポートに投稿した。 成果と課題 1)成果  本学の開学以来開設されてきた聴覚障害関連授業科目のカリキュラムの再編成を進めるにあたって、本取組は大きな役割を果たした。また、ろう・難聴学生の卒後を見据えた教育的支援における本取組の重要性も確認された。本取組で開発した 200を超える課題をもつろう者学教育コンテンツ(ろう者学教育 Webサイト)を他の高等教育機関と共有(シェアリング)する準備が整った。 ・従来の「障害」を不健康につながる要素として捉え、その「障害」を克服することに 重きを置くカリキュラムを脱却し、「障害」のある自分と仲間の存在を健康的な要素として捉え、「生活文化」の観点でろう者・難聴者の集合知を体系化するろう者学教育カリキュラムに移行するために必要な枠組み(フレームワーク)を確立(定義)することが出来た。なお本取組の展開にあわせて、本学で新しく開設された授業は、「手話コミュニケーション技術」「デフコミュニティと社会参加」「手話学」「ろう者文化研究」(以上学部)「聴覚障害学特論」「手話言語学特論」「手話教育特論」「ろう者学教育コンテンツ特論」(以上本学大学院技術科学研究科情報アクセシビリティ専攻)である。 ・PEPNet-Japanでは、ろう・難聴学生が情報保障を受ける中で自立条件として主体性と社会性を身につけて行くプロセスを、ろう・難聴学生のエンパワメント及びキャリア面における教育的支援と捉える考え方について合意が形成されつつある。これは例えば、ろう・難聴学生が情報保障の対象として語られる存在に終わらず、情報保障の取り組み自体に参加し、より効果的な方法を提案する等して、大学全体の情報保障の取り組みの活性化を促すということであり、この教育的支援に活用するコンテンツとして、本取組の成果物が活かされることも確認できた。 ・研究協議会及び同協議会委員の属する団体のネットワークを活かして、「生活文化」の観点によるろう者学教育カリキュラムの実施に必要とされるろう者学教育コンテンツ(映像教材)を制作することができた。 ・本取組におけるコンテンツ開発、パネル展示、イベント企画運営など様々な取り組みを通して、学内外で「ろう者学」の名称とその意義の啓発を推進することが出来た。 2)課題  本学での授業や本学の主催する企画等において、本取組の成果を大きく利用することが出来たが、他大学における活用方法の多様化が求められている。 ・ろう・難聴学生 200名以上が在籍する本学では、学生同士のコミュニケーションが取れており学生コミュニティが形成されていることと、ろう者学関連科目が開設されていることにより、本取組で開発されたろう者学教育コンテンツを様々な形で活かすことが可能であり、学生のフィードバックを得やすいという利点をも活かせている。 ・一方、在籍するろう・難聴学生が少ない一般大学等においては、その学生自身が積極的に学外のろう・難聴者コミュニティと関わろうとしない限り、ろう・難聴者として卒後必要になる知識や経験に触れる機会が得られなくなる。そういう学生に対して教育的支援(授業・指導・助言)を行う体制を整えた一般大学がほぼ皆無である現状では、本取組で開発されたろう者学教育コンテンツを活用する方法の選択肢をいくつか揃える必要がある。 ・選択肢は、( 1)ろう者学教育コンテンツを活用した授業、指導、助言を実施する方法の具体的な提案、( 2)ろう者教育コンテンツを活用した授業、指導、助言に熟練した専門員の派遣、( 3)インターネット通信を利用したオンライン指導システムの構築などが考えられよう。 ・平成 28年度施行の障害者差別解消法に定義される合理的配慮の基礎的環境整備という視点を踏まえて、ろう・難聴学生が 50名程度在籍する高等教育機関、ろう・難聴学生が 5名以下の高等教育機関など類型別に複数の機関と提携し、選択肢( 1).( 3)に沿って、ろう者学教育コンテンツを活用した教育的支援体制の基盤整備を図ることが次の戦略的課題として考えられよう。 《巻末資料》 研究協議会開催実績 (表) 開催日程・開催場所  出席者 協議内容 《第 1回》平成 23年 8月 5日丸ビルコンファレンススクエア(東京) 藤井克美氏、西滝憲彦氏、木村晴美氏、小林洋子氏、野呂一氏、倉谷慶子氏、森亜美氏、全国聴覚障害教職員協議会(堀谷留美氏、西垣正展氏)、白澤麻弓[ 10名] ・本取組の目的 ・欧米の高等教育機関における聴覚障害学生の状況 ・日本の高等教育機関における現状 ・「 Deaf Studies」の日本における名称 ・ろう者学教育コンテンツの全体構成(カリキュラム・リソース、分野) 《第 2回》平成 24年 3月 9日丸ビルコンファレンススクエア(東京) 藤井克美氏、太田富雄氏、西滝憲彦氏、小林洋子氏、野呂一氏、倉谷慶子氏、森亜美氏[ 7名] ・ろう者学の説明文『デフ・スタディーズについて(案)』の検討 ・今年度開発コンテンツ[芸術][手話]の概要・意見交換 ・平成 24年度開発予定のコンテンツ内容案の検討[コミュニティ][スポーツ] 《第 3回》平成 25年 3月 2日フクラシア品川(東京) 太田富雄氏、西滝憲彦氏、小林洋子氏、野呂一氏、倉谷慶子氏、森亜美氏、全国聴覚障害教職員協議会(堀谷留美氏、遠藤良博氏)、白澤麻弓[ 9名] ・ HPリニューアル ・今年度開発コンテンツ[コミュニティ][スポーツ]の概要・意見交換 ・平成 25年度開発予定のコンテンツ内容案の検討[歴史][テクノロジー] 《第 4回》平成 26年 2月 9日フクラシア品川(東京) 西滝憲彦氏、野呂一氏、小林洋子氏、倉谷慶子氏、全国聴覚障害教職員協議会(堀谷留美氏、木村美津子氏)[ 6名] ・今年度の事業活動報告 ・今年度開発コンテンツ[歴史][テクノロジー]の概要 ・意見交換・平成 26年度開発予定のコンテンツ内容案の検討[教育] 《第 5回》平成 27年 1月 18日フクラシア品川(東京) 藤井克美氏、木村晴美氏、野呂一氏、倉谷慶子氏、森亜美氏、全国聴覚障害教職員協議会(堀谷留美氏、戸田康之氏)[ 7名] ・今年度の事業活動報告 ・今年度開発コンテンツ[教育]の概要・意見交換 ・ 4年間の事業活動報告 ・平成 27年度以降の事業取組内容について意見交換 単元一覧表(平成 27年 2月現在) (表) 手話 手話単語の音韻構造を理解しよう 手話単語の形態構造を理解しよう 手話の分類辞構造を理解しよう 手話の NMS(非手指動作)の機能を理解しよう 指文字の成り立ちを学ぼう 手話の地域的バリエーションを学ぼう 手話の年代別バリエーションを学ぼう 手話の歴史変化を理解しよう 世界に色々な手話があることを学ぼう 国際手話について学ぼう 芸術 日本手話による語りを学ぼう ろう者の演劇活動を学ぼう 聞こえない俳人について学ぼう 漫画とろう者の関わりを学ぼう 映画とろう者の関わりを学ぼう 絵画とろう者の関わりを学ぼう 写真芸術とろう者の関わりを学ぼう 工芸とろう者の関わりを学ぼう ユニバーサルデザインを考えよう テレビドラマとろう者の関わりを学ぼう 音楽とろう者の関わりを学ぼう コミュニティ ろう者コミュニティを理解しよう ろう者と法律について学ぼう ろう者の就労状況について学ぼう 情報・コミュニケーションの支援について学ぼう ろう者の国際的な動向を学ぼう ろう者の生活史について学ぼう ろう女性について学ぼう ろう高齢者について学ぼう 盲ろう者について学ぼう ろう重複障害者について学ぼう コーダについて学ぼう ろう者の文化について学ぼう 大学の情報保障について学ぼう 全国ろうあ者大会について学ぼう スポーツ ろう学校の体育・スポーツ活動を理解しよう スポーツ活動へのろう者の参加状況を理解しよう ろう者が大会に参加を阻まれた事例を学ぼう 日本のろう者競技大会について学ぼう デフリンピックについて学ぼう プロとして活躍しているろう者について学ぼう 歴史 ろう者の人権の変遷を学ぼう ろう教育の変遷を学ぼう ろう演劇の変遷を学ぼう ろう者と就労の変遷を学ぼう ろう者スポーツの変遷について学ぼう テクノロジー 補聴システムを学ぼう 通信を学ぼう (表) 教育: 教育相談 インテグレーション 特別支援学校 /ろう学校 手話法 キューサイン /キュードスピーチ 重複障害児教育 人工内耳 トータルコミュニケーション 新生児聴覚スクリーニング 同時法(トータルコミュニケーション) 通級指導教室 /通級による指導 ノーマライゼーション バイリンガル・バイカルチュラルろう教育 メインストリーミング ことばの教室 インクルーシブ教育 聴覚口話法 デフフリースクール 論文等 管野奈津美・大杉豊・小林洋子・戸井有希( 2014)ろう者学教育コンテンツの開発と共同利用の展望 . 筑波技術大学テクノレポート , 22(1), 16-20. 2.英語教育コンテンツの開発 目的・目標  近年、グローバル化に伴い、就職活動の際に採用基準の一部として「 TOEICRTEST」スコアの提出が求められる、留学を希望する学生が増えているなどの状況が見られる。聴覚障害学生においても例外ではなく、聴覚障害学生の特性に合った教材の開発や、情報の共有が求められている。本取組ではこれらの課題に対応すべく、聴覚障害学生の英語教育に関するコンテンツの作成を行った。 活動報告  本取組では、主に下記コンテンツの開発および作成を行った。 1)聴覚障害者対応 TOEIC Test対策 Web講座 2)聴覚障害学生のための留学準備 Web講座 3)聴覚障害学生に対する英語指導法 実績・成果 1)「聴覚障害者対応 TOEIC Test対策 Web講座」の作成  TOEIC®TESTへの社会的ニーズを背景に、優良なテキストやデジタル教材、 e-ラーニング教材などの学習機会が世の中に数多く出回っているにも関わらず、聴覚障害学生が学習しやすいよう配慮された教材や仕組みは非常に少ない現状がある。そこで、本学の指導ノウハウを活かした聴覚障害学生用の TOEIC®TEST対策教材を神田外語キャリアカレッジとともに作成し、インタラクティブな運用システムを構築した。  開発の概要については、下記のとおりである。 ・聴覚障害者の場合はリスニングパートの免除申請が可能であることから、教材はリーディングパートのみとし、 500点以下、 500点、 600点の 3コースを設定した。 ・授業をイメージした動画で、指導者役のキャラクターが講義形式で学習を進める。キャラクターによる講義は、画面上に吹き出しを記し、重要語句の文字強調等により、聴覚障害者に配慮した。 ・得点獲得に必要とされる内容をパート、レベル、カテゴリーで分類した講義とチェックテストで構成し、すべての講義を自由に受講できるものとした。 ・受講者がいつでも自由に学習でき、チューターが進捗管理や質問対応を行うなどサポート体制を整えた e-ラーニングシステムとした。受講生情報は ID・パスワードで管理し、一人ひとりの受講状況に関する情報をデータベース化した。  ※学習やシステムに関する管理は、神田外語キャリアカレッジの全面的な協力のもとに実施 ・利用大学の教職員も管理画面をとおして、担当学生の個々の進捗状況やチェックテストの得点情報を確認できるものとした。 (図)  平成 23年度は、効果的に学習できる仕様を決定し、実験的に 500点以下講座の中の 1講座を制作するとともに、専用の Webサイトを開設するなど周辺環境の構築を図った。平成 24年度は、 500点以下講座( 12講義)、および 500点講座( 8講義)のコンテンツを制作してシステムに実装するとともに、学内外の学生計 39名に公開し、学生からの評価・意見を収集した。平成 25年度は、 600点講座( 12講義)のコンテンツ制作と、前年度の学生評価で意見の多かった「文字情報の表示タイミング」について仕様を検討し、すべての画面にスキップ機能を追加した。また、本事業の事務局内に専用の受付窓口を設置し、学内外の学生計 22名の利用申込に対応した。平成 26年度は、本講座の趣旨および英語 5文型を手話で解説し、補足資料と字幕を合わせて 1画面で提示する動画コンテンツを制作した。前年度同様に学内外の学生へ講座を提供し、 10名の利用があった。 <講座画面> (図) (表) レベル判定テスト(固定問題 ) ― ― 500点以下講座/ 講義 PART 時間 (分 ) 1 関係代名詞の知識 5-3 4.4 2 文意に合う語を選ぶ問題 6-21 4.6 3 パート7の出題形式 7-1 6.2 4 キーワードで探す/スキャニング 7-2 5 5 副詞の用法の知識を問う問題 5-4 4.4 6 キーワードで探す/スキャニング(前後を読む)( 1)+言い換え 7-3 4.9 7 英文のスタイルを知る/手紙 7-6 6.3 8 不定詞と動名詞の用法の知識を問う問題 5-7 4 9 英文のスタイルを知る/社内文章 7-7 3.7 10 英文のスタイルを知る/ Classified Ads 7-9 5.7 11 正しい派生語を選ぶ問題 5-9 3.5 12 メインポイントを掴む/タイトルを読む 7-10 3.8 13 メインポイントを掴む/最初のセンテンスを読む 7-11 4.2 実力判定テスト (ランダム出題 ) ― ― 500点講座/ 講義 PART 時間 (分 ) 1 語句の使い方の知識(語法)を問う問題 5-2 4.4 2 正しい語形を選ぶ問題 6-24 2.4 3 キーワードで探す/スキャニング(前後を読む)( 2)+言い換え 7-4 3.9 4 比較級/最上級の用法の知識を問う問題 5-12 2.9 5 キーワードで探す/スキャニング+計算 7-5 6.6 6 現在分詞/過去分詞の用法の知識を問う問題 5-15 7 7 英文スタイルを知る/広告 7-8 5.3 8 文章 1, 2の関係理解 7-24 11.5 実力判定テスト (ランダム出題 ) ― ― 600点講座/ 講義 PART 時間 (分 ) 1 接続詞の用法の知識を問う問題 5-1 3.2 2 前置詞の用法の知識を問う問題 5-6 6.2 3 文章の前後関係を考えて解く問題 6-23 3.0 4 速読練習/主語と動詞をマークする 7-12 8.4 5 速読練習/各段落の一行目に注意 7-13 5.4 6 分構造上の知識を問う問題(使役・受動態・文型など) 5-8 5.3 7 前置詞と副詞・接続詞の区別を問う問題 5-11 5.7 8 速読練習/固有名詞、数字に注目 7-14 5.5 9 慣用語句の知識を問う問題 5-13 4.3 10 修飾関連の知識を問う問題 5-16 11.1 11 速読練習/ざっと全体の意味をとる 7-15 7.4 12 全体を読み大意を掴む 7-25 10.4 実力判定テスト (ランダム出題 ) ― ― <管理画面:全体の進捗表示> (図) <講座画面:基本 5文型の解説動画> (図)  本コンテンツの制作・運用をとおして、講座内容を充実させるとともに、聴覚障害学生からの意見を基に、より学習しやすい仕組みに改善してきた。また、受講生のサポート体制を整えることで、語学学習や、 e-ラーニングという学習形態に不安のある学生に対して、より学習に向かいやすくする環境を構築できた。一方で、より多くの学生が講座を活用し学習を継続、成果を上げるための運用法の検討が課題として挙げられる。 2)「聴覚障害学生のための留学準備 Web講座」の作成  海外留学を希望する・関心をもつ聴覚障害学生が増えており、語学関連の相談として留学に関する相談や問合せが、本学にこれまで複数寄せられていた。そこで、聴覚障害学生が留学する際に必要となる、あるいは知っておくと良い情報について、留学経験のあるろう者を講師として、テーマ別に手話で解説する動画コンテンツを作成した。本コンテンツでは、多くの聴覚障害学生が留学先として選択していることから、アメリカ留学に関する情報を扱い、大学の選択や、申請の手順など学業に関するテーマのほか、日常生活に関するテーマを扱い、全 11講座とした。  本コンテンツについて、前述の「 TOEIC Test対策 Web講座」とともに、本センター主催の研修会等で他大学への周知を図るとともに、本事業の語学に関する相談窓口(「Ⅲ.アカデミック・アドバイス提供体制の整備」を参照)において留学や短期海外研修に関する相談があった際に、参考教材として他大学の学生・教職員に提供した。 <カリキュラム一覧> (表) テーマ 概要 時間(分) 学校の選択について 留学先を選ぶ際に必要な知識として、アメリカにおける大学( 2年制および 4年制)の種類と特徴について解説するとともに、聴覚障害者が留学先として選ぶ主な大学を紹介し、留学方法について概説する 13.7 アメリカの聴覚障害者のためのプログラムがある主な大学について 本テーマに該当する大学として下記 5大学を紹介し、それぞれの概要について紹介する ①ギャローデット大学、② NTID(国立ろう工科大学)、③CSUN(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校)、④オーロニ大学、 ⑤SWCID( SouthWest Collegiate Institute for the Deaf) 11.9 入学申請について 留学のための試験方法や、入学申請に必要な提出物、その他確認が必要な事項について、解説する 7.0 履歴書について 留学の際に提出する履歴書について、書式や記載内容の詳細、書き方のポイントを解説する 6.5 パーソナルステートメントについて アメリカの大学・大学院に入学する際に必要とされる「パーソナルステートメント(自己 PRのための小論文)」について、 書き方や作成時のポイントを解説する 7.0 TOEFLについて 留学先へスコア提出が必要となる「 TOEFL試験」について、試験方法(リーディング・リスニング・スピーキング・ライ ティング)と内容を紹介し、申請からスコア提出までの流れを解説する 6.0 TOEFLの免除申請について TOEFL試験における聴覚障害者対象の主な配慮を紹介し、 申請手続きの流れや申請に必要な事項について、解説する 5.5 予防接種について 留学の際に求められる予防接種の種類や「ワクチン接種証明書」の提出、健康診断について解説する 5.8 渡米の際の必須品について 留学先での学習や生活に必要な持ちものや、特に日本から持っていくと良いもの(講師お薦めの品)について、紹介する 9.0 SSNについて アメリカにおいて市民、永住者、外国人就労者、それぞれ個 人に対して発行される SSN(社会保障番号)について、概要 および取得方法を解説する 5.1 留学中の住居について 留学先での住居について、ホームステイ、学生寮、アパート、それぞれの特徴と注意点を解説する 5.0 (図) 3)聴覚障害学生に対する英語指導法の開発  聴覚障害学生への英語指導の中で、特にオーラルコミュニュケーションで指導の困難さが多数報告されている。また、英語の授業における情報保障の方法について、情報保障に使用する言語の選択に関する問題を含め、多くの大学で検討がなされている。一方、英語関連の科目が多様化する中、ネイティブ教員による授業を開設する大学が増えており、英語で授業を行う場合、これに対応できる情報保障者の確保や、教員側で提供できる配慮が検討課題として挙げられている。  本取組では聴覚障害学生が在籍する英語のクラスにおける授業のあり方を検討し、教職員向けのコンテンツの開発を行った。具体的には、他大学のネイティブ教員から協力を得て模擬授業を 3回実施し、映像として収め、他大学から当該内容の相談があった際の参考資料として提供できるようにした。  各回の概要を下記に示す。 (表) 実施日 対象者 概要 【第 1回】平成 23年 8月 5日 本学の教員 4名 聴覚に障害のある教員を生徒役として実施。基本的に音声英語 (通常の話速 )とアメリカ手話を同時に表出。視覚的教材として、パワーポイントと文字カードを提示。 【第 2回】平成 23年 12月 12日 本学学生 4名 基本的に音声英語 (話速はゆっくり )とアメリカ手話を同時に表出。ジェスチャー、日本手話。視覚的教材として、パワーポイントと文字カードを提示。 【第 3回】平成 25年 3月 11日 本学学生 4名(うち大学院生 1名) 基本的に音声英語 (話速はゆっくり )とアメリカ手話を同時に表出。ジェスチャー、日本の手話、英文に日本語訳の付加。視覚的教材として、パワーポイントと文字カードを提示。質問用にコミュニケーションボードの用意。 他大学の留学生 1名に依頼し、 PCノートテイクによる情報保障(講師の発言をそのまま英文で表示)を実施。  学生たちは個々のニーズに応じて、アメリカ手話と文字情報、音声と文字情報などの組み合わせを選択し、講義の内容を理解していた。特に第 3回に参加した学生からは、英文による情報保障が有効である旨の感想が多かった。実施を重ねるごとに様々な配慮を取り入れることで、より聴覚障害学生が情報を得やすい環境となった。今回の模擬授業では聴覚障害学生・教員のみを対象とし、講師がアメリカ手話を使用できたという点で、一般大学で少数の聴覚障害学生が参加する授業とは異なるが、他大学の授業で取り入れられる配慮のモデルとして、提供できるコンテンツとなった。 写真:模擬授業 (第 3回 )の様子 まとめ  英語教育において、聴覚障害学生が一般学生と同等の学習環境を持つこと、様々な情報へアクセスできることが求められている。各コンテンツの開発・提供をとおして、聴覚障害学生の学習環境の補完・向上を目指したが、 ICTの活用も含めて、引き続き開発が必要であろう。授業における配慮や情報保障のあり方については、他大学の事例も参考に今後も検討・開発していきたい。 3.体育・スポーツ教育コンテンツ(聴覚障害関連) 目的・目標  全国の高等教育機関に在籍する聴覚障害学生の体育・スポーツ活動に関する教育支援の充実に資することを目的とする。  上記の目的を達成するために、以下の事項に重点を置いて事業を展開した。 活動報告  本取組は、主に平成 25~ 26年度の 2年間に集中して実施した。本取組の目的、実施内容および成果について以下に述べる。  1)聴覚障害者の体育やスポーツを包括的に解説した DVDを完成させる  2)聴覚障害学生(者)の体育・スポーツ活動に関する情報の収集  3)聴覚障害学生の体育授業に関する相談・助言・支援  4)聴覚障害者スポーツに関する講習会の開催および講師派遣 実績・成果 【平成 25年度】 1)聴覚障害者の体育やスポーツを包括的に解説した DVDを作成するための映像資料収集 (表) 月日 内容 7月 22日~ 8月 5日 第 22回デフリンピック夏季大会(ブルガリア)への撮影要員の派遣 9月 13日~ 15日 全国ろうあ者体育大会での視察、撮影(富山県富山市、他) 10月 5日~ 6日 連盟創立 50周年記念第 50回全国聾学校卓球大会での視察、撮影(徳島県鳴門市) 11月 9日 全国聾学校陸上競技大会での視察、撮影(東京都世田谷区) 2)全国の高等教育機関を対象とした「障害学生に対する体育実技についてのアンケート調査」の実施(視覚障害関連の取組と共同)、集計および各種学会・研究会において報告 (表) 月日 内容 4~5月 調査実施 8月 28日~ 30日 「大学・短期大学における聴覚・視覚障害学生の体育実技支援に関する取り組みについて」日本体育学会第 64回大会(立命館大学びわこ・くさつキャンパス) 12月 7~ 8日 「大学・短期大学における体育実技での障害学生に対する受け入れ体制に関する現状報告」第 34回医療体育研究会第 17回日本アダプテッド体育・スポーツ学会第 15回合同大会(東北文化学園大学) 12月 最終報告書発行 2月 27. 28日 「大学・短期大学における障害学生に対する体育実技の現状と支援に 関する取り組みについて」        第 2回大学体育研究フォーラム(武蔵野美術大学鷹の台キャンパス) 3)聴覚障害学生の体育授業に関する相談・助言・支援  ・特段の相談はなかった 4)聴覚障害者スポーツに関する講習会の開催および講師派遣 (表) 月日 内容 3月 17~ 18日 東海大学体育学部からの訪問研修(内田ゼミ・吉岡ゼミ合同合宿)        聴覚・視覚合同実施(聴覚 17日、視覚 18日)        受講学生 21名、教員 2名 【平成 26年度】 1)聴覚障害者の体育やスポーツを包括的に解説した DVDの完成 (表) 月日 内容 11月 8日 聴覚障害者スポーツ DVDに収録するため、北海道日本ハムファイターズに在籍するプロ野球選手石井裕也投手と筑波技術大学野球部員との交流企画を実施し、撮影およびインタビューを行った。 5~12月 DVD「トップアスリートを目指して.聴覚障がい者スポーツの紹介」を作成した。 2)聴覚障害学生(者)の体育・スポーツ活動に関する情報の収集 (表) 月日 内容 5~12月 聴覚障害スポーツに係る書籍、 DVD、切手についての一覧表を作成した。これについては DVDの中に資料として収めた。 3)聴覚障害学生の体育授業に関する相談・助言・支援 (表) 月日 内容 6月 6日 「聴覚・視覚障害学生の体育およびスポーツ活動」分科会障害学生支援交流会第 3回研修会(上智大学四谷キャンパス)  写真:分科会の様子 4)聴覚障害者スポーツに関する講習会・研修会の開催 (表) 月日 内容 2月 19日 スノースポーツ実習時の帝京大学医療技術学部学生との交流 3月 16~17日 東海大学体育学部からの訪問研修(内田ゼミ・吉岡ゼミ合同合宿)聴覚・視覚合同実施(聴覚 16日,視覚 17日)受講学生 20名,教員 2名  「障害学生に対する体育実技についてのアンケート調査」は、本学で実施する 2回目の調査および報告である。聴覚障害者の体育・スポーツ活動に関する支援について、本学への直接的な問い合わせはほとんどなかったが、アンケートの中では必ず取り上げられていた。聴覚障害学生への体育・スポーツの指導においては、教員や周りの学生たちがいかにして情報を伝えるのかという工夫が重要である。例えば、聴覚障害学生への配慮としては、音声情報を視覚情報や振動に替えることで、聴こえる学生と同じ環境で授業に参加することができる。このように、イコールアクセスの環境を整備していくための情報(資料)提供が本事業の主目的であったが、それが十分果たせたとは言いがたいものの第一歩、二歩は踏み出せたと思う。アンケート調査報告書が活用され聴覚障害者体育・スポーツ指導での支援が進むことが期待される。  また、今回の報告書の発行等によって、本学が一般大学に在籍する聴覚・視覚障害学生の支援拠点として認知されることが従来より進んだと思われる。  本取組で作成した「聴覚障害者スポーツ DVD」は啓発用であり、類似のものがあまりないので高等教育機関、特別支援学校や障害者関係団体で活用されることが望まれる。デフリンピックが聴覚障害者にとって最高の大会であることは間違いがないが、それ以外にも様々なレベルの大会があり、聞こえないこと以外は何でもできることを理解してもらうための教材として格好のものであると思う。北海道日本ハムファイターズの石井裕也投手からのメッセージも、聴覚障害者スポーツ理解がさらに促進されるために役立つことが期待される。今後、全国の高等教育機関で障害者スポーツ授業の教材として利用されることが望まれる。 (写真) 本学の体育の授業風景の様子 写真上:授業の始めにホワイトボートを使用して説明を行っている 写真下:いったんプレーを止めて説明する時に学生全員に見えるように配慮している まとめ  本取組では、将来、体育の教員を目指す学生を対象とした講習会を本学で 2年続けて実施した。この講習会は「聴覚障害学生の体育・スポーツ支援について」と題する講義と、聴覚障害学生との実技交流を組み合わせて実施したところ、学生・教員の双方から非常に好評であった。障害学生と生の交流をすることによって障害に対する理解が促進されるためではないかと推察される。学生、教員を対象とした講習会・研修会を開催する場合、参加者には負担になるが、本学に来てもらい障害学生と実技交流を実施することによって障害理解、支援方法の理解が深まることは間違いないので、今後この方式を拡大していきたいが来訪にかかる経費負担が課題であろう。  また、開催方式としては1日に講義・(障害学生との)実技を組み合わせた講習会として実施することも考えられる。視覚障害と併せて 2日間の開催が望ましい。  今回、啓発目的の聴覚障害者スポーツ DVDを作成したが、本来は体育・スポーツの啓発メディアを作成する予定であった。しかしながら、啓発対象を体育教員・スポーツ指導者と一般に分けた方が DVDの意図がはっきりすることから、最終的に今回は一般視聴者を対象とした聴覚障害者スポーツ DVDを作成した。今後は、一定の期間が過ぎた後に改訂版を作成することと、体育教員・スポーツ指導者を対象とした指導法についての DVDを作成することが期待される。指導法に関する DVDは、これまでに作成されていないことから、高等教育機関のみならず特別支援学校でも期待が大きいと思われる。  上述の両者を併せ、利用のハードルを下げてもらうため広報活動をさらに積極的に推進していくことが重要である。 〈参考資料〉 聴覚障がい者スポーツ関連資料一覧 〔書籍(出版年順)〕 (表) 著者 書名 出版社 発行年月 竹内誠治 障害球児の栄光:音なき白球を追って 風媒社 1975年 5月 永井恒 それでもぼくは走る 静岡新聞社 1983年 6月 戸部良也 遥かなる甲子園 双葉社 1987年 7月 小野卓司 廃校の夏.風疹児たちのプレイボール. 講談社 1988年 7月 手話研究委員会編 わたしたちの手話スポーツ用語 全日本ろうあ 連盟出版局 1989年 5月 戸部良也 〔続〕遥かなる甲子園 双葉社 1990年 5月 小野卓司 廃校の夏.難聴児たちの甲子園. 講談社文庫 1991年 5月 西沢佑 新西沢祐のやさしい手話ダンス 大揚社 1992年 10月 宮里孝三 ろう児との出会い「追いつけ、追い越せ」を合い言葉に 自費出版 1995年 3月 石井裕也 サイレント K沈黙のマウンドー野球に生きる横浜商工難聴のエース 日本文芸社 1999年 11月 高橋知秋 風の音は聴こえない エヴァナム 2001年 2月 今田真由美 18歳、青春まっしぐら : 音のない世界に生きる ポプラ社 2001年 4月 柴谷晋 静かなるホイッスル 新潮社 2006年 10月 甲地由美恵 聴こえなくても私は負けない 角川書店 2007年 12月 永井恒 それでもぼくは走り続ける 静岡新聞社 2007年 8月 甲地由美恵 虹を見上げて サンクチュア リ・パブリッシング 2007年 9月 梶下律子 15-ハンディーわが子は耳の聞こえぬテニスプレーヤー 小学館 2009年 7月 山本おさむ 遥かなる甲子園全 10巻完結セット(アクションコミックス) 双葉社 2010年 11月 中村和彦 アイ・コンタクト : もう一つのなでしこジャパン 岩波書店 2011年 10月 小笠原恵子 負けないで! 創出版 2011年 5月 永井恒 だからこそぼくは走り続ける 静岡新聞社 2013年 6月 〔 DVD(出版年順)〕 (表) タイトル 発行者 発行 第 20回夏季デフリンピック・メルボルン大会特集 特定非営利活動法人 CS障 害者放送統一機構 2005年 第 16回冬季デフリンピック・ inソルトレイク 特定非営利活動法人 CS障 害者放送統一機構 2007年 デフリンピック啓発 DVD世界に挑もうろう者だけのスポーツ祭典デフリンピック 財団法人全日本ろうあ連盟ス ポーツ委員会 2010年 聴覚障害者スポーツ啓発 DVD世界ろう者選手権大会 in JAPAN 財団法人全日本ろうあ連盟ス ポーツ委員会 2012年 アイコンタクトもう一つのなでしこジャパン ろう者女子サッカーアイ・ コンタクト制作委員会 2013年 6月 〔デフスポーツ統括団体等 Webサイト〕 ・全日本ろうあ連盟スポーツ委員会 Webサイト http://www.jfd.or.jp/sc/ ・全日本ろうあ連盟スポーツ委員会デフリンピック啓発 Webサイト http://www.jfd.or.jp/deaflympics/ ・国際ろう者スポーツ委員会( International Committee of Sports for the Deaf) Webサイト http://www.deaflympics.com/ 4.体育・スポーツ教育コンテンツ(視覚障害関連) 目的・目標  これまでの調査や本学への相談・支援要請などから鑑みて、高等教育機関に在籍する視覚障害学生に対する体育・スポーツ活動に関し、十分な対応をすることが難しいといった状況がみられる。そこで、全国の高等教育機関に在籍する視覚障害学生の体育・スポーツ活動に関する教育支援の充実に資することを目的として取組を行った。 活動報告  本取組では、次のことを柱とした内容を実施した。 1)この分野に高い専門性を持つ人材(アダプテッドスポーツコーディネーター)の養成 2)視覚障害学生(者)の体育・スポーツ活動に関する情報の収集および提供 3)視覚障害者スポーツの紹介や指導に関する講習会の開催および講師派遣 4)視覚障害学生の体育授業に関する相談・助言・支援実施体制は、本学健康・スポーツ科目担当教員(視覚障害系) 2名および特任研究員 1名 であった。 実績・成果  年度ごとの詳細については本報告の最後に示す。 1)この分野に高い専門性を持つ人材(アダプテッドスポーツコーディネーター)の養成  特任研究員を採用し、当該分野の知識修得・スキル向上を図り、高い専門性を身につけるために、本学健康・スポーツ科目(体育)を学習・実習の中心の場とし、各種視覚障害者スポーツの視察や研修会、さらに障害理解を深めることも不可欠と考え、日本ライトハウスなどが主催する視覚障害に関する講習会・研修会などにも積極的に参加した。  年度進行とともに、事業分担も増え、講習会講師の担当や他大学からの相談にも対応している。 2)視覚障害学生(者)の体育・スポーツ活動に関する情報の収集および提供 ①視覚障害者スポーツに関する情報収集  アダプテッドスポーツコーディネーターによる視覚障害者スポーツの大会を含めた現場視察の際、参加者ならびに大会関係者との意見交換や情報収集を行ってきた。その中で、スポーツへの参加やその継続に関して、練習場所や支援者の確保が難しいこと、経済的負担が小さくないなどの課題が共通して挙げられた。 ②障害学生に対する体育実技についてのアンケート調査  全国の大学・短期大学に在籍する障害のある学生に対する体育実技の現状把握および事例の収集を目的として、全国の大学・短期大学の体育教員を対象にアンケート調査を実施した。  回答が得られた教員のうち、およそ 7割近くが障害学生の体育実技指導について不安を抱いていた。その理由については、教員自身に帰するものとして、障害そのものについての理解不足、障害者スポーツについての情報不足、指導技能や経験不足が挙げられ、それ以外のものとして、施設・設備の障害対応が不十分であることや用具の不足が挙げられた。  視覚障害学生に対する体育実技の内容については、実施種目として、一般の球技系種目や周囲の人・物との接触を伴うような種目は避けられ、サウンドテーブルテニス(視覚障害者向けにつくられた卓球)、筋力トレーニング、ウォーキングやジョギングなどの個人種目が多く見られる傾向にあった。また、いわゆる視覚障害者スポーツが実施種目として積極的に取り入れられている様子はうかがえず、それに関する認知度の低い可能性が考えられた。指導上の工夫や苦慮した点として、視覚障害学生に対しては、動作を見せたり、指示語や擬音語・擬態語などを用いての指導やフィードバックが難しいため、より具体的で詳細な説明の必要性や直接学生の腕をとったり教員自身の動きを触らせることを用いての指導などが挙げられた。  全ての調査結果ならびに詳細については、報告書を作成し、希望のあった大学・短期大学に送付した。 ③視覚障害者スポーツの紹介映像( DVD)の作成  アダプテッドスポーツコーディネーターによる視覚障害者スポーツの大会を含めた現場視察の折、あわせて視覚障害者スポーツのトップレベルの映像を撮影・収集し、それらについて紹介する映像資料( DVD)を 300部作成した。 3)視覚障害者スポーツの紹介や指導に関する講習会の開催および講師派遣  開催した講習会および講師派遣については、平成 27年 1月末までの本事業期間をつうじて、その回数は 23件(うち 2件は、通常授業内で実施する視覚障害者スポーツ体験プログラムに関する相談および立案)、受講者数はのべ 600名を上回っている。プログラムの内容や実施形態については、依頼元との相談により企画立案した。たとえば、依頼元における通常の授業時間内で実施したもの(実施例①~③)、日時内容とも講習会として独立して実施したもの(実施例⑤~⑥)、依頼者が本学を訪問して実施したもの(実施例④)などがあった。(実施例①~⑥については、本項の最後に示す)  講習会の開催および講師派遣に関して、当初はその対象を高等教育機関の教職員を想定していたが、取組の進行とともに、将来の教育や福祉を担うであろう体育学部や教育学部、福祉関係学部の学生にもその対象範囲を広げ、さらに、通常授業時間内での開催など依頼元の希望や状況にあわせた形態で柔軟に実施することを取組方針に加えた。このことで、取組活用に対してのハードルが下がり、活用の幅を広げられたものと考えている。実際、受講学生からも講習先の担当教職員からも好評を得ることができ、複数回の開催や継続的な開催の依頼を受けるに至っている。また、取組活用に対してのハードルを下げるということと同時に、受講対象を前述の学部学生にまで広げた別の意図は、将来的に視覚障害学生(児・者)とかかわる可能性のあるそれらの学部学生にとって、この講習会は実用的なものであるということ、また、 5年先、 10年先を見据えたとき、講習会で知見を広げた学生の増加が、「視覚障害学生(児・者)の体育・スポーツ活動に関する教育支援の充実」というこの取組の最終的な目的を達するために、時間はかかるけれども確実かつ直接的につながっていくとの考えによるものである。  以下に、講習会の具体的な例として、前述した①~⑥の実施例を示す(主担当はいずれも栗原研究員)。 ①筑波大学大学院体育学専攻「アダプテッド体育・スポーツ演習」、筑波大学体育専門学群「アダプテッド・スポーツ演習」 期日:平成 25年 4月 25日、 5月 9日、 6月 20日 会場:筑波技術大学春日キャンパス体育館 対象:筑波大学大学院生ならびに筑波大学体育専門学群生 16名 概略:標記授業全 10回のうち上記日程で、視覚障害者スポーツに関する内容についての講師を務める。「視覚障害者体験とフロアバレーボール」、「ブラインドテニス、サウンドテーブルテニス」では視覚障害者スポーツの体験と指導法に関する講習を実施した。また、「視覚障害者とのスポーツ交流」、視覚障害のある高齢者ならびに支援者とともに、サウンドテーブルテニスを題材としたスポーツ交流を実施した。 写真:視覚障害者とのスポーツ交流の様子 ②筑波大学大学院体育学専攻「アダプテッド・スポーツ科学」 期日:平成26 年1 月9 日 会場:筑波大学総合体育館 対象:筑波大学体育専門学群生を含む155 名 概略:標記授業全5 回のうち上記日程で、視覚障害者スポーツに関する概論と、ゴールボールの実技について「視覚障害者スポーツ(ゴールボール)」の講師を務めた。 (写真) ③筑波大学大学院体育学専攻「アダプテッド体育・スポーツ演習」、筑波大学体育専門学群「アダプテッド・スポーツ演習」 期日:平成 26年 4月 24日、 5月1日、 5月 8日 会場:筑波技術大学春日キャンパス体育館 対象:筑波大学大学院生ならびに筑波大学体育専門学群生 16名 概略:標記授業全 10回のうち、上記日程で視覚障害者スポーツを教材とする「ブラインドスポーツ Ⅰ」、「フロアバレーボール」、「ブラインドテニス・ブラインドサッカー」の回の講師を務め、視覚障害疑似体験ならびに視覚障害者スポーツの体験と指導法に関する講習を実施した。 写真:ブラインドサッカーの様子 写真:フロアバレーボールの様子 ④東海大学からの訪問研修 (聴覚障害関連と合同実施 ) 期日:平成 26年 3月 18日(火) 会場:筑波技術大学春日キャンパス体育館 対象:東海大学体育学部学生内田・吉岡ゼミ 21名、指導教員 2名 概略:東海大学・内田ゼミ、吉岡ゼミの障害者スポーツに関する 2日間の合同勉強会のうち、上記日程で本学保健科学部学生とのスポーツ交流を含めた視覚障害者に対するスポーツ指導法に関する講習を実施した。依頼元より継続の要請があり、平成 27年度も実施予定である。 ⑤障害学生支援交流会第 3回研修会 (聴覚障害関連と合同実施 ) 期日:平成 26年 6月 6日 会場:上智大学四谷キャンパス 概略:研修会の運営スタッフとして参加するとともに、分科会「視覚・聴覚障害学生の体育およびスポーツ活動」の進行を担当した。分科会では、障害学生に対する体育実技に関する全国調査についての話題提供と、参加者とそれぞれの大学における視覚・聴覚障害学生の体育・スポーツ活動に関する現状と課題について情報交換を実施した。 ⑥第 2回大学ゴルフ授業研究会講師派遣 期日:平成 26年 11月 23日 会場:武蔵野美術大学鷹の台キャンパス 対象:大学体育教員 11名 概略:標記研究会において、講演での講師を担当した (演題名:障害者ゴルフと大学体育 )。障害学生に対する体育実技授業や競技スポーツとしての障害者ゴルフの現状を紹介した後に、大学体育での障害学生に対するゴルフ指導に関する事例と今後の展望についての講演を行った。 4)視覚障害学生の体育授業に関する相談・助言・支援  他大学から視覚障害学生の体育授業の内容や指導法に関して相談を受けたり、直接の授業支援を行ったものについて、平成 27年 1月末までの事業期間をつうじて、その件数は 7件であった。相談の範囲については、視覚障害学生の体育授業の内容や指導法に関することのみにとどまらず、障害学生の体育授業への受入態勢の構築に関しても相談があった。  以下に相談例およびそこから支援につながった例を示す。 ①法政大学での弱視学生の体育授業に関する相談 期日:平成 26年 8月 11日 会場:法政大学多摩キャンパス 概略:現代福祉学部所属 1年生の弱視学生の体育実技に関する相談に応じた。障がい学生支援室担当ならびに弱視学生から、前期授業の様子について聞き取りを行うとともに、今後の支援方法についての相談、助言を実施した。 ②法政大学での弱視学生の支援方法に関する講習会 期日:平成 26年 9月 18日 会場:法政大学多摩キャンパス 対象:障がい学生支援室登録学生 1名法政大学体育教員 1名 概略:後期授業での弱視学生の支援を担当する学生を対象に、支援対象の弱視学生本人も交えて、視覚障害に関する概要、弱視学生に対する体育実技の指導・支援に関する概論、後期授業で実施される種目に関する具体的な支援方法についての講義ならびに質疑応答を実施した。 まとめ  これまで本学によせられた支援要請や相談内容を受け、高等教育機関に在籍する視覚障害学生の体育・スポーツ活動に関する教育支援の充実に資することを目的とし、初めに述べた 4つの柱をもとにした取組を展開してきた。 1)この分野に高い専門性を持つ人材(アダプテッドスポーツコーディネーター)の養成  この分野において高い専門性を持つ人材を育てるため、視覚障害者スポーツの視察およびそれに関する講習会への参加はもちろん、障害理解を深めることも不可欠と考え、視覚障害に関する講習会へも積極的に参加した。  その結果、年度進行とともに、事業分担も増え、十分に専門性を備えた人材として、講習会講師の担当や他大学からの支援要請や相談にも単独で対応している。 2)視覚障害学生(者)の体育・スポーツ活動に関する情報の収集および提供視覚障害学生(者)体育・スポーツに関する情報収集や調査およびそれらの提供を行ってきた。 ①視覚障害者スポーツに関する情報収集  視覚障害者スポーツの大会を含めた各種現場視察の際、参加者ならびに大会関係者との意見交換や情報収集を行ってきた。その中で、スポーツへの参加やその継続に関して、練習場所や支援者の確保が難しいこと、経済的負担が小さくないなどの課題をあらためて認識することができた。 ②障害学生に対する体育実技についてのアンケート調査  全国の大学・短期大学に在籍する障害のある学生に対する体育実技の現状把握および事例の収集を目的として、全国の大学・短期大学の体育教員を対象にアンケート調査を実施した。  回答が得られた教員のうち、およそ 7割近くが障害学生の体育実技指導について不安を抱いていることをはじめ、教員のこの分野に関する知識・情報不足、施設・設備の障害対応が不十分であることなど、障害学生に体育実技を実施するにあたっては多くの課題がみられ、その環境はまだまだ整っていない現状が明らかとなった。  視覚障害学生に対する体育実技に関していえば、実施種目として、いわゆる視覚障害者スポーツが実施種目として積極的に取り入れられている様子はうかがえず、それに関する認知度の低い可能性が考えられた。指導上の工夫や苦慮した点として、視覚障害学生に対しては、動作を見せたり、指示語や擬音語・擬態語などを用いての指導やフィードバックが難しいため、より具体的で詳細な説明の必要性や直接学生の腕をとったり教員自身の動きを触らせることを用いての指導などが挙げられた。  今後の取組内容を検討し実施していくうえで、また、各大学において支援や対応を検討するうえで、利用価値のある資料が得られたと考えている。 ③視覚障害者スポーツの紹介映像( DVD)の作成  視覚障害者スポーツの大会を含めた各種現場視察の折、あわせて視覚障害者スポーツのトップレベルの映像を撮影・収集し、それらについて紹介する映像資料( DVD)を 300部作成した。  視覚障害者スポーツを広く知ってもらうために、また競技スポーツとしての視覚障害者スポーツを知ってもらうために活用が望まれる。 3)視覚障害者スポーツの紹介や指導に関する講習会の開催および講師派遣  プログラムの内容や実施形態については、依頼元との相談により、柔軟に対応し企画立案した。本取組に関して、将来の教育や福祉を担うであろう体育学部や教育学部、福祉関係学部の学生にもその対象範囲を広げ、さらに、通常授業時間内での開催など依頼元の希望や状況にあわせた形態で柔軟に対応・実施することを取組方針に加えた。このことで、取組活用に対してのハードルが下がり、活用の幅を広げられたものと考えている。 4)視覚障害学生の体育授業に関する相談・助言・支援  他大学から視覚障害学生の体育授業の内容や指導法に関して相談を受けたり、直接の授業支援を行ってきた。相談の範囲については、視覚障害学生の体育授業の内容や指導法に関することのみにとどまらず、視覚障害学生の体育授業への受入態勢の構築に関しても相談があった。本取組においては、依頼元の状況にあった支援をともに考えるという立場で臨み、依頼元からはそれぞれ肯定的な評価が得られた。  ここまでを振り返って、それぞれの取組については改めてその必要性・重要性が感じられ、支援先からも相当程度の評価が得られたものと自負している。  今期の実績を踏まえ、次期については、基本的に今期の取組にそった内容で実施することを考えている。  今後の展望として、①今期の取組でまとめた全国調査の結果や完成した映像資料について、幅広い活用のために Webでも公開すること、②講習会の開催については、依頼の有無にかかわらず、こちらが主体的・積極的に講習会を開催すること、③体育教員にとって、視覚障害者スポーツの情報や支援を身近で得るための資料集、たとえば各競技団体や障害者スポーツセンターなど関係機関のデータ集を作成すること、などを検討している。 取組内容の詳細について 1)この分野に高い専門性を持つ人材(アダプテッドスポーツコーディネーター)の養成 (この項すべて栗原研究員) [講習会などへの参加] (表) 月日 内容 平成 23年度 10月~ 本学保健科学部開講の健康・スポーツ科目(体育)での学習・実習 1月 28~ 29日、2月 5日 茨城県障害者スポーツ指導者養成講習会 平成 24年度 8月 6~ 8日 視覚障害者リハビリテーション基礎講習会 9月 3~ 4日 ガイドヘルプ技術研修 平成 25年度 4月 27日 第 15回茨城県ゆうあいスポーツ大会フライングディスク競技での競技役員 養成のための研修会 8月 2日 平成 25年度筑波大学公開講座「さまざまな障害の子どもたちの体育指導~ 知的障害児を中心に~」のうち、「視覚障害児の体育指導・実技」聴講 [競技会などの視察] (表) 月日 大会名等 平成 23年度 3月 18日 ニュースポーツ EXPO2012 in 多摩 平成 24年度 5月 27日 ロンドンパラリンピック柔道競技日本代表候補選手選考会 6月 2~ 3日 2012 ジャパンパラ陸上競技大会 7月 15~ 16日 2012 ジャパンパラ水泳競技大会 10月 13~ 15日 第 12回全国障害者スポーツ大会 2月 9~ 10日 2013 ジャパンパラクロスカントリースキー競技大会 3月 20日 さいたま市ノーマライゼーションカップブラインドサッカー国際親善試合 3月 21~ 24日 2013 ジャパンパラアルペンスキー競技大会 平成 25年度 6月 9日 2013日本パラサイクリング選手権・ロード大会 6月 29~ 30日 第 3回 JFVAクラブ日本一決定戦(フロアバレーボール) 7月 12日 中高年視覚障害者クライミング教室 7月 27~ 28日 2013日本パラサイクリング選手権・トラック大会 10月 5~ 6日 スポーツ祭東京 2013(視覚障害者ボウリング) 10月 12~ 14日 スポーツ祭東京 2013(ゴールボール、フライングディスク、陸上競技、サウンドテーブルテニス、グランドソフトボール) 10月 15日 中高年視覚障害者クライミング教室 11月 24日 第 28回全日本視覚障害者柔道大会 1月 27~ 28日 2014ジャパンパラアルペンスキー競技大会 [競技会などでのスタッフ参加] (表) 月日 大会名等 平成 25年度 5月 26日 第 15回茨城県ゆうあいスポーツ大会フライングディスク競技に競技役員として参加 6月 2日 第 15回茨城県ゆうあいスポーツ大会フットベース競技に競技役員として参加 9月 22日 第 51回茨城県身体障害者スポーツ大会フライングディスク競技に競技役員として参加 平成 26年度 5月 25日 第 16回茨城県ゆうあいスポーツ大会フライングディスク競技に競技役員として参加 2)視覚障害学生(者)の体育・スポーツ活動に関する情報の収集(各種競技会などの視察、運営担当者との意見交換、映像撮影を含む)および提供 [情報の収集] (表) 月日 大会名等 平成 23年度 3月 18日 ニュースポーツ EXPO2012 in多摩 平成 24年度 4~ 5月 全国の大学・短期大学対象を対象とした障害学生に対する体育実技についてのアンケート調査(発送は平成 24年 3月) 5月 27日 ロンドンパラリンピック柔道競技日本代表候補選手選考会 6月 2~ 3日 2012 ジャパンパラ陸上競技大会 7月 15~ 16日 2012 ジャパンパラ水泳競技大会 10月 13~ 15日 第 12回全国障害者スポーツ大会 2月 9~ 10日 2013 ジャパンパラクロスカントリースキー競技大会 3月 20日 さいたま市ノーマライゼーションカップブラインドサッカー国際親善試合 3月 21~ 24日 2013 ジャパンパラアルペンスキー競技大会 平成 25年度 6月 9日 2013日本パラサイクリング選手権・ロード大会 6月 29~ 30日 第 3回 JFVAクラブ日本一決定戦 7月 12日 中高年視覚障害者クライミング教室 7月 27~ 28日 2013日本パラサイクリング選手権・トラック大会 10月 5~ 6日 スポーツ祭東京 2013(視覚障害者ボウリング) 10月 12~ 14日 スポーツ祭東京 2013(ゴールボール、フライングディスク、陸上競技、サウンドテーブルテニス、グランドソフトボール) 10月 15日 中高年視覚障害者クライミング教室 11月 24日 第 28回全日本視覚障害者柔道大会 1月 27~ 28日 2014ジャパンパラアルペンスキー競技大会 [情報の提供] (表) 月日 内容 平成 25年度 6月 22~ 23日 第 22回視覚障害者リハビリテーション研究発表大会の視察および本取組に関する広報活動 8月 28~ 30日 日本体育学会第 64回大会での本取組に関する発表 12月 7~ 8日 第 34回医療体育研究会/第 17回日本アダプテッド体育・スポーツ学会第 15回合同大会での本取組に関する発表 12月 17日 平成 25年度障害学生支援セミナー【 7】~第 3回筑波障害学生支援研究会~へのスタッフとしての参加および本取組に関する広報活動 12月下旬~ 1月上旬 全国の大学・短期大学を対象とした障害学生に対する体育実技に関する調査結果の報告書の完成および発送 2月 27~ 28日 第 2回大学体育研究フォーラムでの本取組に関する発表 平成 26年度 8月 26~ 28日 日本体育学会第 65回大会での本取組(前掲全国調査の結果)に関する発表 1月 視覚障害者スポーツ紹介の DVD完成(広がる、世界へ!) 3)視覚障害者スポーツの紹介や指導に関する講習会の開催および講師派遣 (表) 月日 内容 対象者 平成 23年度 3月 31日 視覚障害者スポーツ講習会開催に関する打ち合わせおよびオリエンテーション(担当:天野・栗原) 文教大学教育学部体育専修学生[受講学生数 40名・教員 1名]【場所:文教大学越谷キャンパス】 平成 24年度 4月 26日 視覚障害者スポーツに関する講習会:開講された授業での実施(視覚障害疑似体験および STT)(担当:天野・栗原) 筑波大学体育専門学群特殊体育学専攻学生[受講学生数 15名・教員2名]【場所:筑波技術大学春日キャンパス】 5月 10日 視覚障害者スポーツに関する講習会:開講された授業での実施(フロアバレーボール)(担当:天野・栗原) 筑波大学体育専門学群特殊体育学専攻学生[受講学生数 15名・教員2名]【場所:筑波技術大学春日キャンパス】 6月 視覚障害者スポーツ体験授業に関する相談・立案:開講された授業について( 11、18、 25日実施分)グリッドスタイルでの複数種目実施(担当:天野) 筑波大学体育専門学群生[受講学生数およそ 100名]【場所:筑波大 学】 11月 29日 アダプテッド・スポーツ(視覚障害者スポーツ)紹介とそれを通じてアダプトとは何かを考える講義:開講された授業での実施(担当:天野) 文教大学教育学部学生[受講学生数 82名・教員 1名]【場所:文教大学越谷キャンパス】 12月 22日 視覚障害者スポーツの体験および授業のマネージメントに関する講習会:単独開催(担当:天野・栗原) 文教大学教育学部体育専修学生[受講学生数 11名・教員 1名]【場所:文教大学越谷キャンパス】 平成 25年度 4月 25日 開講された授業(アダプテッド・スポーツ科学演習)での実施(視覚障害疑似体験、フロアバレーボール)(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群および同大学院アダプテッド体育・スポーツ学専攻学生[受講学生 16名、教員 2名、 TA1名] 5月 9日 開講された授業(アダプテッド・スポーツ科学演習)での実施( STT、ブラインドテニス)(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群および同大学院アダプテッド体育・スポーツ学専攻学生[受講学生 12名、教員 1名、 TA1名] 6月 20日 開講された授業(アダプテッド・スポーツ科学演習)での実施(視覚障害者とのスポーツ交流、 STT、卓球バレー)(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群および同大学院アダプテッド体育・スポーツ学専攻学生[受講学生 16名、教員2名] 7月 27日 開講された授業(レクリエーション論)での実施(担当:天野) 九州共立大学スポーツ学部スポーツ学科 4年次[受講学生 46名、教員 3名] 12月 4日 視覚障害者スポーツ体験授業に関する相談・立案:開講された授業(ニュースポーツ)について(体育館内での視覚障害疑似体験およびゴールボール)(担当:天野) 千葉工業大学全学部 1・ 2年次[受講学生数不明]【場所:千葉工業大学】 1月 8日 開講された授業(福祉レクリエーション)での実施(担当:天野) 九州共立大学スポーツ学部スポーツ学科 3年次[受講学生 21名、教員 1 名] 1月 9日 開講された授業(レクリエーション実技)での実施(担当:天野) 九州共立大学スポーツ学部スポーツ学科 3年次[受講学生 27名、教員 2名] 1月 9日 開講された授業(レクリエーション論)での実施(担当:天野) 九州共立大学スポーツ学部スポーツ学科 3年次[受講学生 39名、教員 1名] 1月 9日 開講された授業(アダプテッド・スポーツ科学)での実施(ゴールボール)(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群学生[受講学生 155名、教員 1名、 TA4名] 3月 17~ 18日 訪問研修:聴覚・視覚合同実施(聴覚 17日、視覚 18日)(担当:栗原・天野・香田) 東海大学体育学部(内田ゼミ・吉岡ゼミ合同合宿)[受講学生 21名、教員 2名] 平成 26年度 4月 24日 開講された授業(アダプテッド体育・スポツ学演習Ⅰ)での実施(視覚障害疑似体験、STT)(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群および同大学院アダプテッド体育・スポーツ 学専攻学生[受講学生 16名、教員 2名、 TA1名] 5月 1日 開講された授業(アダプテッド体育・スポーツ学演習 Ⅰ)での実施(フロアバレーボール)(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群および同大学院アダプテッド体育・スポーツ学専攻学生[受講学生 16名、教員 2名、 TA2名] 5月 8日 開講された授業(アダプテッド体育・スポーツ学演習 Ⅰ)での実施(ブラインドテニス、ブラインドサッカー)(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群および同大学院アダプテッド体育・スポーツ学専攻学生[受講学生 16名、教員2名、 TA3名] 6月 6日 障害学生支援交流会第 3回研修会において分科会を担当(視覚・聴覚障害学生の体育と障害者スポーツ)(担当:栗原・中島) 分科会参加者 5名 9月 18日 視覚障害学生の体育授業支援に関する講習会(担当:栗原) 法政大学弱視学生の体育授業に帯同・支援する学生[受講学生 1名、弱視学生本人 1名、教員 1名]【場所:法政大学】 1月 29日 開講された授業(アダプテッド・スポーツ科学)での実施(担当:栗原・天野) 筑波大学体育専門学群学生 3月 16~17日 訪問研修:聴覚・視覚合同実施(担当:栗原・天野・香田) 東海大学体育学部(内田ゼミ・吉 岡ゼミ合同合宿) 4)視覚障害学生の体育授業に関する相談・助言・支援 (表) 月日 内容 対象者 平成 22年度 4~ 3月 全盲学生に対する体育授業についての直接支援(担当:天野) 文教大学において非常勤講師として実施 平成 23年度 7月 2日 全盲学生に対する体育授業についての相談(担当:天野) 東京神学大学・岡田光弘非常勤講師 平成 24年度 4月 2日 全盲学生に対する体育授業についての相談(平成 25年 3月 25日フォローアップ) (担当:天野 ) 東京女子大学・曽我芳枝教授 平成 26年度 4月 6日 視覚障害学生を含む体育授業(健常学生30名、視覚障害 2名、聴覚障害 2名、電動車いす使用 1名の混在型)についての相談( 4月 9日・ 25日に再度の相談および授業経過報告など)(担当 :天野) 和光大学・後藤肇非常勤講師 8月 11日 弱視学生に対する体育授業についての相談(担当:栗原) 法政大学・越部清美准教授、佐藤千夏障がい学生支援室担当 10月 2日~(継続中) 弱視学生に対する体育授業についての直接支援(担当:栗原) 本学産業技術学部 10月 23日 学内での障害学生支援体制づくりに関する相談(平成 27年 2月 9日往訪、継続中)(担当:天野) 長崎大学・高橋浩二准教授 Ⅲ.アカデミック・アドバイス提供体制の整備 目的・目標  英語をはじめとする外国語は、多くの大学で必修科目でありながら、聴覚障害学生が最も受講に困難を感じる科目である。聴覚障害者に初めて接する場合は指導者側にも戸惑いがあり、学生にどのように接したら良いか、聞こえないことについてどう対処したら良いか、授業にどんな工夫が必要か、全くわからないまま授業が始まってしまう。本取組では、全国の高等教育機関における語学関連の授業担当者ならびに聴覚障害学生に対して助言指導を行うアカデミック・アドバイザーを配置した。これにより、授業における教育指導の方法や障害特性に応じた学習方法について専門的なアドバイスを提供することで、聴覚障害学生への語学教育の質の保証を目指して取り組んできた。 活動報告  本学において語学関連科目(英語、アメリカ手話)の授業を担当する専任教員のほか、英語非常勤講師を本取組専任のアカデミック・アドバイザーとして配置し、他大学の教職員および聴覚障害学生からの相談に対応した。  このほか、アドバイスとなる情報の発信と共有を目的として、アドバイスコンテンツを作成し、語学教育に関する協議会・シンポジウムを開催した。  また、今後を見据えた情報収集の一環として、全国の大学に在籍する聴覚障害学生を対象とした英語の受講状況に関するアンケートの実施や、国内外の大学における語学指導の事例収集を行った。 実績・成果 1)アドバイスの実施 ①相談対応  アドバイスの実施はアカデミック・アドバイス提供体制の核を成すものである。具体的なアドバイスの実施として、面談やメールでのやり取りをとおして 45件( 30大学)の相談に対応した。 1大学から複数の相談を受ける場合もあり( 1名の学生に関する複数内容の相談、複数名の学生それぞれに関する相談等)、対象者および相談内容ごとに 1件として記録した。相談の中には情報提供など 1回の対応で終了した事例や、一方で、数か月にわたり継続して対応した事例もあった。  本取組に寄せられた相談のうち、情報保障や聴力・補聴に関連する内容については、本学の補聴相談担当教員や本学に事務局を置く PEPNet-Japanと連携を図り、対応にあたった。また、語学に特化した相談窓口の開設について障害学生支援関連のメーリングリストで発信したり、 PEPNet-Japanのシンポジウムでポスターを設置するなど、広報に努め周知を図った。 主な相談内容は以下のとおりである。 【教員から】 ・英語および初修外国語の発音指導について ・英語教員になった聴覚障害者を紹介してほしい ・英語能力検定試験における聴覚障害学生への措置や配慮 ・英語でプレゼンテーションを行う際の発表方法 ・難聴学生の英語の Lip reading能力を伸ばす方法 ・難聴学生の Listeningの情報保障について ・留学や短期海外研修に関する情報について ・アメリカ手話について(代替措置、講師紹介) ・指導教材に関する情報について 【障害学生支援室から】 ・ネイティブ教員の授業におけるノートテイクの表記法(英語で書くべきか) ・盲ろう学生の代替措置について ・聴覚障害学生のアイデンティティ確立と Oral・ Listeningの受講について 【学生から】 ・英語の教員を目指しているのでアドバイスが欲しい ・英語の読話が難しいことを大学に理解してもらうための説明方法 ・英語ができるパソコンテイカーの募集の仕方 ・Oralの授業を受講したい ②アドバイスコンテンツの作成  これまで相談に対応する中で、複数の大学から同様の相談が寄せられることがあり、当該内容について他大学からの関心の高さがうかがえた。そのような内容をテーマとして採り上げ、これまで本学・本事業が蓄積してきた事例や相談内容を基に、テーマごとにシートとしてまとめたアドバイスコンテンツ「聴覚障害学生のための語学関連 Tips」の作成に着手した。現在、テーマ名「英語の技能試験における特別措置」のシートが完成しており、今後下記のテーマについてもまとめ、発信していきたい。 【「聴覚障害学生のための語学関連 Tips」テーマ案】 ■英語の技能試験における特別措置(作成済み) ■語学授業における情報保障について ■海外留学について ■英語の教員になるために ■代替措置としてのアメリカ手話 ■初修外国語の指導と支援について ■聞こえる学生との等価評価について 2)語学の指導に関する事例収集  アドバイスを実施する際の参考となる情報の蓄積を目的として、国内外の大学における語学指導に関する事例を収集した。 ①海外視察  聴覚障害者の高等教育の先達であるアメリカやヨーロッパにおけるアカデミック・アドバイスの取り組み状況について、以下 5大学の視察を行った。視察により得た知見は以下のとおりであった。 (表) 実施時期 対象 概要 平成 23年度 2月 アメリカ:カリフォルニア州立大学ノースリッジ校 全米ろうセンター (NCOD)、障害者教育サービス (DRES)、教育機会学習 (EOL)、大学カウンセリングサービス (UCS) 各組織の複数のカウンセラーやアドバイザーと面談。学業支援のシステム、ろう・難聴学生のサポートシステムについて。ろう・難聴学生に対しては NCODが重要な役割を果たし、各組織が連携して対応しているとのこと。 アメリカ:オーロニカレッジ ①ろう者学部の教員およびカウンセラーと面談。アカデミック・アドバイスとして、一般クラスの受講や卒業後の進路に関する相談等にカウンセラーが対応。②日本人留学生 2名と面談。アドバイスの事例について。成績評価に関して教授との交渉の際にカウンセラーに間に入ってもらったことがある、カウンセラーの存在は学業に欠かせないとのこと。 3月 アメリカ:ギャローデット大学 学内のアカデミック・アドバイス制度について、ディレクターと面談。 6名のスタッフと 1名の事務職員で全学生 (主に新入生 )に対応し、学業相談からキャリア支援まで担当しているとのこと。 アメリカ:国立ろう工科大学 (NTID) カウンセリングサービス主任と面談。アカデミック・アドバイザーは在籍学生のみならず、入学予定の生徒に対しても、障害の理解、自立、進路、大学での人間関係作り等、夏休みを利用して指導しているとのこと。 平成 24年度 3月 チェコ:カレル大学 英語教授学主任と面談。聴覚障害学生の語学指導について。主に難聴の学生を指導しており、補聴器である程度音声を聴取できる学生を対象に特別クラスを設け、指導しているとのこと。  以上 5件の視察から、本事業のような他大学に対する支援に関するアカデミック・アドバイスは異質であることがわかった。本学においても、むしろ学内の学生に対するアカデミック・アドバイザーが設置されるべきではないかと思った。本学では平成 25年度からアカデミック・アドバイス制度が導入され、ほとんど全教員が 4~ 5人程度の学生のアドバイサーとなることになった。しかしながら米国のように資格のあるアカデミック・アドバイザーの配置には至っていない。 ②大学訪問(特別支援学校を含む)実施内容は以下のとおりである。 (表) 実施時期 対象 概要 平成 23年度 11月 関東:特別支援学校(聴覚障害 ) 大学入学前の英語指導について (高等部 2年生・ 3年生の授業 参観を含む )。 2月 北海道:私立大学 英語教員 5名、支援担当教職員 5名と面談。各講座での指導・情報保障の状況、支援体制(提起~対策決定までの流れ、学内部署間の連携等)について。 平成 24年度 1月 関東:国立大学 支援担当教員 2名、外国語関連 (技術系 )職員 1名と面談。支援体制 (支援室の役割、学生チューター、教員との連携、フォロー等 )、語学授業における支援の事例、語学専門施設の役割と教員側の配慮事例について。  ほとんどの卒業生を高等教育機関に進学させている特別支援学校高等部(関東)の教員からは、具体的な情報提供を受けた。また、私立大学(北海道)への訪問については、事前に多くの相談を受けていたため、アドバイスの実施を兼ねて面談を行った。様々な立場の教職員が一堂に会し、多面的に情報を収集することができた。一方、国立大学(関東)については、障害学生支援において先進的な取り組みを実施しており、事前に同大大学院の学生から、英語による講義の支援に関する相談を受けていたこともあって、状況調査に出向いた。  これらの訪問から得た知見について、アドバイスに活かすことができた。 ③集会への参加④来訪者へのインタビュー (表) 実施時期 場所 集会名等 平成 23年度 9月 筑波技術大学 PEPNet-Japan主催「平成 23年度聴覚障害学生エンパワメント研修会」 (教職員向けプログラムの一部 )東北:国立大学 (1大学 )、近畿:私立大学 (2大学 )の情報収集。 平成 24年度 7月 シンガポール 「第 11回アジア太平洋地域聴覚障害問題会議」口頭発表 12月 愛媛大学 PEPNet-Japan主催「第 8回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム」関東:国立大学 (1大学 )、私立大学 (1大学 )、中部:国立大学 (1大学 )、近畿:私立大学 (1大学 )の情報収集。 平成 25年度 12月 群馬大学 PEPNet-Japan主催「第 9回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム」関東:国立大学 (1大学 )、私立大学 (1大学 )の情報収集。 ④来訪者へのインタビュー (表) 実施時期 対象 概要 平成 23年度 9月 関東:特別支援学校(聴覚障害 ) 高等部教諭 2名と面談。同校で実施している卒業生の追跡調 査の報告を基に、現在卒業生が在籍している 19大学の対応について情報を聴取。総評として、「試面談時に発話の明瞭さを見られ、明瞭であると大学側の対応が 180度違う」、「入学後に、聴覚障害学生同士・支援者との出会いにより、コミュニケーション手段・情報保障に対する価値観の転換や葛藤が起きる」とのこと。 3月 中部:私立大学 英語非常勤講師 1名と面談。聴覚障害学生クラスにおける英語指導、アメリカ手話の指導について。 平成25 年度 5月 中部:私立大学 英語教員 1名と面談。同校で開設されているアメリカ手話の授業の詳細と今後の展望、アメリカ手話が選択科目として認められた経緯、シラバス構成、日本手話が開設される可能性、近隣大学との単位互換の可能性について。 平成 26年度 11月 中部:国立大学 英語教員 3名、特別支援教育関連教員 1名と面談。聴覚障害学生の英語教育の状況、学内の支援体制について。 3)英語の受講状況に関するアンケートの実施  アドバイスの実施にあたり、現時点での支援体制の全体像を知る必要があると考え、英語受講時の情報保障に関するアンケート調査を行った。  本調査は全国の高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生を対象として、英語の授業を受講する際の配慮等の実態を把握し、より良い授業方法について模索することを目的として実施した。また、結果を高等教育機関にフィードバックすることで、情報の共有を目指した。  調査方法としては、 PEPNet-Japan連携大学の障害学生支援室や、聴覚障害学生懇談会、筑波大学附属聴覚特別支援学校の協力を得て、アンケート用紙を郵送またはメールにて送付し、障害学生支援室や聴覚障害学生個人から郵送またはメールにて回答してもらう形とした。平成 23年 11月から平成 24年 1月までの間に、 265名に発送し、 63名からの回答を得た。  本アンケートにおける着眼点は下記のとおりである。 ■情報保障の有効性:情報保障手段を23 項目に分類した上で、実際に受けた支援について回答するとともに、「受けた手段で効果的だったもの」「受けたかった支援」について順位を付けて回答 ■学生の自主性:「受講の際に工夫した点」「大学や教員に要求したこと」の記述 ■学生の満足度:「授業で楽しかったこと」「評価方法への満足・不満足」の記述 本調査の結果について、本学テクノレポートにおいて 3回に分けて発表した。各レポートでの発表の概要について、以下に記す。 ①「一般大学に学ぶ聴覚障害者の英語受講時の情報保障に関するアンケート調査-英語科目の受講状況と読解( Reading)における情報保障の実態-」 筑波技術大学テクノレポート Vol.20 No.1 (2012年 12月 ) http://hdl.handle.net/10460/1126 【情報保障手段の分類 23項目】 ■教員からの配慮: 板書、聞取り問題の文字化、席の配置に配慮、パワーポイント使用、補助プリント、説明・指示の文字化、プロジェクター表示、対面個別指導、個別添削、個別に訳の配布、発音指導、英文に振り仮名、伝達の確認、ゆっくり話す ■授業支援者の配置: ノートテイク、PC ノートテイク、手話通訳、テープ起こし、字幕付きVTR ■支援機器の利用: FM マイク、音声認識機器、アメリカ手話付きVTR 【Reading科目の支援項目 (教員の配慮 )内訳】 (表) 回答数 項目 (複数回答あり) ノートテイク 32( 48%) PCノートテイク 12( 18%) FMマイク 8( 12%) 字幕付き VTR 7( 10%) 手話通訳 5 ( 7%) テープ起こし 2 ( 3%) 音声認識機器 1 ( 2%) 【Reading 科目の支援項目(教員の配慮)内訳】 (表) 回答数 項目(複数回答あり) 板書 41( 19%) 席の配置に配慮 30( 14%) 補助プリント 22( 10%) 聞取り問題の文字化 21( 10%) 伝達の確認 21( 10%) 説明・指示の文字化 20 ( 9%) ゆっくり話す 16 ( 8%) 対面個別指導 9 ( 4%) 英文に振り仮名 8 ( 4%) パワーポイント使用 7 ( 3%) 個別添削 7 ( 3%) 個別に訳の配布 7 ( 3%) プロジェクター表示 4 ( 2%) 発音指導 3 ( 1%) ②「一般大学に学ぶ聴覚障害者の英語受講時の情報保障に関するアンケート調査 -「読解」と「英会話」科目における情報保障支援の比較とその有効性-」 筑波技術大学テクノレポート Vol.21 No.1(2013 年12 月) http://hdl.handle.net/10460/1201 【 Readin科目における支援項目の有効性と希望率】◎は希望率 10%以上の項目 (表) 支援数多/有効性高 ◎ノートテイク、◎板書、◎補助プリント聞取り問題の文字化 支援数多/有効性低 ◎説明・指示の文字化、◎伝達の確認、席の配置に配慮 支援数少/有効性高 ◎パワーポイント使用、手話通訳、音声認識機器、 ◎ PCノートテイク、英文に振り仮名、◎字幕付き VTR、対面個別指導 支援数少/有効性低 ◎ゆっくり話す、 FMマイク、◎訳の配布、プロジェクター表示、個別添削、発音指導、テープ起こし 【英会話科目における支援項目の有効性と希望率】◎は希望率 10%以上の項目 (表) 支援数多/有効性高 ◎説明・指示の文字化、◎ノートテイク、◎聞取り問題の文字化、補助プリント 支援数多/有効性低 板書、席の配置に配慮、◎伝達の確認、ゆっくり話す 支援数少/有効性高 ◎アメリカ手話付き VTR、対面個別指導、訳の配布、◎手話通訳、個別添削、発音指導 支援数少/有効性低 FMマイク、 ◎ PCノートテイク、◎英文に振り仮名、パワーポイント使用、字幕付き VTR、テープ起こし、プロジェクター表示 ③「一般大学に学ぶ聴覚障害者の英語受講時の情報保障に関するアンケート調査 -英語科目の支援体制および学生の自主性からみた選択肢の広がり-」 筑波技術大学テクノレポート Vol.22 No.1(2014年 12月 ) http://hdl.handle.net/10460/1271 【今後の語学科目指導・支援への提案】 ・画一的支援からの脱却=課目特性に合った支援 ・「英会話」の支援体制構築から他課目への応用 ・聴覚障害学生・教員・支援者・支援室間の連携 ・語学科目のバリエーション(※)へ挑戦 ※アンケートの結果、英語関連科目として開設されている科目は受講数が多い順に「読解」、「英会話」、「プレゼンテーション」、「TOEIC 対策」「Writing」、「Business English」、「現代英語」、「アメリカ手話」、「コミュニケーション」、「工業英語」、「Listening」、「Freshman English」と総数12 になった。12 科目中、聴く・話すことを中心とする科目や授業の一部にその技能が必要とされる科目は2/3 にあたる8 科目となり、聴く・話す両技能に限界を抱える聴覚障害学生の情報保障では問題が更に複雑化している。  アンケートの結果については、テクノレポートでの発表のほか、シンガポールで開催された第 11回アジア太平洋地域聴覚障害問題会議( The 11th Asia-Pacific Congress on Deafness)において“ Situation of the deaf English learners at colleges in Japan”と題して口頭発表を行うとともに、第 8回および第 9回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムにおいてポスター発表を行った。 4)研究協議会およびシンポジウムの開催  語学に特化したアカデミック・アドバイス体制を整備するにあたり必要な知見を得るため、有識者を招いた協議会を 4回開催し、他大学の語学授業における指導・支援方法について情報の蓄積を図るとともに、体制整備の方策について参加者とともに討議を行った。  さらに、これらの情報を広く発信・共有することで、今後の語学教育において聴覚障害学生の修学環境の向上に資することを目的として、平成 26年度に「語学教育のイコールアクセスを考えるシンポジウム~聴覚障害学生の語学授業をめぐって~」を開催した。  協議会各回およびシンポジウムの概要について、次頁に示す。 <協議会一覧>※発表者の肩書きは開催当時 (表) 開催日/場所/人数  プログラム 【第 1回】平成 23年 8月 9日筑波技術大学 8名 ・研究発表「二次元ドットコードを活用した障害者英語教育情報保障について」日本福祉大学 馬場景子氏 ・事例報告①「 T-TAC(筑波聴覚障害学生高等教育テクニカルアシストセンター)の相談事例について」筑波技術大学 中島亜紀子 ・事例報告②「聴覚障害学生の英語指導における課題について」筑波技術大学 細野昌子 ・事例報告③「日本福祉大学における聴覚障害対応クラスでの英語指導について」日本福祉大学 馬場景子氏 ・本取組の方向性についての討議 【第 2回】平成 24年 3月 14日筑波技術大学 9名 ・研究発表①「筑波大学附属聾学校卒業生の大学における語学講義の受講について」筑波大学附属聴覚特別支援学校高等部 高田史子氏 ・研究発表②「高等教育における英語教育に関するアンケート調査報告」筑波技術大学 細野昌子 ・研究発表③「群馬大学における大学院での研究と学部生の英語学習状況」群馬大学大学院教育学研究科専門職学位課程 秋山奈巳氏 ・研究発表④「言語習得における二次元コードの可能性」日本福祉大学 馬場景子氏 ・視察報告「アメリカの大学におけるアカデミック・アドバイス体制について」筑波技術大学 松藤みどり、須藤正彦 ・アカデミック・アドバイス提供体制の在り方や今後の展開についての討議 【第 3回】平成 25年 2月 15日日本福祉大学名古屋キャンパス 15名 ・講演「音のない大学英語」名古屋学院大学 ウィリアム・ J・ハロフスキー氏 ・事例報告①「日本福祉大学での聴覚障害学生英語クラスの変遷と今後の展開」日本福祉大学 馬場景子氏 ・事例報告②「アカデミック・アドバイザーとしての活動」筑波技術大学 細野昌子 ・聴覚障害学生の語学指導の在り方についての討議 ・公開シンポジウムの開催についての協議  写真:事例報告の様子 写真:討議の様子 【第 4回】平成 26年 2月 17日筑波技術大学 11名 ・事例報告①「筑波大学における英語関連の支援」筑波大学 有海順子氏 ・事例報告②「 Making English Classes Audible」宮城教育大学 リース・エイドリアン氏 ・事例報告③「 Lip-readingに役立つ発音法の指導」東京都立中央ろう学校および葛飾ろう学校非常勤講師 三澤かがり氏 ・聴覚障害学生の語学指導と情報保障の在り方についての討議 (写真) <「語学教育のイコールアクセスを考えるシンポジウム~聴覚障害学生の語学授業をめぐって~」開催概要> (表) 開催日/場所/人数  プログラム 平成 26年 9月 27日日本福祉大学名古屋キャンパス 48名 ・事例報告①「聴覚障がい学生在籍クラスでの語学授業実践報告-その工夫と課題」札幌学院大学 大池京子氏 ・事例報告 ②「 DHH学生のためのコンピューターを使用した語学指導」宮城教育大学 リース・エイドリアン氏 ・英語の技能試験における聴覚障害者対応に関する説明[説明担当]一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会公益社団法人日本工業英語協会 ・事例報告③「聴覚障害学生への英語教育~グローバル化とイコールアクセスの視点から」日本福祉大学 馬場景子氏 ・大学・大学院で受けた語学授業の体験談 愛知県立名古屋聾学校 藤原美里氏 株式会社 NTTドコモ 桑原暢弘氏 ・アカデミック・アドバイザー活動報告 筑波技術大学 細野昌子 ・発表者全員によるパネルディスカッション 写真:アカデミック・アドバイザー  写真:パネルディスカッションの様子活動報告の様子 まとめ  JASSOの調査では、平成 25年 5月の時点で 1,609名の聴覚障害学生が大学、短期大学、高等専門学校に在籍していることがわかっている。このうち本学に在籍する 200余名を除いた約 1,400名が、一般の高等教育機関で学んでいることになる。平成 17年度の調査では全体で 1,158名、本学の 150余名を除けば一般大学の在籍者は約 1,000名であった。 9年間で約 1.4倍に増加したことになる。語学は聴覚障害が最も重大な障害になる科目の 1つであり、多くの高等教育機関で必修科目であることから、多くの学生が最も支援を必要とする科目であるといえる。  大学に進学する聴覚障害学生の数の増加により、幅広い学部・学科で学ぶ学生が増え、学生の語学に対するニーズや要望も多岐に渡るようになった。英会話も含めて聞こえる学生と同等の授業を受けたいと望む学生もいれば、同等の評価を得るためにアメリカ手話も含めた代替措置を望む学生もいる。教員側としては、日本語を含めた基礎学力のない学生をどう指導したら良いかという悩みも出てきている。  外国語科目特有の問題として、英語も初修外国語も入学してすぐに授業が開始することが多く、外国人教員や非常勤講師が担当することも多いので、学生にとっては事情を話す機会が得られにくいことが挙げられる。教員が聴覚障害を理解し、授業のやり方を工夫することによって聴覚障害学生が受講しやすくなることがアンケート調査の結果から明らかになったが、非常勤講師にどこまで対応を求めることができるかも「合理的配慮」の観点から今後検討されるべき課題となるであろう。  学生に対しては、特別支援学校高等部や高等学校の段階で、受験指導だけでなく入学してからどうするかについても指導する必要が出てきている。一例ではあるが、高等部の教員が進学先へ出向いて「難聴疑似体験」を実施することによって、参加した学生や教職員の「聴覚障害に対する理解」を深めることができたという報告もある。  各大学にアカデミック・アドバイザーが配置され、聴覚障害だけでなく、あらゆる障害学生に対応できる体制の整備が望まれる。その体制が完備するまでの間、本学はこの 4年間に得た知見をもとに、今後も他大学に対するアドバイスを行う。 Ⅳ.情報保障技術の提供 1.パソコンノートテイカーの養成 目的・目標  近年聴覚障害者の大学進学率はおおむね高くなる傾向があり、 JASSOの調査でも約 1,600人の聴覚障害学生が約 300校の高等教育機関に在籍しており、そのうちおよそ半数の約 150校でノートテイクのサポートが行われていることが分かっている( JASSO:平成 25年度大学、短期大学および高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書)。  聴覚障害学生が受講する講義では、ほかの学生と同等の情報を受け取ることができるように情報保障の取組が行われる。この情報保障とは、場を共有するすべての人が「同時に・同質の・同量の」情報を得て、その場に参加できるようにするための活動のことをいう。聴覚障害学生に対する情報保障のうち、多くの大学で用いられているのが、手書きもしくはパソコンを用いて行われる PCノートテイク(以下、「 PCノートテイク」)である。 PCノートテイクとは、パソコンを用いて教員の発話内容を入力し、聴覚障害学生に提示する方法である。  本取組では、聴覚障害学生の支援体制の充実を目指し、他大学で開催される PCノートテイク講習会や研修会への講師派遣を行った。講習会の内容は、 PCノートテイクを基礎から学び、聴覚障害学生のサポートができる支援スキルをもつ人材を養成することを目的としてカリキュラムの作成を行った。  また、本取組では、本学で PCノートテイクを行う人材も養成している。学内で支援活動をする PCノートテイカーを養成する講座では、実践を中心としながらも、少ない回数で基礎的な知識や技術が習得できるように、カリキュラムや教材を作成した。これを本取組の主な目的である、全国の高等教育機関で開催する PCノートテイク講習会等でも使用することで、実際の講義支援に入る前に必要な知識や技術が効率よく習得できることを目指した。  そのほか、 PCノートテイクの導入に関するハード、ソフト両面について、アドバイスを提供してきた。 活動報告 本取組では、下記を中心として実施してきた。 1)他大学における PCノートテイク講習会・研修会等への講師派遣 2) PCノートテイク導入に関する相談対応 3)学内における PCノートテイカー養成講座の開催 4) PCノートテイクにおける連係入力の評価方法検討 実績・成果  実績については、活動報告 1)~ 4)に基づき、下記に示す。 1)他大学における PCノートテイク講習会・研修会等への講師派遣  他大学で開催される PCノートテイクを基礎から学ぶための講習会へ講師を派遣するとともに、教職員を対象とした FD/SD研修会へ講師派遣を行った。  派遣件数、内容、各回の時間等については下表に示す。  本事業を開始してから 3年目より講習会への講師派遣の依頼が増加している。このことから、 PCノートテイクのニーズが高まってきたことがうかがえる。  PCノートテイク講習会への講師派遣の際には、講習会の時間や準備可能な機材を確認するとともに、習得したい技術や講習会終了後の活動の目標についてもヒアリングを行い、なるべく実施時間内で必要となる基礎的な技術を習得できるようにカリキュラムを作成し、講習会前に派遣先の依頼者に確認を行うこととした。  講習会の場には、手書きや PCノートテイクなどの情報保障を利用している学生(聴覚障害学生)の参加を依頼した。受講生が入力している様子を見てもらい、その感想を発表してもらうことで、受講生の情報保障や支援に関する意識の向上を目指した。 平成 24年度 2件 (表) 地域・区分 内容 講師 参加者等 近畿・国立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 1名、アシスタント 1名(注 1) 〇受講生 15名 中部・大学コンソーシアム 〇聴覚障害学生支援のための FD/SD研修会〇テーマ「 PCノートテイクについて -遠隔情報保障支援システムを中心に -」 〇講師 4名(注 2) 〇参加者 20名 平成 25年度 2件 (表) 地域・区分 内容 講師 参加者等 関東・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 3名(注 3) 〇受講生 16名〇利用学生 2名 中部・私立大学 〇聴覚障害学生支援のための FD/SD研修会〇テーマ「聴覚障害学生に対する合理的配慮をめざして」のうち「 PCノートテイクを導入した支援方法等について」を担当 〇講師 3名(注 4) 〇参加者 12名 平成 26年度 7件 (表) 地域・区分 内容 講師 参加者等 関東・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 2名(注 5) 〇受講生 15名〇利用学生 1名〇利用学生への手話通訳(学生) 1名 関東・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 1名 〇受講生 10名〇利用学生 1名 関東・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 1名 〇受講生 15名〇職員 2名〇利用学生 1名 関東・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 1名 〇受講生 15名〇利用学生 1名〇アシスタント(学生) 2名 関東・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 1名 〇受講生 8名〇利用学生 1名〇利用学生へのノートテイク(学生) 1名 関東・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 1名 〇受講生 14名〇利用学生 2名 中部・私立大学 PCノートテイク講習会 〇講師 1名 〇受講生 20名 (注 1)講師は、本学教員が担当し、本事業からはアシスタントとして派遣を行った (注 2)講師 4名のうち、 3名は本学の教員(うち 1名は筑波聴覚障害学生高等教育テクニカルアシスタントセンター(以下「 T-TAC」)より派遣)が担当した (注 3)講師 3名のうち、 1名は本学の教員、 1名は技術補佐員(いずれも T-TACより派遣)が担当した (注 4)講師 3名のうち、 2名は本学の教員(うち 1名は T-TACより派遣)が担当した (注 5)講師 2名のうち、 1名は技術補佐員( T-TACより派遣)が担当した (図) 講習会・研修会で使用した資料(例) 2) PCノートテイク導入に関する相談対応  これまで PCノートテイクを実施したことがない大学からの相談に対応したほか、講座運用のアドバイス、基本的な必要機材等に関する相談対応を行った。  多く寄せられたのは「 PCノートテイク講習会実施時の開催時間や回数はどのくらいか」という質問だった。講習会開講の際には、受講生の負担を考えて、 3時間程度を設定している。この場合、使用するソフトの基礎的な使用方法から連係入力の基本までを学ぶことを目的としているため、実際の支援活動を行うまでには練習会や研修会等の実施が必要になる旨も併せてアドバイスを行った。  このほか、 PCノートテイクを実施する際に必要となる機材(パソコンの種類および台数)についても質問があった。連係入力を行うソフトウェア IPtalk(注 1)は Windows OSで作動するため、今後の支援で連係入力を行うことを考慮し、 Windowsのノートパソコンの購入を推奨した。また、周辺機器として、電源タップ、 LANケーブルやハブも併せて購入する必要がある旨、アドバイスを行った。ノートパソコンの台数としては、支援学生(入力者)用として 2台が必要となる。利用学生(聴覚障害学生)用としては、利用学生が支援学生の前の席に座るなど、席が少し離れる場合には、利用学生のためのノートパソコンが別途必要となるため、 3台のノートパソコンが必要となる。利用学生への提示方法を図( 1, 2)に示す。 (図) 図 1.入力用PCのみ 利用学生は入力用PCで字幕を読む (図) 図 2.入力用PC+表示用PC1台 利用学生と支援学生の席が離れてもよい  また、これまでは手書きノートテイクで情報保障を行ってきたが、 PCノートテイクの導入も検討しているという大学から、 PCノートテイクのメリットについても問合せがあった。手書きノートテイクの場合、話者の発話の約 3割を情報として提示することが可能である。一方、 PCノートテイクでは、 2人 1組で入力することによって、慣れてくると話者の発話の約 8割(注 2)の情報を提示することが可能となる。また、技術が習熟した入力者であれば、全文に近い形での字幕表示や、ある程度要約した文章での字幕表示など、利用学生のニーズに応じた支援が可能となる。  デメリットとしては、機材の導入のコストがかかること、支援学生の養成に一定の時間を要することなどについても、併せてアドバイスを行った。  一方、数式・図形などが多く用いられる場合は、指し示しながらの情報保障が可能となるため、手書きノートテイクが有効になることもある。新たに PCノートテイクを導入する場合でも、これまで行ってきた手書きノートテイクと併用することによって、講義形式や学生のニーズにより情報保障手段を変更することが可能となり、より柔軟で幅広い支援を実施できる可能性が広がることについてもアドバイスを行った。 (注 1) IPtalkとは、パソコンを使い、リアルタイムに文字を入力する、事前に準備した文章を表示することで、聞こえに障害のある方のコミュニケーションを助ける情報保障(パソコン文字通訳、パソコン要約筆記、 PCノートテイクなど )用のソフトである。( http://www.geocities.jp/shigeaki_kurita/より引用) (注 2)話者の話を PCノートテイカーが入力する際、無機能語(話し言葉を文章化する際、削除しても解釈に影響を及ぼすことのない言葉)や繰り返し語は入力しないことが多い。また、発話から入力、字幕表示を行うまでの流れの即時性を保つために、大意を変えずに要約や短い表現への言い換えを行う。話しことばを全て文字化した文字数の約 8割を文字として提示することが可能であるが、表示しない 2割は要約・言い換えを行った結果、省かれた言葉を指すことから、 2割の情報の欠落とはいえない。 3)学内における PCノートテイカー養成講座の開催  本学で開講される非常勤講師が担当する講義においては、 PCノートテイクによる文字通訳を行っている。担当する科目数が増加の傾向にあることから、学内で PCノートテイクを行う支援者を養成する講座を開講した。  実施時期や開催回数、申込・受講人数、講座修了者数( =現支援者数)を下記に示す。 平成 23年度 (表) 実施時期 講座開催回数 申込・受講人数 修了者数 平成 23年 6月~ 9月 〇ガイダンス( 1回)〇講座 3時間×15回 〇申込 42名〇受講 17名 〇 6名 平成 24年度 (表) 実施時期 講座開催回数 申込・受講人数 修了者数 平成 24年 11月~平成 25年 2月 〇ガイダンス( 1回)〇講座 3時間×15回 〇申込 12名〇受講 8名 〇 6名 平成 25年度 (表) 実施時期 講座開催回数 申込・受講人数 修了者数 平成 25年 6月~ 9月 〇ガイダンス( 1回)〇講座 3時間×8回 〇申込 10名〇受講 6名 〇 3名 平成 26年 1月~ 2月 〇ガイダンス( 1回)〇講座 3時間×6回 〇申込 8名〇受講 6名 〇 4名 平成 26年度 (表) 実施時期 講座開催回数 申込・受講人数 修了者数 平成 27年 1月~ 2月 〇ガイダンス( 1回)〇講座 3時間×4回 〇申込 11名〇受講 6名 〇 3名  講座開講の際には、タウン誌や近隣自治体の広報誌に「受講生募集」の広告を掲載するほか、本学のホームページにもニュースとして掲載した。広告・ニュースには、受講要件として「 Windowsのノートパソコンの操作および文字入力に慣れていること( 100~ 120文字 /1分間)」とし、講座初回のガイダンス時には受講要件の確認を行う旨を記載した。併せて、講座修了後の支援活動としてパート雇用をする場合がある旨についても記載し、教養講座ではなく修了後の活動につながる講座であるというイメージを持たせた。  ガイダンスでは、「聴覚障害と情報保障」( 30分程度)、「 PCノートテイクとは」( 20分程度)をテーマとして学ぶほか、受講要件の確認を行った。方法としては、タイピングソフト(フリーソフト)を使用して、タイピングのスコアおよびガイダンスにおける理解度をレポートとして提出させた。受講要件を満たしていない申込者に対しては受講の継続が難しい旨を伝え、講座の進行に支障がないようにした。  「聴覚障害と情報保障」を学ぶ際には、情報保障や支援に関する意識を高めることができるように、本学の学生(聴覚障害学生)に協力を依頼した。学生には、自身の聞こえの状態や情報保障の必要性を伝えてもらうとともに、 PCノートテイクに関する要望についても意見を聴取した。 (写真) 4) PCノートテイクにおける連係入力の評価方法検討  PCノートテイクで行う「連係入力」と呼ばれる入力方法は、話者の発話の前半を 1名が入力し、後半をもう 1名が入力するという方法で、多少話速が速い場合でも、文章のそぎ落としなどをすることによって、かなりの文字数の入力を行うことが可能である。しかし、その一方では、入力者のタイピングスキルの違いによる字幕表出速度に差が生じることがある。また、話し言葉から書き言葉(読む文章)に変換する技術も必要になることから、入力者のスキルによるところが大きい。  本取組では、高度な PCノートテイクの実施を可能とするために、 PCノートテイカーの入力状況を分析して、高度なスキルを得るための方法を見出すとともに、表示された字幕の質を評価する方法について検討を行った。  分析方法は、講義の発話内容の文字起こし文と字幕として表出された日本語文を抽出し、誰がどの場面を入力または削除したのかを記録する形で Excelにデータ入力を行った。この入力状況のうち、大きく表出内容が乱れた部分とその要因の検討や、連係入力作業に時間的なロスが生まれた状況について検討を行った。今回は、学内の養成講座を受講した、経験年数が 1年未満および 6年超の入力者の入力状況について比較検討を行った。この比較により、経験年数が浅い入力者の現時点における実力を正確に把握して、今後の入力のつまずきなどを減らすことで、さらなるスキルアップを目指した。  結果として、経験の浅い入力者は「入力の重複に気付かずに入力を続け、削除する手間が生じる」「発話内容の記憶保持が出来ずに情報の欠落が起き、入力が滞る」などの傾向が見られた。今後も同様の検討を行う必要があるが、これらの解消法を検討するとともに、今後の PCノートテイカーの養成講座、講習会実施の際の指導ポイントとして、取り入れていきたい。引き続き、より質の高い情報保障を提供するためのスキルおよびそのための知識や習得方法については課題とする。 まとめ  本取組へ講師派遣依頼のあった理由として多かったのが「以前は PCノートテイクができる学生が在籍していたが、数年ぶりに聴覚障害学生の受入をしたことから、新たに PCノートテイクができる支援学生の養成が必要となった」という内容だった。このように、定常的に聴覚障害学生が在籍しない大学では、人材の養成・ノウハウの蓄積が難しい面がある。また、複数名の聴覚障害学生が在籍する大学においては、利用学生の学年・学部も異なることから、多様な支援に対応できる支援学生の養成が必要となるであろう。  一方、平成 28年 4月から施行される「障害者差別解消法」の「合理的配慮の不提供の禁止」に伴い、今後も聴覚障害学生への情報保障支援に対する必要性への理解が広まるとともに、より質の高い支援や合理的配慮を満たすための取組とした情報保障支援の実施・提供が急務となることが予想される。  このことから、今後も聴覚障害学生の情報保障の充実に寄与するために、各大学の状況に応じた講習会・研修会開催に関するアドバイスや講師派遣、ノウハウの提供を含む相談対応など幅広いニーズに対応していく必要がある。 2.教育支援機器の評価と提供(聴覚障害関連) 1.シースルーメガネ型リアルタイム字幕提示システム 目的・目標  近年、聴覚障害学生への情報保障のニーズが高まり、様々な方法での字幕提示が求められている。例えば、ゼミ形式の講義においては、パソコンノートテイクでの支援を受けたいが、視線移動が少ない方がいいというニーズがあったことから、本システムを開発した。  また、近年、スマートフォンやタブレットの所有率が高く、携帯電話会社が提供しているインターネット通信も高速で安定していることから、これらを用いてシステムを構築することとした。本学の学生 26名を対象に行った携帯端末に関するアンケートによるとスマートフォンを所有している学生が 22名( 84.6%)、タブレット端末を所有している学生が 2名( 7.7%)、スマートフォンの Wi-Fi機能を利用している学生はスマートフォンを所有している学生 22名のうち 11名( 50.0%)であった。また、アプリケーション開発の自由度が高いスマートフォン、タブレット端末や、シースルーメガネ型ディスプレイ(以下、「 HMD」)を用いて、最新の学術的・技術的な背景と社会の要請を基に、学生のニーズに沿った、情報難民ともいわれる聴覚障害者のために実際の視野に重ねてリアルタイム字幕を表示する「シースルーメガネ型リアルタイム字幕提示システム」を開発した。  本システムの概要、構成、アンケート調査結果等について報告する。 システムの概要および構成  本システムの特徴的な点としては、高速無線通信 Wi-Fiマルチキャストを用いることから、柔軟に基地局を移設できる。このことから、情報保障機器が未整備な場所においても設置が可能であり、特別な知識を有さなくても運用が可能である。また、 Wi-Fiを用いリアルタイム字幕を配信するため、スマートフォンで Web等を閲覧する際に発生するパケット料金のような通信費は不要である。  また、 HMDを使用することにより、見たいものに自由に視線を移動しながらリアルタイム字幕も同時に見ることができる。リアルタイム字幕は数十台の HMDと携帯端末に同時に提示できる。  さらに、表示される字幕は仮名漢字のみか、漢字の後に読みを()付きで表示するかが選択できる。後者の場合でも、特殊なキー入力が不要である。  図 1にシステムの概略を示す。  パソコン要約筆記で入力された文字列は、フォーマット変換パソコンに送出される。フォーマット変換パソコンは入力された文字列を配信用フォーマットに変換し、字幕配信パソコンへ送信する。  字幕配信パソコンは Wi-Fiアクセスポイントを介して HMDを含む携帯端末に送信し、 HMDやスマートフォン、タブレット等の様々な携帯端末に字幕が提示される。 アンケート調査結果  本学学生 15名を対象に、 HMDとスマートフォンを用いた文字提示の情報保障に関するアンケート調査を実施した。  パソコン要約筆記は 3名が担当し、 HMD( MOVERIO BT-200) 7台、スマートフォン 3台とタブレット 4台は、講義中順次学生に手渡し視聴させた。  図 2~図 5はアンケート調査を実施した際の写真、図 6~図 11はアンケート調査結果である。 (図) 図 1.システムの概略 (図) 図 2.講義の様子 (図) 図 3.ノートパソコンとタブレット (図) 図 4.スマートフォン(仮名漢字のみ字幕) (図) 図 5.タブレット(ルビ付き) (図) 図6 HMD 字幕提示による講義内容理解度 (図) 図7 スマートフォン字幕提示による講義内容理解 (図) 図8 HMD とスマートフォン同時使用による字幕提示システムの有効性 (図) 図9 講義以外でのHMD の利用場面(複数回答) (図) 図10 HDM の必要と思われる機能(複数回答) (図) 図11 スマートフォンでの画面スクロールによる見逃した字幕の再表示機能 まとめ  学生のアンケート調査の結果から、本システムが講義の理解に役立つことがわかった。また、講義以外で活用できる場として、実験や実習の場が挙げられたことから、今後は本システムの活用範囲を広げていきたい。システムの問題点と改善点を明確にし、パソコン要約筆記の遠隔入力対応や様々なメーカからプレスリリースされているウェアラブル表示器にも対応可能なシステムの開発と構築を目指す。 2.字幕放送用学年別ルビ自動付加提示システム 目的・目標  聴覚に障害がある学生にとって、読み方が難解な漢字にルビがあることで学習の助けになることが、以前の調査より明らかになっていたことから、本システムを開発した。このシステムによる学年別ルビ(ルビ付加レベル)は、視聴者の漢字の読み能力に応じてすべての漢字にルビを振る全ルビ、小学 1年~ 6年、中学、高校までの中から、自由に 1つを設定できる。  また、このシステムを活用して、リアルタイムで放送されている字幕付きテレビ放送を、テキスト出力付き録字機、パソコンとビデオキャプチャーを連動することで、パソコン画面に難読な漢字のみに自動でルビを付加してテレビ映像とともに提示できる字幕放送用ルビ自動付加提示システムを開発した。 システムの構成と動作および機能 システム構成(図 1) 図 1.システム概略図 ※以下、動作説明文中では「テキスト出力付き録字機」「学年別ルビ生成パソコン」「学年別ルビ付き字幕提示パソコン」をそれぞれ 1~ 3として記載する。 システムの動作(例文:「本日は曇天だ」) ( 1)テレビアンテナを介して、テキスト出力付き録字機(以下「新録字機」)へテレビ放送を送出 ( 2)新録字機 ①字幕放送「本日は曇天だ」を受信 「本日は曇天だ」テキストデータを RS-232Cポートから 2へ送出 本日は曇天だ ( 3)学年別ルビ生成パソコン ①RS-232Cポートで「本日は曇天だ」を受信 ②「らくらくブラウザ」で、ルビ文字列を抽出 ③漢字の前に「 `rどんてん `s」を付加し、 LANポートを介して 3へ送出 本日は `rどんてん `s曇天だ ( 4)学年別ルビ付き字幕提示パソコン ①「本日は `rどんてん `s曇天だ」を LANポートで受信 ②パソコン要約筆記ソフトウェア IPTalkを用い、ルビ付きの字幕として提示    本日は曇天(ルビとして漢字の上に、どんてん)だ ( 5)字幕放送の映像と音声をビデオキャプチャーへ送出 ( 6)学年別ルビ付き字幕提示パソコン ①ビデオキャプチャーからの映像と音声を USBポートから取り込む ②テレビ映像にルビ付きの字幕をスーパーインポーズして提示    本日は曇天(ルビとして漢字の上に、どんてん)だ システムの機能 ( 1)テレビ映像の遅延時間設定: 0~ 20秒の範囲を秒単位で設定 ( 2) USBメモリへの字幕放送の字幕テキストの保存 ( 3) USBメモリに保存した字幕放送の字幕テキストの表示 ( 4) USBメモリ内の字幕テキストファイルの削除 ( 5)字幕テキスト表示設定 ・文字サイズ:極大/大/中/小/極小・文字色:白/黄/青/緑/黒 ・画面色:白/青/黒・表示切替:頁単位/スクロール ( 6)字幕テキスト出力設定 ・テキスト出力:有効/無効・言語:第一言語/第二言語 ( 7)字幕放送の字幕テキスト番組の予約記録 ( 8)チャンネルスキャン (9)その他の設定 ・視聴モード:フルセグ/ワンセグ・ボーレート: 4800/ 9600/ 14400/ 19200/ 38400・パリティ:なし/ ODD/ EVEN・ストップビット: 1bit (図) 図2 新録字機の前面 (図) 図3 新録字機の背面 字幕提示  NHK総合のニュース番組で本システムを用いた字幕提示を 2種類の形式で実施した。  始めの字幕提示形式は、すべての漢字にルビを振る全ルビ、小学 1年~ 6年、中学、高校までの学年別(ルビ付加レベル)の中で小学 3年に設定し、テレビ映像を縮小した画面(新録字機視聴モードを「ワンセグ」に設定)の下部にルビ付き文字のみで提示した。  次の字幕提示形式は、すべての漢字にルビ振る全ルビに設定し、テレビ映像にルビ付き字幕をスーパーインポーズして提示した。  学年別ルビ付き字幕提示パソコンで使用したパソコン要約筆記ソフトウェア IPTalkの設 定は次の通りである。 ( 1)フォント: MSゴシック ( 2)文字サイズ: 36ポイント ( 3)ルビサイズ: 18ポイント ( 4)文字色:白 ( 5)エッジ色:黒 ( 6)エッジ幅: 3ドット ( 7)表示行数: 2行 まとめ  今後は、聴覚障害児・者を対象とした様々な字幕提示形式等の視聴実験をもとに、本システムの有効性、問題点等を明確にして機能の改善を図るとともに、高等教育機関の講義場面においても導入を進めていきたい。 3.教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連) 1.情報保障機器の整備および機器評価 目的・目標  これまで、本学では高倍率ルーペなど最新の情報保障機器を揃え、在学生に貸出し、修学や日常生活の環境改善に貢献してきた。利用した学生からは非常に評価が高く、年間の利用者は 60件以上にもなっている。  最近、情報保障機器選定およびその効果的な使い方についての相談が、視覚障害学生が在籍する、または入学予定の他大学から多く寄せられるようになってきた。以前、本取組担当者が日本学生支援機構の客員研究員として全国の大学を訪問し実態調査を行った際にも、多くの大学から情報保障機器に関する情報不足が課題として挙げられており、同様な問題を抱えている大学は相当数あると思われる。ちなみに、 JASSOの調査( http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/chosa1301.html)によると、平成 25年 5月時点で、日本全国の大学・短大・高専では 732名の視覚障害学生が在籍していることがわかった。  それらの経緯から、『本学所有の情報保障機器を大学など高等教育機関に貸出し、そこで試行した様々な活用事例を収集する。それらをウェブサイトなどで情報公開する』ことを目的として取り組んできた。そのイメージ図を右に示す。この取組を推進することにより、視覚障害学生の就学環境整備に悩む大学など高等教育機関の障害学生支援部門が、入学前の障害学生からの事前相談や在学時に生じる情報保障を解決・低減することができると考えた。 (図) 活動報告  まず、本取組を推進するにあたって、以下の資料を作成した。 ①情報保障機器貸出し /評価趣旨書②物品借用確認書③機器一覧④機器送付票⑤機器使用報告書(※①については、参考資料として本取組報告に掲載する) ①は、本取組の目的が「その大学の視覚障害学生のためだけでなく、他の大学等で学ぶ学生のための評価を含んでいること」「大学間での貸出しであり、その管理責任が当該学生ではなく、貸出先の大学にある」旨などを記載している。これを貸出し希望大学に②③とともに送付する。諸条件を了解の上で試用を希望する場合、③の一覧からどの機器をいつ使いたいかを②に記載し本学に返送する。同一時期に他からの借用希望がなければ、当該機器を④⑤とともに先方の大学に送付する。機器返却時または後日、機器を使った感想(良い点だけでなく、改善希望も含め)を⑤に記載の上、本学に送付するという手順で行った。  本取組の情報提供先は、 VISS-Net(注 1)参加校および本学に来学・相談のあった大学関係者である。  注 1:本センター支援交流領域が運営する「視覚障害学生支援メーリングリスト Visually Impaired Student Support Mailing List」の略称で、他大学などで視覚障害学生をサポートしている方の情報交換・交流や、視覚障害関連情報を、本学から随時あるいは定期的に提供している(平成 27年 2月現在 73校が登録)。 実績・成果  これまで貸出し・評価希望のあった大学は 19校であり、複数回利用する大学もあった。ちなみに、前述の JASSOの調査結果によると、平成 25年 5月時点で、支援している視覚障害学生が 1人以上在籍する大学数は 162校であった。  得られた評価結果のうち、本学での使い方および違う評価が得られたものを紹介する。 1)携帯型拡大読書器  現在販売されている携帯型拡大読書機はそのほとんどが電源バッテリーを内蔵したタイプである。評価の結果、バッテリーが講義の 1コマ分( 90分)もたない。そのため、常に電源コンセントを使用し続けるか、必要なときだけ電源を頻繁に入れるかが求められ、講義での使用には実用的ではないことがわかった。今後の機器開発に際しては、乾電池式か、バッテリーを着脱可能にして予備のものと交換が容易にできる設計が望まれる。  また、携帯型拡大読書器は印刷物上を滑らせるように使用するが、小型ローラーが印刷物側についていないので、高拡大倍率にすると行と平行に本体を移動させることが難しく、文章を正確にたどれない、大量の文書の読み取りには不向きという評価が得られた。本学では、拡大印刷した教材を配布しているが、他大学では教科書や配布資料そのままを授業中に大量に読む場合があり、文章を読むことを想定した機構の改良が望まれる。  一方、興味深い利用方法を考案した大学もあった。手持ち型小型拡大読書器を科学実験等に使用するクランプに取り付け、測定装置の表示面を拡大表示させた事例である(写真 1)。危険性のある対象物に近づかないのでより安全であり、単眼鏡のように片手がふさがることもない。このような利用方法は、他の機器利用でも想定され、多様な使い方に関する情報収集が今後も重要であることを痛感させられた。 写真1.他大学で工夫された小型拡大読書器の例  2)据置型拡大読書器  弱視学生には定番の大型ディスプレイ( 22インチ前後)を標準装備した据置型拡大読書器は、大学にも知られているためか貸出しはほとんどなかった。新しいコンセプトの折畳み式拡大読書器(写真 2)の試用希望が複数校からあった。同機種は、 XYテーブルがない、ディスプレイが小さい( 12.5インチ)などの課題があるが、折り畳んで持ち運びできることが大きな特長である。本学では据置型を図書館だけでなく、どの教室にも常設している。他大学では視覚障害学生数が少ないことから常設は難しいが、持ち運んで利用したいというニーズに合致したようである。 写真2.折畳み式拡大読書器 3)DAISY再生機能付き ICレコーダー  DAISY録音図書は、目次から読みたい章やページにジャンプ可能、 1枚の CDに 50時間以上も収録できるなどの特長があり、本学の学生、特に点字の触読が苦手な学生は教科書等を DAISY再生機で読んで(聞いて)いる。今回の貸出し・評価においては、 DAISY再生専用機ではなく、 ICレコーダーに DAISY機能が付与されている携帯型 DAISY再生機の評判が良かった。他大学の講義では板書速度が速く、その内容を点字で十分書き取れないため、講義の内容は ICレコーダーで録音し、 DIASY化されている教科書などは再生機能を利用するという使い方がされているようである。 4)書見台  機器ではないが、書見台も視覚障害学生には重要な読書アイテムであることが再認識された。低視力の場合、対象物に目を近づけて見ることになり、机の上に置いた本を前かがみで読むため肩や首が疲れることが多い。書見台により本を自分に近づけられることができ、ルーペを併用しての読書環境改善に効果的であることがわかった。 5)点字端末(点字ディスプレイ)  個人持ちで使用する点字端末も貸出した。日常生活用具給付等事業制度の対象品で、価格の 1割の自己負担で入手できる。しかし、高額であることから購入前に使いこなせるかどうかを確かめる目的での貸出しであったが、高機能のため、 2週間の貸出し期間と延長をしても、その期間では十分使いこなせなかったようである。本事業を進めるにあたって、今後の課題としたい。 まとめ  視覚障害学生が常時在籍する本学とは違い、他大学では、いろいろな学部 /学科・複数のキャンパスに、多様な視覚障害(見え方の違い(全盲 /低視力 /視野狭窄)、先天 /中途、点字のスキルなど)のある学生が、いわば単発的に入学する一般大学では、その就学環境整備に悩むことが多い。情報保障機器は、それらの問題を解決・低減できることがわかった。今回の貸出し数・得られた情報だけでは、多様な視覚障害学生に対応できるデータベースとして公開するのは難しいが、今後も啓発活動を推進し、評価を更に推進する必要がある。 2.視覚障害学生の在籍校との連携構築 目的・目標  視覚障害学生が在籍している大学等から支援に関する相談を受けながら、それらの大学間の連携を構築し、視覚障害学生の支援について協力、情報交換できる体制を整える。 活動報告  相談対応と研修会実施が主たる活動内容である。相談対応により各大学の支援の状況を把握した上で、視覚障害学生が在籍する大学の教職員対象の研修会を実施し、参加者による事例報告および情報交換を実施することによって、それらの大学間の連携を促進した。 1)相談対応 [相談内容]( 5年間合計 84件) (表)   入試・受入 学内啓発 授業・学習 教材 支援機器 バリアフリー 生活・就職 計 平成 22年度 1 0 1 1 5 4 0 12 平成 23年度 4 1 4 2 5 0 2 18 平成 24年度 2 0 3 1 2 2 1 11 平成 25年度 3 1 1 2 4 2 3 16 平成 26年度 0 1 5 12 6 0 3 27 [対応方法] (表)   電話・メール 来訪・見学 訪問 講師 計 平成 22年度 10 2 0 0 12 平成 23年度 15 1 2 0 18 平成 24年度 9 1 1 0 11 平成 25年度 10 4 1 1 16 平成 26年度 20 4 0 3 27 [主な相談事項] ・教材を効率的にテキストデータ化する方法を知りたい(講習会を開いて欲しい)。 ・支援機器(拡大読書器、画面読み上げソフト等)の機種、使用方法を教えて欲しい。 ・弱視学生の授業(映像視聴、実験、 PC実習等)の実施方法について助言して欲しい。 ・筑波技術大学のバリアフリー施設を見学したい。 ・(全盲学生向けの)触図の作成方法を教えて欲しい。 ・(教職員・学生から)視覚障害学生の就職についての情報が欲しい。 ・授業でTAを配置する時の注意点を教えて欲しい。 2)研修会実施 (表) 実施月日 実施内容 参加人数 平成 23年度 10月 25日 『第 5回視覚障害学生支援ワークショップ』『障 害学生サポートフォーラム第 6回交流会』合同セミナー 31人 12月 16日 第 1回筑波障害学生支援研究会 34人(注 1) 平成 24年度 6月 29日 障害学生支援交流会第 1回研修会 38人 12月 14日 第 2回筑波障害学生支援研究会(障害学生修学支 援ブロック別地域連携シンポジウム【関東地区】) 184人 平成 25年度 12月 17日 第 3回筑波障害学生支援研究会(平成 25年度障 害学生支援セミナー【 7】) 148人 2月 21日 障害学生支援交流会第 2回研修会 18人 平成 26年度 6月 6日 障害学生支援交流会第 3回研修会 53人 9月 2日 障害学生支援交流会ミニ研修会 13人 12月 13日 第 4回筑波障害学生支援研究会(平成 26年度専 門テーマ別障害学生支援セミナー【 6】) 160人 注 1:筑波大学、筑波技術大学からの教職員および学生の参加者数は含めていない [研修会概要] ■筑波障害学生支援研究会(詳細は「Ⅰ: FD研修会の実施」を参照)  筑波大学と共催し障害学生支援に携わる教職員向けの全国規模の研究会を開催した。平成 24年度以降は JASSOも主催に加わり同機構のセミナーを兼ねた実施となった。 ■障害学生支援交流会研修会(平成 23年度合同セミナー含む)  障害学生支援に関わる教職員に向けて、基礎的な知識、各大学の事例、各大学の課題を議論する場、大学間で自由に情報交換する場を提供することを目的に実施した。 「『第 5回視覚障害学生支援ワークショップ』『障害学生サポートフォーラム第 6回交流会』合同セミナー」 ■開催日:平成 23年 10月 25日 ■場所:筑波技術大学・春日キャンパス <プログラム> ・講演(ビデオ視聴と解説、障害学生支援の解説) ・分科会「支援機器を活用した視覚障害学生支援」「支援体制の構築」 ・意見交換 ・見学(筑波技術大学バリアフリー環境) (写真) 「障害学生支援交流会第 1回研修会」 ■開催日:平成 24年 6月 29日 ■場所:筑波技術大学・春日キャンパス <プログラム> ・事例報告(東京学芸大学、法政大学) ・分科会「支援室」「視覚障害学生支援」 ・全体討論 ・見学(筑波技術大学バリアフリー環境、支援機器室) ・情報交換会 (写真) 「障害学生支援交流会第 2回研修会」 ■開催日:平成 26年 2月 21日 ■場所:筑波技術大学・春日キャンパス <プログラム> ・講演「大学における合理的配慮と“差別解消法”」 ・分科会「支援体制の整備」「視覚障害学生の支援」 ・全体討論 ・見学(筑波技術大学バリアフリー環境、支援機器室) ・情報交換会 (写真) 「障害学生支援交流会第 3回研修会」 ■開催日:平成 26年 6月 6日 ■場所:上智大学・四谷キャンパス <プログラム> ・事例報告(上智大学、明治大学、明星大学) ・分科会「障害学生の支援体制」「パソコンノートテイクの導入」「視覚・聴覚障害学生の体育およびスポーツ活動」「視覚障害学生の支援」 ・全体討論 ・情報交換会 (写真) 「障害学生支援交流会第 3回研修会」 ■開催日:平成 26年 9月 2日 ■場所:東洋大学・白山キャンパス <プログラム> ・解説「障害学生の支援体制」 ・ワークショップ「障害学生の身になって」 ・見学(バリアフリー推進室) まとめ  本取組では、視覚障害学生支援に関する相談対応、および大学間の連携の構築を目的とした研修会開催を行なった。  相談対応については、全国の大学から寄せられた様々な相談に対応することができた。本事業が開始した平成 22年度以前からも本学のミッションとして取り組んでいたが、事業開始以降は相談件数が年々増加していった(ただし、平成 24年度から 25年度にかけての 1年間は担当者不在であったため、やや減少した)。全国の高等教育機関に在籍する視覚障害学生数が増加傾向にあるためとも考えられるが、本事業全体の取組によって本学の存在を様々な形で周知する機会があったことが大きな理由であると考えている。また、平成 23年度以降に毎年実施してきた各種研修会は、障害学生支援に取り組んでいる大学における支援事例の紹介と研修会に参加した大学間の意見交換を中心とした内容であったが、他大学の支援担当者と視覚障害学生の支援について話す機会が得られたと参加者からは好評をいただいた。数少ない、視覚障害学生が在籍する大学間での情報交換の実現に、少なからず貢献できたと考えられる。  今後の展望としては、本取組の目的である大学間連携を実現するには、研修会における意見交換にとどまらず、もう一歩踏み込んだ形で大学間を繋ぐ仕組みの検討が必要である。また、本事業の実施期間をとおして一定数の相談事例が蓄積されたため、相談内容をカテゴリ化することが可能となった。そこで、今後はこれまでの対応事例からいくつかをモデルケースとして提示することも可能となるため、相談対応を発展させた「発信型の情報提供」を実現したい。 視覚障害学生を支援している皆様 参考資料:情報保障機器貸出し /評価趣旨書 国立大学法人筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 最新の視覚障害者用情報保障機器を使ってみませんか  筑波技術大学は,視覚障害者と聴覚障害者が学ぶ 4年制大学です。その組織の一つである障害者高等教育研究支援センターは,最新の視覚障害者向け情報保障機器(約400製品)を揃え、在学生に貸し出しを行ってきました。  今般,それらの機器を他大学にも貸し出すことにしましたので,ご案内申し上げます。  視覚障害者用機器としては,さまざまなものが製品化されていますが,概して高価です。また視覚障害のある学生ひとりひとりの障害の状態や使い方に合わせ、最適なものを選ぶのは難しいものです。  そこで,本学の機器を一定期間貸し出し,機器選定の参考にしていただくと同時に,貴校での情報保障に関するノウハウ蓄積にお役立ていただきたいと考えています。機器の選定や学習における活用方法等に関するご相談にも対応します。  なお,使っていただいた結果(使い勝手,問題点など)は,利用報告書として本学に返送いただき,他大学で利用する際の参考にさせていただきますので,ご協力のほどよろしくお願いいたします。  下記内容をご一読いただき,是非ご活用ください。 (写真) ●貸出し対象機器・費用  本学から,お送りする「機器リスト」に記載されている機種すべて(約400製品)無料です。ただし,当方から機器を着払いでお送りしますのでその送料はご負担ください。 ●貸出し期間  2週間。なお,他に予約者がないときにかぎり更新することができます。更新回数は2回まで(初めの2週間をあわせて最大6週間)とします。 ●貸出し機器数  最大3機種 ●手順  (1)まずは,下記に電子メールでお問い合わせください。  (2)当方から,最新の機器リスト,物品借用確認書,利用報告書をお送りします。  (3)貴校で使ってみたい機器を選択し,物品借用確認書に記入の上,郵送いただくか,スキャナーで読み取り PDFデータとして電子メールで送信ください。  (4)当方から,着払いで機器を発送します。  (5)貸出し期間が終わりましたら,機器を十分梱包して返却ください。また,本学からお送りする利用報告書に利用状況を記入し電子メールで返信してください。 その他,ご不明な点などありましたら,下記までお問合せください。 担当:飯塚 潤一( Junichi Iizuka) E-Mail: 国立大学法人筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター TEL:029-858-9582, FAX:029-858-9587 〒 305-8521茨城県つくば市春日 4-12-7 平成 27年 2月 6日実施 FD/SD研修会「合理的配慮の実施に向けて」報告 文部科学省認定教育関係共同利用拠点 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター「障害者高等教育拠点」事業 「 FD/SD研修会~合理的配慮の実施に向けた拠点事業の機能と役割~」 プログラム 日時:平成 27年 2月 6日(金) 13: 00~ 16: 30 会場:筑波技術大学春日キャンパス講堂(茨城県つくば市春日 4-12-7) 対象者:全国の聴覚・視覚障害学生の指導・支援に携わる高等教育機関の教職員 教育関係機関(特別支援学校等を含む)の教職員、および研究機関の職員等 プログラム: 事業概要説明  筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター長/教授 須藤 正彦 事例報告  東海大学体育学部生涯スポーツ学科准教授 吉岡 尚美  東洋大学学生部学生生活課バリアフリー推進室 升田 裕昭  恵泉女学園大学学生課 三上 さやか パネルディスカッション ※カッコ[ ]内は、担当する取組名(○…聴覚障害関連,●…視覚障害関連) 【司会】筑波技術大学教授 及川 力 【指定討論者】筑波技術大学副学長/教授 石原 保志 【パネリスト】※すべて所属は筑波技術大学 教授 松藤 みどり [○英語教育コンテンツの開発○アカデミック・アドバイス提供体制の整備] 准教授 大杉 豊[○ろう者学教育コンテンツの開発] 准教授 天野 和彦[●体育・スポーツ教育コンテンツの開発] 講師 宮城 愛美[●教育支援機器の評価と提供] 技術補佐員 宇都野 康子[○パソコンノートテイカーの養成] 開会前・開会後の時間に、下記を実施 ◆支援機器室見学(事前申込み者対象):  視覚障害学生の学習や日常生活で使用できる支援機器について見学、体験、解説等 ◆障害者高等教育センター内各事業に関する展示:事業内容や成果物等についての紹介 【聴覚・視覚障害共通】 ・「障害者高等教育拠点」事業 ・筑波技術大学大学院技術科学研究科情報アクセシビリティ専攻 【聴覚障害系】 ・T-TAC(筑波聴覚障害学生高等教育テクニカルアシスタントセンター) ・PEPNet-Japan(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク) 【視覚障害系】 ・学習資料アクセス円滑化支援事業 ◆個別相談:各取組の利用等に関する相談 事例報告1 東海大学 体育学部生涯スポーツ学科准教授 吉岡尚美 (学生)山科勇人、八ツ橋豪紀 利用取組「体育・スポーツ教育コンテンツの開発」講習会開催 ■利用の背景 〇東海大学体育学部内田匡輔ゼミナール・吉岡ゼミナールの合同合宿として利用した 〇それぞれのゼミには「障害のある人の体育・スポーツについて学びたい」と興味・関心を持っている[少数精鋭]の学生が所属している。 〇ゼミの活動の他にも、特別支援学校の支援員ボランティア、発達障害児や両ゼミの教員を含めて行っているスポーツ教室に、学生コーチとしても参加している。そのほか、学内としては聴覚障害学生が受講する際の情報保障にも協力をするなど、近年では特別支援学校の教員を目指すゼミ生も増えてきた。 〇上記 2点の背景より、障害のある人の体育・スポーツについて講義や実技、ディスカッションを交えた合同合宿を検討していた。本事業の体育・スポーツ科目に関する取組を担当している教員との面識があったことから、実現に至った。 (写真) ■具体的な内容 〇平成 26年 3月 17日(月)、 18日(火)の 2日間で実施 1日目:天久保キャンパス(聴覚障害関連) [座学]①聴覚障害に関する一般的な知識、②聴覚障害者スポーツ活動に関する講義 [実技]チュックボール(東海大学 VS筑波技術大学) (そのほか、両大学の学生を含めた懇親会についてもセッティング) (図) 内田・吉岡ゼミの特徴 障害のある人の体育・スポーツについて学ぶ ↓ ・特別支援学校で支援員ボランティア ・発達障害児のスポーツ教室コーチ ・聴覚障害学生支援(情報保護) ・特別支援学校教員を志望 など 2日目:春日キャンパス(視覚障害関連) [座学]①視覚障害に関する一般的な知識②授業の様子やサークル活動に関する紹介( VTR) [実技]フロアバレーボール(東海大学 VS筑波技術大学) (そのほか、学内の施設見学を実施し、図書館で点字本に触れる体験も行う) ◆参加した学生 2人による体験談◆ 1日目:天久保キャンパス [座学] ・自分たちの後輩に聴覚障害をもつ後輩がいることから、実感を持って講義を聞くことができた。 ・講義の中で話が出たことだが、聴覚障害学生と登山をした際の下山の指示をどう与えるかという話は、これから学校教員となる自分が指導をできるか考えさせられた。 [実技] ・チュックボールでは「パスカットがないため、後ろから忍び寄られることがない」「ボールが行った方向でしかプレーが発生しない」という利点があり、聴覚障害学生が行いやすいスポーツの存在を知ることができた。 ・筑波技術大学の学生からは、東海大学の学生が声を張り上げてプレーしていることへの驚きの声があった。 (写真) チュックボールの様子 2日目:春日キャンパス [座学] ・指し示しなど、視覚情報を用いた指示ができないため、言葉だけでどこまでできるのかが不安になった。 [実技] ・「人間知恵の輪」など、互いに手をつなぎ、お互いの位置がわかった状況で活動を行った。 ・全盲から弱視まで見え方がそれぞれで、声のかけ方によって動きが変わることがわかった。 ・フロアバレーボールでは、指示のみでなく、ボールの位置についても声で指示をするのは経験が必要だと感じた。 ・今回の体験をとおして、東海大学でもフロアバレーボールのセットを購入し、ゼミや授業でも実施するようになった。 (写真) フロアバレーボールの様子 ■成果 〇合宿後、参加学生に提出させた体験ノートには聴覚や視覚について基礎的な知識を習得し、一緒にスポーツをするためにはどのような配慮や工夫が必要なのか、伝え方や示し方、コミュニケーション方法について、参加学生自身の気づきが多く記載されていた。 〇チュックボールやフロアバレーボールが楽しめたことにより、実践をとおして「障害の有無に関わらず、一緒にスポーツをして楽しめる」ことを学ぶことができた。 事例報告2 東洋大学 学生部バリアフリー推進室 課長補佐 升田裕昭 利用取組「パソコンノートテイカーの養成」講師派遣 ■利用の背景 〇すでにノートテイクは実施していたが、学生の PCノートテイカーはいなかった。情報量が多い PCノートテイクを担う支援学生を育成するため、 PCノートテイクをしていた外部スタッフが講師となり、平成 25年度に自主練習会を実施していた。 〇平成 26年度に PCノートテイク講習会実施のために、予算要求を行った。 〇 PCノートテイク講習会を本格的に実施するために模索していたところ、本事業で講師派遣等を行っていることを知り、利用に至った。 〇講習会を開催するほどノートパソコンや周辺機器(ハブ、 LANケーブル等)がない状態ではあったが、本取組より貸与がなされたためにスムーズに講習会を実施できた。 (図) ■具体的な内容 〇平成 26年 6月 30日(月) 16時 20分~ 17時 50分( 90分 =1コマ) [実施方法] ・貸与されたノートパソコンでソフトウェア IPtalkに慣れるためにテキストを読み上げている音声を聞きながら入力練習を行う ・慣れてきたところで 2人 1組となって、連携入力の練習を行う ・参加者は受講生 15名、利用学生 1名、利用学生への通訳担当学生 1名 ◆本講習会には、PCノートテイクに関する理解および今後の PCノートテイク講習会実施への協力を得るために、情報機器を管理している部署の職員にも同席を依頼した。 ●アンケート結果 内容について:「とてもよかった」「よかった」が大多数 レベル設定について:「ちょうどいい」受講生の 2/3、「難しい」受講生の 1/3 感想:「 PCノートテイクを体験できた」「 PCノートテイクの方法がわかった」「タイピングと聞き取りを同時に行う大変さがわかった」 〇平成 26年 11月 25日(火) 16時 20分~ 19時 40分(休憩を除く 180分 =2コマ) [実施方法] ・学習支援室に備え付けのノートパソコンで実施した ・講習会以前のノートパソコンの設定等は情報機器の担当部局が行い、講習会中も待機をして、適宜対応した ・ 1ペアが入力している様子をプロジェクターで投影し、他の受講生は入力している様子を見ることで、利用学生の体験を行った ・参加者は利用学生 8名、利用学生 1名、利用学生への通訳担当学生 1名 ●アンケート結果 内容について:「とてもよかった」「よかった」が大多数 レベル設定について:「ちょうどいい」「難しい」ともに受講生の 1/2 感想:「タイピング等の練習や実習ができた」「連携入力の際、パートナーと合わせることができなかった」「 PCノートテイカーと利用学生の両方の気持ちが味わえた」 ■成果 ・ 6月に実施した講習会ではノートパソコンの設定、教室の設営も含め支援が行われた。 ・ 6月に実施した講習会では、特別支援教育担当の教員、外部スタッフも見学するなど、学内での PCノートテイクの認知度を高める効果もあった。 ・ 2回目( 11月に実施)は、教室の環境、講習時間、受講者の経験を考慮してカリキュラムが組まれ、スムーズに講習会を実施することができた。 ・カリキュラム、展開が工夫されており、特に 11月に開催した講習会では支援学生、利用学生双方の立場を体験できる設定で、より充実した内容となっていた。 ・ 6月の講習会と 11月の講習会を比較すると、情報機器担当部局の協力を得られたことから、学内の設備(ノートパソコン等)を使用して講習会を開催できたことは大きな成果といえる。 ・今後の課題は、 PCノートテイクによる支援のコマと支援学生を増やすこと、および、支援機器の活用を図り、ノートテイカーや PCノートテイカーの確保が難しい場合でも支援ができる体制作りである。 (写真) 事例報告3 恵泉女学園大学 学生課 三上さやか 利用取組「教育支援機器の評価と提供」相談対応 ■利用の背景 〇視覚障害学生の支援として、授業で使用する新聞や雑誌の切り抜きプリント、資料については教員や利用学生と相談をして、必要な情報を取捨選択して点字にするか、スキャナを使用して文字のテキストデータ化を行っている。 〇平成 25年度に、視覚障害学生より資格取得の学習のために参考書全てを点訳してほしいという依頼があったが、ページ数が膨大になることから携帯することが不可能であり、点訳者側にとっては時間の制約や負担がかかることから、内容のテキストデータ化を試みた。 〇発表者が支援担当の業務に就いたばかりで、前任者からの引き継ぎがうまくなされておらず、テキストデータ化の作業が難航することがあり、本のテキストデータ化を行うにあたり、本事業の利用に至った (図) ■具体的な内容 〇平成 25年度 ・OCRソフト「 e.Typist」がインストールされているパソコンの確認と、スキャナの状況、 Windows7の稼働についてのメモリの確認をすると同時に、テキストデータ化に必要な作業方法に関する相談に対応してもらった。 〇平成 26年度 ・視覚障害をもつ 3年次の学生が履修している科目では使用する教材のテキストデータ化が必須となった。枚数も多かったことから、高機能スキャナの導入を決め、購入に関する相談に対応してもらった。 ・さらに、同学生は日本語教員養成科目を履修していることから、今後もその科目に関する教材や参考書のデータ化の増加が予測できたため、ソート機能付きのスキャナ、冊子用の裁断機の購入に際し、機種選定のアドバイスがあった。 (写真) ■成果と今後の展望 〇テキストデータ化に関する指導を受けたことで、職員が必要な基本的スキルを習得することができ、効率よく行えるようになったことで、点訳作業依頼を減少させ、点訳の分量の縮小を試みることができた。 〇視覚障害学生の支援に使用される機器の性能向上により、学生からの声やニーズを反映させることができるようになった。教材のテキストデータ化を効率よく行うことで、さらに学生の学修に役立てていきたい。 利用取組「パソコンノートテイカーの養成」講師派遣 ■利用の背景 〇 PCノートテイクは平成 22年度より実施していたが、聴覚障害学生の入学増加に伴い、より高度な PCノートテイクスキルが必要となったことから、講師派遣を依頼した。 ■具体的な内容 〇平成 25年 9月 11日(水)、平成 26年 9月 9日(火)の 2回実施(各回 10時~ 15時) [実施方法] ・実施日については、学生が参加しやすい秋学期の履修登録日とした。 ・パソコン教室のデスクトップパソコンを使用して、一人や連携入力の練習を行った。 ・平成 25年の受講生は 18名(うち利用学生 2名)、平成 26年の受講生は 16名(うち利用学生 1名)で、午前中はソフトウェア IPtalkの基本操作や基礎解説、一人入力を中心とし、午後は連携入力を中心とした実践練習を行うカリキュラムで実施した。 アンケート結果 「自信がついた」「PC ノートテイクについて理解できた」「利用者の気持ちを考えることができた」「もう少し頑張りたい」 ■成果と今後の展望 〇講習会を受講した学生は、秋学期より平均 2コマ以上の PCノートテイクを担当することができ、秋学期から PCノートテイクを始めた 1年生も早く慣れることができて、技術も向上してきている。 〇学生の PCノートテイカーが増えたことから、近隣の要約筆記サークルへの依頼コマ数を減らすことができた。 〇アンケートの中には「手書きのノートテイクの練習も必要」というような、授業の形態と利用学生のニーズに即した多様な情報保障への気づきも記載されており、学生自身が情報保障に関して考えるきっかけにもなったのではないか。 〇現在のノートテイカー登録学生は約 40名ではあるが、まだ人数は不足しているため、今後も PCノートテイクができる支援学生の養成、また技術の向上を目指していく必要がある。 パネルディスカッション 本企画の趣旨 及川/パネルディスカッションを始めるにあたり、登壇者を紹介する。本事業の 6つの取組から 5名が登壇しており、ステージ向かって左から[ろう者学教育コンテンツ開発]担当の大杉、[英語教育コンテンツの開発]および[アカデミック・アドバイス提供体制の整備]担当の松藤、[体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)]担当の天野、[教育支援機器の評価と開発(視覚障害関連)]担当の宮城、[ PCノートテイカーの養成]担当の宇都野。また、指定討論を石原副学長が担当する。 (写真)  パネルディスカッションをとおして、本事業に対する理解を深めていただき、より具体的な活用イメージや情報の共有を図りたい。また、全国的な拠点として他大学との連携をさらに強化することを目的とし、各取組担当者からこれまでの活用事例の報告、および今後の活用方法・展望などについて提案を行う。  また、平成 28年 4月 1日に、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が施行されることを受け、高等教育機関における合理的配慮の実施に向けて、本企画が各大学における今後の取り組みの一助になることを目指している。 各取組担当者からの活動報告 ろう者学教育コンテンツの開発  本学では設立当初から、卒業後も聴覚に障害がある立場で生きていくために必要な知識について「聴覚障害学」「聴覚障害補償学」などの授業を開設し、指導実践をとおしてノウハウを蓄積してきた。これらの授業科目では聞こえの障害に焦点を当てていたが、あらためて、言語としての手話や文化、生活様式などにも焦点を当て、ろう・難聴者の様々な生き方、集合知として体系化し、学問として「ろう者学」を定義した上で教育コンテンツを開発・作成した。  具体的には、芸術、手話、スポーツ、コミュニティ、歴史、テクノロジー、教育の 7分野に分類し、課題を 200以上作った。例えば、運転免許取得に関するテーマでは、過去に聞こえない人が免許を取得できたのか、現在の制限の内容、取得手続きの流れなど、様々な角度からの知識を得ることが必要である。また、普段使用する補聴器についても、時代の変遷とともに、どのような歴史があって、科学的に進歩がなされたかという知識を持つことが非常に重要となる。その部分を課題として Webコンテンツにまとめ、聴覚障害学生に対して提供できるよう準備を進めてきた。 アカデミック・アドバイス提供体制の整備  本取組では、語学に特化したアカデミック・アドバイスの提供にあたって、本学の英語非常勤講師・細野昌子氏をアカデミック・アドバイザーとして起用し、相談体制を整えた。細野氏は手話通訳士の資格も持っており、他大学での講義通訳の経験も踏まえて聴覚障害学生のニーズを把握していたが、大学の英語の授業における配慮について全体像を把握するため、まずはアンケート調査を実施した。結果や考察についてはテクノレポートとして発表しており、本学 Webサイトで閲覧可能である。アドバイスの実施として、 30大学からの相談に対応した。具体的な事例として、支援担当者からは、ネイティブ教員の授業におけるノートテイクの表記方法について相談があり、英語教員からは、プレゼンテーションや読話の方法、英語能力検定試験における特別配慮の内容について問合せがあった。聴覚障害学生からも、英語教員に読話が難しいことを理解してもらう方法や、英語ができる支援者の募集方法などの相談があるなど、それぞれの立場から様々な相談が寄せられた。  また、有識者を招致して研究協議会やシンポジウムを開催した。シンポジウムではネイティブの先生から、音声認識のシステムを活用した情報保障や教材の工夫について紹介があり、現在英語教員である聴覚障害学生 OBの発表もあった。 英語教育コンテンツの開発  本取組では主に 2つのコンテンツを作成した。  「TOEIC Test対策講座」は、既存の Webコンテンツをベースとしてアニメーションの音声を字幕化し、解説を付加するなど聴覚障害学生にとってわかりやすくなるようカスタマイズした。目標点として 500点以下、 500点、 600点コースを設定している。申し込み後、アカウントを発行して利用開始となる。  もう 1つ「留学準備 Web講座」は、聴覚障害学生が留学するに際に必要な情報について、項目別に手話で解説した動画コンテンツである。例えば、聴覚障害学生を多く受け入れている大学や、必要な準備について具体的に紹介している。 体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)  本取組では視覚障害学生の体育・スポーツに関して、 4つの柱に沿って活動を行ってきた。  まず、当該分野に高い専門性を持つ人材の養成として特任研究員を採用し、知識の取得とスキル向上を図った。本学における体育授業を主な実習の場とした。このほか研修として、視覚障害者スポーツの視察や研修会、日本ライトハウス主催講習会等に積極的に参加した。現在では、講習会講師や他大学からの相談にも対応している。  2つ目に、情報収集および提供として、障害学生に対する体育実技についての全国アンケート調査と、視覚障害者スポーツの紹介 DVDの作成を行った。アンケート調査では体育教員を対象として、全国の高等教育機関に在籍する聴覚・視覚障害学生に対して行われている体育実技の事例を収集した。本調査の報告書については希望のあった大学等に配布している。 DVDについては、前述の特任研究員が視察を行った際に、関係者との意見交換など情報収集を行うとともに、視覚障害者スポーツのトップアスリートたちの映像を撮影し、映像資料とした。 300部作成し、今後配付予定である。  3つ目、視覚障害者スポーツの紹介や指導に関する講習会の開催および講師派遣については、これまで 23件に対応し、延べ 600人以上が受講した。講習会のプログラムや形態は依頼元との相談の上、希望に合わせて企画立案した。  4つ目、体育授業に関する相談・助言・支援については 7件に対応し、他大学から授業の内容や指導法に関する相談を受け、直接の授業支援等を行った。相談の中には、体育授業に関連した視覚障害学生の受け入れ体制の構築に関する内容もあった。 教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)  本取組では、視覚障害学生支援について、大きく 3つの柱に沿って活動を実施した。まず、視覚障害学生が在籍している大学からの相談を受け、訪問や研修会講師の形で対応した。 2つ目に、本学や他大学を会場として定期的に研修会や交流会を開催した。 3つ目として、支援機器について紹介・貸出を行った。  相談についてはメールや電話で対応したほか、研修会の場で直接相談を受ける例も多かった。相談内容に応じて、本学での事例や、これまで情報として蓄積した他大学での事例を紹介した。教材作成や授業の実施方法のスキル、機器の貸出については直接的に方法や内容を紹介したが、本学で当該内容のノウハウやスキルを持っていない場合は、専門家・機関等を紹介することもあった。具体的な事例について、テキストデータ化に関する相談として、図が変換できないため代替方法の問合せが増えてきた。方法の 1つとして、立体コピー機を紹介している。線や面などプリント部分を膨れ上がらせることで、全盲の学生が触って理解できる触図となるが、必要に応じて訪問・実演、触図サンプルの送付を行った。このほか、初めて全盲の学生を受け入れた大学への支援として、入学前から相談に対応し、入学後も学内での啓発活動や教材準備、就職に向けた準備など、段階的に継続して行った例もある。また、少ない事例だが、盲導犬に関する相談もあった。学内の制度として動物を扱った例が無かったようで、準備や管理など具体的な問合せがあり、本学の事例も踏まえて紹介した。  続いて研修会・交流会の実施について。年 1~ 2回開催し、視覚障害学生の支援に対する考え方や技術に関する情報交換や討議を行うとともに、近隣の大学同士で繋がりが持てるよう交流の場も提供した。  最後に、支援機器の紹介・貸出について。本日、支援機器室の見学を行っているが、本取組で所有する支援機器類はほとんど全てが貸出可能である。視覚障害学生支援において支援機器の使用は欠かせないものであるが、非常に種類が多く、実物を見る機会が得られにくい。そこで、これらの機器を貸し出し実際に学生が試用することで、ニーズに合うものを大学が購入できるようサポートした。 (写真) PCノートテイカーの養成  本取組では、他大学からの依頼に応じて PCノートテイカーの養成講座・講習会を開催するための講師派遣を行い、今年度は 5大学からの依頼に対応した。また、 PCノートテイク導入に関する相談にも対応した。相談事例として、必要な機材、 PCの台数、使用するソフトなどの問合せがあったほか、講座の回数や、募集人数に関する相談もあった。講座実施の留意点として、きちんと必要な知識を習得し実践に結びつくよう、学生が最初から最後まで出席できる時間で設定してもらった。目安として概ね 3時間程度のプログラムで実施した。  3つ目の活動として、本学内で養成講座を開催した。本学・天久保キャンパスでは、学生全員が聴覚に障害があり、情報保障として PCノートテイクが必須である。一方、同じ理由から学生同士で情報保障支援ができないため、近隣地域の方を対象として講座を開講し、養成を行った。学生と違って指導に時間がかかる面があり、初年度は 10回程度の連続講座を開催していたが、効果的に養成できるカリキュラムを検討し、今年度は 5回の講座で養成を行った。この活動をとおして、他大学での講座においても少ない回数で効率良く養成ができるよう、指導方法や内容の工夫を重ねてきた。 活用の提案・今後の展望 ろう者学教育コンテンツの開発  本学に事務局を置く PEPNet-Japanでは、 10年間の活動をとおして先進的に取り組んでいる関係者の間で色々と議論を積み重ねており、その中で次のような共通認識が得られている。それは、聴覚障害学生が大学で情報保障を受ける中で、今後自立していくための社会性と主体性をきちんと身につけることが必要であり、そのプロセスを支援することが、大学として担うべき支援のあり方ではないかということである。教育的な支援として、今回のテーマにある合理的配慮の基本的な考え方に合致しており、そのための基礎環境の整備が必要とされる。その 1つとして、本取組が貢献できるのではないかと考えていることから、全国の高等教育機関に対して本コンテンツを周知していきたい。  利用大学からのフィードバックをとおして、本コンテンツの活用方法等が課題として挙げられている。今後は、本コンテンツを活かして支援等の目的に合った指導ができる専門家を養成し、必要に応じて講師派遣を行う中で、ネットワークを形成したい。また、オンライン指導の開発についても、来年度からの課題として考えている。 アカデミック・アドバイス提供体制の整備  具体的な相談事例を基にテーマを決め、問題点とそれに対するアドバイスを1つのシートにまとめ、配付できるコンテンツを作成する計画がある。現在、英語の技能試験に関する配慮についてのシートが完成しており、聴覚障害学生が英検や TOEIC、 TOEFL受験時のリスニング試験の免除や配慮に関する情報等を記載している。同様に、聴覚障害学生が英語教員になるにはどうしたらよいか、英会話などの受講が難しい場合の代替方法など、全 8テーマについて作成予定である。これらは、語学に関する課題を抱えている学生や指導担当教職員にとって有益なコンテンツになると考えている。  一方、来年度以降もアドバイスの実施については活動を継続していきたい。 英語教育コンテンツの開発  先に挙げた 2つのコンテンツのほかにもう 1つ、英語での授業に英語で情報保障を行うという試みをしている。本取組でより良い方法を開発し、コンテンツとしての提供を目指したい。また、単位互換制度についても検討の余地があるのではないか。別事業ではあるが本学の取り組みとして、「英語サロン」を実施した。第一弾として、アメリカ人のろう者を講師に招き、英語の指導を行った。第二弾として、アメリカ人の聴者に英語で講義をしてもらい、これに字幕を付ける講座を計画している。また、「異文化コミュニケーション」という授業では、ロシアやアメリカの大学を訪問予定である学生に対して、筆談による英会話の研修プログラムも検討している。このように他大学でも活用できるプログラムを開発し、提供していけるのではないか。 体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)  本取組の各活動について必要性と重要性を感じており、利用大学からも評価を受けている。今期の実績を踏まえて、次期の取組についても同様に進めていきたいと考えている。ただし、さらに活用を推進するためには当方からの発信を継続して行う必要があり、これまで蓄積された事例やアンケートの調査結果、映像資料を使いやすい形で提供したい。インターネット配信についても、今後検討していく。  講習会の開催・講師派遣に関しては、当初、利用対象として高等教育機関の教職員を想定していたが、取組の進行とともに、将来的に視覚障害学生・障害児と関わる可能性のある体育学部、教育学部、福祉関係学部の学生にも範囲を広げてきた。また、開催にあたり、時間の設定など依頼元の希望や状況に合わせた形で、柔軟に対応をしてきた。視覚障害学生の体育・スポーツの支援に関する門戸を広げたことにより、本取組が利用されやすくなったと考えている。受講した学生や利用大学の担当教職員からも好評を得ており、複数回・継続的な開催の依頼に至っている。体育学部や教育学部、福祉関係学部の学生にとって、本取組の講習会や研修会は非常に実用的なものである。また、 5年先、10年先を考えた時に、講習会により当該分野の知識・経験を持った学生が増えていくことが、視覚障害学生・障害児の体育・スポーツ環境を向上させていくことに、確実かつ直接的に繋がるであろうと考えている。 教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)  本取組では今後の展望として、大きく 2つのことを考えている。  1つは、これまでの成果として、入学直後から卒業、就職までかなり長期的にアドバイスを行ったケースがいくつかあったことから、そのような事例を、視覚障害学生支援のモデルケースとして複数構築できるのではないか。各大学で環境や条件、予算や人員は様々であり、全てに当てはまるモデルが提示できるとは限らない。しかし、視覚障害学生支援に関する認知は少なく、視覚障害学生が在籍している場合も少数であることが多いので、モデルケースを共有していきたい。  もう 1点、本学では今年度から大学院の新しい専攻、「情報アクセシビリティ専攻」が開設され、現在、修士課程の学生が在籍している。その中には全盲の学生もおり、学部の学生だけではなく、大学院における情報保障や支援のあり方についても情報提供していけると考えている。  このほか、相談対応や、研修会・交流会の実施、支援機器の紹介・貸出についても、今期同様に継続していきたい。 PCノートテイカー養成  今後、本取組としてできることについて。現在は現場での情報保障支援について取り組んでいるが、来年度以降は、入力者が自宅から支援するなど遠隔情報保障についても取り組んでいきたい。こちらについては、すでに PEPNet-Japanでも取り組まれており、連携しながら進めていきたいと考えている。また、本学では養成した PCノートテイカーたちを引き続き養成し、エキスパートとして他大学に講師派遣できるようにしていきたい。  そのほか、利用学生の様々なニーズに対応できるよう、 PCノートテイクの評価方法について、評価のポイントや基準など検討していきたい。また、初心者対象の講習会やこれから PCノートテイクを導入する大学だけではなく、 PCノートテイクの質の向上を目指した講習会の開催やカリキュラムの作成にも取り組んでいきたいと考えている。 話題提供 石原/これまでの発表や報告を受け、私からは「合理的配慮」の概要についてあらためて説明したい。合理的配慮について、具体的にどのような配慮の支援を行うか、どこまで支援する必要があるのか、皆さんの関心の高いところだと思う。  まず、合理的配慮の定義について。合理的配慮という言葉は国連の障害者権利条約(以下「権利条約」)を機に社会的に使われるようになった。権利条約の中で、合理的配慮は「必要かつ適切な変更及び調整」であり、「過度の負担を課さない」ものと定義されている。  次に、文部科学省の「障がいのある学生の修学支援に関する検討報告会第一次まとめ」では、合理的配慮は「大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うこと」とされると同時に「個別に必要とされるもの」と定義されている。つまり、個別のニーズに対して相談・対応する必要がある。さらに、「体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とあり、権利条約と同じような文面であるが、「体制面、財政面」という文言が明記されている。  文部科学省の中で、初等中等教育における合理的配慮については特別教育支援課が、かなり具体的な例を提示している。一方、高等教育における障害学生への教育・支援については、専門的に扱った部局がないため、前述の検討報告会として有識者を招集して設置された。  さらに、平成 28年 4月に施行される障害者差別解消法では、合理的配慮が法的に義務付けられることとなり、条文に沿ってどこまで実施しなければならないかというところで、各大学での検討がなされていると思う。同法では合理的配慮について「実施に伴う負担が過重とならない範囲で行われるもの」「双方の建設的対話による相互理解の中で柔軟に対応がなされるもの」と定義されており、中でも「双方の建設的対話」が重要である。  権利条約の中では、あらためて、「障害者の基本的人権」「基本的自由の享有の確保」「障害者の尊厳の尊重の促進」等が明示されている。同時に、「差別の禁止」「参加の促進」「条約を監視する枠組みの設置」など障害者の権利のための措置等が規定されており、障害者差別解消法の内容に繋がっている。  同法においては、「差別的扱いの禁止」「合理的配慮の不提供の禁止」が規定されている。特に努力義務の解釈について、現場で戸惑うのではないかと思われるため、あらためて一般的な解釈をしておきたい。  まず、差別的扱いの禁止について、国、地方公共団体、民間事業者すべてにおいて法的義務とされている。高等教育機関における差別については、入学試験の段階から該当する。  次に合理的配慮の不提供の禁止について、国、地方公共団体においては、法的義務とされている。「国」には、国立大学法人や、国立の高等専門学校が含まれる。一方、「民間事業者」には私立大学が該当するが、こちらは努力義務とさ れている。  また、国(国立大学法人等を含む)では、これらの取組に関する対応要領の策定が法的義務とされている。文部科学省では、今年 1月に対応指針を示すことになっていたが、 8月頃になるのでは。指針に合わせて要領を作成するという大学が多いと思うが、その前に大学独自で対応要領を検討する動きも見られる。民間事業者(私立大学含む)は、事業分野別のガイドラインの策定が求められている。  差別を解消するための支援措置として、まず「紛争解決」が挙げられる。機関毎に体制の整備が求められており、多くの大学で相談体制の整備が進められている。このほか「地域における連携」「普及・啓発活動の実施」「差別及び差別解消に向けた取組に関わる情報の収集・提供等」とある。  合理的配慮を義務付ける法律として障害者差別解消法のほかに、障害者基本法、障害者総合支援法、改正障害者雇用促進法が挙げられる。障害者雇用促進法では事業所における合理的配慮について示されており、次年度以降に本事業で新たに取り組むキャリア支援にも関連する法律である。  合理的配慮の考え方として、「機会の確保」「情報公開」「決定過程」「教育方法等」「支援体制」「施設・設備」の 6項目について、具体的に配慮を講じなければならない。  各関係機関が取り組むべき課題として、まず挙げられているのが「短期的課題」。「各大学における情報公開及び相談窓口の設置」として、受け入れ体制・方針を明確に示し、情報を公開すること。また、相談窓口の統一や支援担当部署の設置も必要である。そして、「拠点校及び大学間ネットワークの形成」。これは、 JASSOなども努力しているところであり、文部科学省認可で行っている支援事業や拠点事業も、ネットワークの形成に貢献している。  ここで参考として、初等中等教育における合理的配慮の具体例について紹介したい。中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」に沿って解説する。  合理的配慮の類型として、まず「教育内容・方法」「支援体制」「施設・設備」の 3項目が挙げられており、高等教育においてもこれらの項目が同様に必要となろう。特に基礎的環境整備については障害者差別解消法の中でも義務付けられているが、高等教育にも該当するものとして、具体的に「ネットワークの形成」「教材の確保」「施設・設備の整備」「専門性のある教員・支援員等の人的配置」「個に応じた指導」が挙げられる。  合理的配慮を具体的に実施する際に、どこまでやるのかという点において各大学で検討がなされるであろう。実際には、在籍している・入学する障害学生の障害種や、制度面について考慮した上で、個々のニーズに合わせて合理的配慮の具体的な内容や範囲を決定いただければと思う。その際には、今回のパネルディスカッションでの話題を視野に入れて検討いただきたい。  今後さらに本事業を発展させ、キャリア教育についても取り組む予定である。本事業の各取組を障害学生支援に是非ご活用いただきたいと考えている。 (写真) 質疑応答 Q.ろう学校の教員をしているが、卒業生から、自分の障害を大学の先生に理解してもらう方法について相談があった。例えば、大学の教授会などでろう者学教育コンテンツの一部を上映し、聴覚障害や聴覚障害学生への配慮について情報提供できるのではないかと考えたが、活用することは可能か。 A.聴覚障害学生にとって、自分の障害について周囲に理解を得ることの困難さは、様々な場面で生じうることである。まず大切なのは、与えられた状況の中で、理解を求めるばかりではなく、教員や事務職員等に対してやりとりをして調整していくこと。その力を身につけるための教育的支援が、今回のテーマである合理的配慮の基本的精神だと思う。先進的な取組の事例など、 PEPNet-Japanでも情報を蓄積している。本取組で作成したコンテンツについては、質問にあったようなニーズに合わせて調整・提供することも可能だと思うので、今回の意見を参考に検討したい。(大杉より回答) 及川/ PEPNet-Japanという聴覚障害学生支援のネットワークの事務局が本学の中にあり、本研修会にスタッフが参加している。コメントをお願いしたい。 A. PEPNet-Japanでも、聴覚障害学生のエンパワメントをテーマとした研修会の開催や DVD教材の作成を行っている。初めて聴覚障害学生を受け入れた大学からの問合せにも対応し、無償で教材を提供している。ろう学校でも、自分の障害を説明する方法などの教材として活用いただける。まずは気軽にご連絡いただきたい。( PEPNet-Japan事務局より回答) (写真) Q.私立大学では合理的配慮が努力義務となっているが、瑕疵(かし)に関する規定はあるか。 A.努力義務であっても、義務であることに変わりない。これまで大学の方針や財政面から実施されない場合もあったと思うが、差別解消法では、要望があれば実施する方向で努力することが求められる。それがなされない場合には、相談窓口で個別に相談の上、支援体制ができない・義務が守られない場合は、紛争となることが予想される。紛争解決の窓口については国や地方公共団体が作ることになっており、今後も受けられると思われる。(石原より回答) Q.入学を志願してきた段階で、大学内で検討した結果、その学生を受け入れるための体制が全く整っていない場合に、入学を断ることは差別に当たるか。 A.差別解消法の中に詳細は書かれていないが、差別と解釈される一方で、「体制面・財政面において均衡を失したもしくは過度の負担を課さないもの」との解釈もあり、その間の調整になると思う。ただし、従来のように一方的に断ることはできにくいのは事実。(石原より回答) 司会/本日、文部科学省職員の方が参加されているので、コメントをいただければ。 A.受け入れに対して努力をしなければならない方向ではあるが、合理的配慮の定義を考えると「均衡を失したもしくは過度の負担」の部分で議論があるかと思う。個別の事案については、担当窓口にご相談を。(文部科学省職員より回答) Q.一般的な大学カリキュラムとして、体育の授業に視覚障害学生が参加する際にどのような配慮を実施したらよいのか。マラソンの授業に伴走を付けた事例を聞いたことがあるが、ほかにも事例があれば教えてほしい。 A.本取組で実施した全国調査の中で、様々な事例を収集できたので、報告書を参考にしてほしい。一般大学での授業マネジメント方法は本学と異なるが、種目に合わせた配慮やカリキュラム作成についてアドバイスできる。大学の体制や予算の状況に左右される面もあると思うが、事例として、単独の体育授業のコマを別枠で設ける、参加できない内容のみ別プログラムで行う、視覚障害者スポーツを取り入れて障害区別のない授業を行う等が挙げられる。(天野より回答) Q.医療福祉系の学部では、病院や施設での実習教育を伴う。学内での配慮は努力できるが、実習先での配慮の確保が課題である。障害学生を受け入れる以上は実習での配慮も講じる必要があるが、大学としてできるかどうか入学時に見極めるのは難しい。例えば、ノートテイカーについても実習先に配置する形がよいか等、助言いただきたい。 A.実習場面での情報保障について検討する際に、まず実習の目的を明確する必要がある。例えば、障害者施設に行く場合、施設の利用者とのコミュニケーション方法を自分自身で模索させることが目的なのか、あるいは実習先での仕事の流れを理解させることが重要なのかというように、場面ごとのポイントを明確にした上で、必要な場面に情報保障を付けたり、施設側にある程度筆談対応をお願いするなど、検討が必要である。障害があるから実習に行かせないというのは、合理的配慮の提供に適さない。受入れ先とともに、学生の修学目標が達成されるための方法という視点で相談する必要があると感じている。( PEPNet-Japan事務局より回答) 各取組担当者からのコメント 他大学で聴覚・視覚障害学生に指導・支援をする際のポイントや留意点など。 ろう者学教育コンテンツの開発 聴覚障害当事者としても、本日の研修会をとおして、合理的配慮について他大学では様々な検討がなされていることを興味深く聞いた。障害学生支援において、「教育的支援」が非常に重要となっている。大学側が入学後のことを考えて、入学試験の受験を断る場合があるかもしれないが、学生側としては結果を伝えられるのみで、そこに至る過程や理由も分からない状況がある。まずは入学試験に対する合理的配慮を検討していただきたい。受験や合否に関することは障害の有無にかかわらず公平に行い、合格後にあらためて、入学後の体制について学生本人と相談していただければと思う。大学側で対応が難しい面があればその理由も併せて、本人に説明して欲しい。学生にとっては、卒業後に社会の中でも同様の問題に出会うはずなので、自分に関わる問題として本人の気付きや理解を促すことも、教育的支援に含まれると思う。 学外実習の受け入れを断られた例についても、大学側が外部と交渉し結果のみ伝えるだけでは、本人は自分の置かれた状況を理解できないままとなる。なぜ難しいのか、プロセスも含めて学生自身も知る必要があり、それを指導していくことが本人の気付きにも繋がる。聴覚障害学生が情報保障支援を受ける中でも、自身の意見を発信していくことで、より良い環境や支援に繋がる。それが大学の発展にもつながり、合理的配慮実施の表明にもなると、私は考えている。 そこで是非、問題があればそれぞれの内容についてきちんと学生と対話していただき、不明な点は本学へ相談いただきながら、一緒に考えて解決を図りたい。 アカデミック・アドバイス提供体制の整備/英語教育コンテンツの開発 大学の語学授業の特徴として、非常勤講師が担当する場合が非常に多いことが挙げられる。また、ネイティブ教員が担当することも非常に多いと聞いている。先の質問の中で、どのように教員に聴覚障害のことを伝えたらよいのかという内容があったが、聴覚障害学生にとってはネイティブ教員に話しかけることに、まず大変躊躇するということがある。そこで、教員への伝え方や内容についてアドバイスすることで、学生が一歩踏み出せた例があった。また、ネイティブ教員側が情報保障に抵抗を感じていたが、一度試したところ理解してもらえた例もある。 英語の授業における情報保障については、ノートテイクを英語・日本語どちらで行うか、翻訳した場合は学習にならないのではなど、他の授業と違う悩みがある。一方、ネイティブ教員は英語なら英語だけを話すので、かえってやりやすいという話もある。英会話の授 業では聞こえないと参加が難しいが、話の内容を情報保障することで、内容や難易度などをつかむこともできる。学生が教員に対して要望を出すことは勇気がいることだと思うので、合理的配慮に関する支援担当者が窓口となり、教員との橋渡しをしていただくことも必要だと思う。各大学で合理的配慮に関する FD/SD研修会が開催される際に、このような内容が含まれることを期待したい。 (写真) 体育・スポーツ教育コンテンツの開発(視覚障害関連)  健常学生の中に 1人の視覚障害学生がいる場合の指導については、1つの絶対的な回答はないと考えている。しかし、視覚障害学生への配慮の方法については、授業内容を含めて提供できる情報をたくさん持っていると自負しているので、相談に対応していく中でその大学と学生に合った方法を一緒に作っていきたい。施設・設備に関する内容を含め、まずはこちらに相談していただきたい。視覚障害学生の場合は、体育館までの移動についても困難が生じる。そこも含めてこちらからアドバイスができる。方法の提案、変更の必要性についての判断など共に考えながら、その学校に合わせた配慮や授業内容を作り上げていきたい。それが、視覚障害学生支援の非常に大切な事例になっていくと考えている。 教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連)  体育の話に重複する部分があるが、様々な支援の方法があるということを、是非お伝えしたい。最近、ある大学の視覚障害学生から、大学が何もしてくれないという相談があった。大学の教職員からよく相談を受けていただけに、学生からなぜそのような意見が挙がったか不思議だったが、よく話を聞いてみると、共同で使う PCに音声読み上げソフトが入っていないため、休み時間に利用できなかったとのこと。学生に事務担当課への相談を促したところ、すんなりソフトを購入してもらえた。実は、音声読み上げソフトは 4万円程度で購入できるのですぐに予算が付いたのだが、学生としては、声を上げることにハードルを感じていたようだ。障害者差別解消法の基本方針にもあるように、学生と大学側の相互の対話から対策を見つけ出すのが一番と思う。合理的配慮について考える際は、大学側としても障害学生の要求に応えられるか心配が先立つこともあると思うが、案外容易に解決できることもある。本事業をとおして、様々な解決方法の提案やコンテンツの提供ができるので、今後も相談していただきたい。 PCノートテイカーの養成  PCノートテイクの導入について、少しハードルが高いと感じることもあると思うが、各大学の予算や設備などの状況に合わせて情報提供や相談に対応できるので、まずはお問い合わせいただきたい。色々な相談を受けることで取組の発展にもつながり、様々な事例に対応できるようになるなど他大学に還元できる。  また、各大学で PCノートテイクを導入された際には、利用学生も含めた「学生同士の振り返り」を行っていただきたい。これまで講習会を行ってきた中で、利用学生と支援学生の交流がある場合は、良い雰囲気で取り組めていた印象がある。振り返りや交流をとおして、共通の認識が持て、より良い情報保障ができるようになるのではないかと思う。 指定討論者より 石原/先ほど、卒業後にも合理的配慮に関する壁があるという話があったが、その通りである。本事業では来年度からキャリア教育に関する取組を開始する。大学は学生に教育というサービスを提供する場だが、職場とは労働し対価として報酬を得る場である。全く立場が異なってくる。職場では障害の有無にかかわらず、同等の労働能力を求められるため、障害への配慮について、自分自身で周囲へ説明する能力が必要となる。自分にとって必要な「措置」を求め、それがあれば自分は障害の無い人と同等に仕事ができることを周りに納得させるような能力が、大学卒業までにある程度育っている必要がある。それが大学までのキャリア教育であると考えている。  キャリアというのは就職支援だけではない。合理的配慮について教育現場では敏感になっているが、事業所ではそこまでの意識はまだない。そういうところに学生は卒業後入っていくことになるということを、付け加えておく。 司会より 及川/各取組担当者からの活動報告や今後の展望等をとおして、本事業についてご理解いただけたのではないか。本事業で開発した様々な教育コンテンツ・リソースを、今後も積極的にご活用いただくことで、合理的配慮の提供の一助となれば幸いである。 アンケート結果(抜粋) (アンケート回答者 37/ 54名) ●本研修会の内容について意見・感想 <事例報告> 発表内容について ・3つの事例発表は貴重な機会であり、大変参考になった。ハードルが高いように感じていた取り組みも、少し身近になった。 ・支援にあたる方々の苦労が伝わり、実際に支援に取り組もうとしても、大学全体での意識の共有等、即時的には難しいことがわかった。 ・学生による体験談の報告は大変興味深かった。障害学生との合同合宿を通じて学び、理解を深めることはとてもよい取り組みだと思う。 ・PCノートテイカーの養成・確保などの課題を共有でき、有益だった。 ・支援機器導入についてアドバイスがもらえることがわかった 筑波技術大学・障害者高等教育拠点の取組について ・各大学の活用事例をとおして、どのような事柄について、どのような相談をしたらよいか、イメージできた。 ・全国的な拠点としての取り組み、支援の様子がわかり、筑波技術大学のノウハウやコンテンツを利用したいと感じた。 その他 ・様々な支援について取り組まなければという思いが強くなった。 ・実践に伴う困難やその対策などの詳細についても知りたい。 <パネルディスカッション> 合理的配慮について ・様々な議論がある合理的配慮には現実的な難しさがあることを再認識したが、文部科学省の方のご意見を間近で伺うことができてよかった。 ・合理的配慮は各校に温度差があり、苦慮しつつも法律に追い付いていないのが現状。相互に話し合い、意識改革をして、問題解決に向けて動き出すことが第一歩だと痛感した。 筑波技術大学・障害者高等教育拠点の取組について ・各担当から具体的な話を聞け、問題意識がわかり、参考になった。 ・相談窓口等がわかり、とにかくまずは相談してみようという気持ちになった。 PEPNet-Japanの利用も検討していきたい。 その他 ・障害学生の社会性や自主性を養うための情報保障であり、支援する側が障害学生の成長を図ることも大切だという内容が印象的だった。 ・支援の方法には様々な方法があること、支援する側・教員・利用学生との関係が大切であることを再確認できた。 <障害者高等教育研究支援センター各事業に関する展示> ・参考になり、今後いくつか利用してみたいと思うものがあった。 ・必要な支援について問い合わせができることを知ったので、持ち帰って報告したい。 <支援機器室見学> ・最新の高額な支援機器も直接確認でき、今後の支援の具体的なイメージが持て参考になった。 ・ニーズに沿った様々な便利な機器を試験的に貸与していただけるそうなので、今後相談させていただきたい。 ●利用を希望する取組や、さらに内容を知りたい取組など PCノートテイカー養成講座、外国語 (英語 )教育、一般学生との体育に関わる情報保障、キャリア教育、教育支援機器の評価と提供 (視覚障害系 )、理工系大学における実験等の情報保障、合理的配慮、関係者への周知・理解を得る方法、インクルーシブ教育、等 【取組担当者一覧】 FD/SD研修会の開催 各取組担当者 教育コンテンツの開発 ろう者学(デフ・スタディーズ)教育コンテンツ ◎大杉豊(准教授)小林洋子(助教)管野奈津美(技術補佐員)戸井有希(技術補佐員) 英語教育コンテンツ ◎須藤正彦(教授)松藤みどり(教授)戸井有希(技術補佐員) 体育・スポーツ教育コンテンツ(聴覚障害関連) ◎及川力(教授)中島幸則(准教授) 体育・スポーツ教育コンテンツ(視覚障害関連) 香田泰子(教授)◎天野和彦(准教授)栗原浩一(特任研究員) アカデミック・アドバイス提供体制の整備 ◎松藤みどり(教授)須藤正彦(教授)大杉豊(准教授)戸井有希(技術補佐員)細野昌子(非常勤講師 / アカデミック・アドバイサー) 情報保障技術と提供 パソコンノートテイカーの養成 ◎宇都野康子(技術補佐員) 教育支援機器の評価と提供(聴覚障害関連) ◎小林正幸(教授) 教育支援機器の評価と提供(視覚障害関連) ◎飯塚潤一(教授)宮城愛美(講師) (◎は取組主担当) あとがき  筑波技術大学は、聴覚・視覚障害学生を対象とした、わが国唯一の国立大学として昭和 62年に開学いたしました。平成 22年度には、聴覚・視覚障害者のみを受け入れる世界で初めての大学院を、平成 23年度からは教職課程を開設いたしました。また、平成 26年 4月には、情報保障などの障害者支援やそのコーディネートに関する知識や技術を有する専門家を育成する、国内外で初めての大学院「情報アクセシビリティ専攻」を設置するなど、多様な教育の需要と課題に応えられる大学として整備を進めてまいりました。  障害学生支援は、機器や設備を整えるだけでは不十分で、教職員の方々の理解と支えがあって、はじめてうまくいくことは言うまでもありません。  これまで実施してきた「障害者高等教育拠点」事業では、高等教育機関で障害学生支援に携わる教職員の方々を対象として、聴覚・視覚障害学生の支援・指導のノウハウの提供に取り組んでまいりました。 5年間の取組をとおして、本学がこれまで蓄積してきた教育資源のほか、本事業で開発した教育コンテンツが数多く加わりました。そのほか、充実した聴覚障害学生支援に向けて、新たな教育支援機器の開発を行いました。  聴覚・視覚障害学生の指導・支援に関する相談にも応じてまいりました。特に、聴覚障害関連では、語学に特化したアドバイス体制の整備を行ったほか、 PCノートテイクの導入に関する相談対応や他大学に開催する PCノートテイク講習会へ講師を派遣いたしました。  視覚障害関連では、体育・スポーツに関する講習会を開催することで、授業における配慮について理解が得られたと考えております。また、情報保障機器や支援方法全般に関する相談対応を行ってまいりました。  本事業で開発してきた教育コンテンツや指導・支援の技術を他大学に提供し、フィードバックされることで、さらに協調的に発展してきたものと自負しております。  平成 28年 4月には「障害者差別解消法」が施行され、合理的配慮の提供が義務付けられることから、今後、障害学生支援に取り組む高等教育機関が増加するものと考えられます。すでに障害学生支援に取り組んでいる高等教育機関でも、より質の高い支援や合理的配慮を満たす支援のための取組がなされていくと思います。  本事業は、次年度からは「教育アクセシビリティの向上を目指すリソース・シェアリング~合理的配慮がなされた環境における高等教育修学の保証~」をテーマとした事業として、新たにスタートいたします。この事業では「障害学生のためのキャリア支援」をテーマとした取組も加わる予定です。今後も「障害者高等教育拠点」事業として、聴覚・視覚障害学生支援の教育・支援ノウハウを提供してまいります。  5年間の本事業の活動が高等教育機関の障害学生支援体制構築の一助となり、障害学生の社会参加と自立の促進、高等教育機関のバリアフリー化に貢献できましたならば、本事業の成果があったといえるのではないでしょうか。 平成 27年 3月障害者高等教育研究支援センター長 須藤 正彦 文部科学省認定教育関係共同利用拠点(平成 22年度~ 26年度) -聴覚・視覚障害学生のイコールアクセスを保障する教育支援ハブの構築-「障害者高等教育拠点」事業報告書 国立大学法人筑波技術大学(ロゴ) 編集・発行:〒305-8520 茨城県つくば市天久保 4-3-15 国立大学法人筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 障害者高等教育研究支援センター -聴覚・視覚障害学生のイコールアクセスを保障する教育支援ハブの構築 - 「障害者高等教育拠点」事業  報告書 編集・発行 国立大学法人 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター