フィリピン・セブ島での英語の短期留学に関する報告 近藤 宏1),笹岡知子1),井口正樹2) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻1) 理学療法学専攻2) 要旨:筑波技術大学の国際交流事業の一貫として,2017年3月19日から25日までの1週間,英会話能力の向上を目的に語学留学を行った。保健科学部学生2名が参加した。滞在先はフィリピン・セブ島の語学学校であった。短期間の語学研修ではあったが,学生にとって英会話能力の向上のみならず,語学学習を通じて現地の文化や人との交流など貴重な経験が得られ,国際感覚を濡養する良い機会となった。参加学生は,フィリピン人講師によるマンツーマンのレッスンを5日間で36時間受講した。 キーワード:国際交流,英語,英会話,短期留学,フィリピン 1.はじめに 本学は開学以来,大学間協定校への訪問や見学[1]-[3],欧州の視覚障害学生サマーキャンプ[4],[5]など,積極的に国際交流事業を進めてきた。しかし,大学の主役である学生一人一人が協定校の学生等と国際交流できるだけの十分な語学力を備えているとは言い難い。本学の学生がより国際的になるためには,英語でのコミュニケーション能力向上は必須であり,その習得方法については課題となっていた。そこで今回,初めての試みとして,視覚障害を有する学生を対象に英語習得を目的とした短期留学を企画,実施したので報告する。 2.活動の目的 本研修は,英語,特に会話能力の向上を主な目的として行われた。また,海外での生活を通して自立心・社会性を養うことも目的とした。 3.参加学生・引率教員 本研修では,英会話留学事業を展開する株式会社ファーストウェルネス(First wellness English Academy;以下,FWEA)の語学留学に参加した。FWEAは聴覚・視覚障害者を対象としたレッスンを行っているわけではないため,情報保障が比較的容易な視覚障害学生の参加が現実的と考え,保健科学部の学生を対象に募集した。また,3月下旬に行われたため,1〜3年生を対象とした。派遣人員2名に対して,3名の応募があり,書類選考・面談の結果,以下の2名となった。 ・ 保健学科理学療法学専攻2年 佃 沙織・ 情報システム学科3年 浅沼 孝誉なお,保健学科鍼灸学専攻 近藤宏助教,笹岡知子助教の2名が引率すると共に,学生と同様に,語学研修を受講した。 4.研修期間,研修施設について 4.1 研修期間研修期間は,平成29年3月19日(日)から3月25日(土)で,レッスンは3月20日(月)から3月24日(金)であった(表1)。 表1 語学留学のスケジュール 4.2 滞在地(フィリピン・セブ島)についてセブ島は,フィリピン中部のヴィサヤ諸島にある島で,南北に200キロメートル程の細長い島であり,世界中から多くの観光客が訪れる場所である。なお,フィリピンは,英語話者人口の絶対数が世界で第三位とも言われ,また発音はネイティブに近い。物価は日本の1/2とも言われる。日本からは飛行機で4時間半程度,時差は1時間である。そのため,日本の近隣で,質の高い英語教育が比較的安価で受けられるという特徴がある。現在,セブ島には,3000人程度の日本人が暮らしており,また,語学学校が300校程開校している。フィリピンの中で治安が安定しているエリアとなっている。滞在した3月は1年の中でも暑い時期にあたる。日中は31度を超えるが,夕方には28度前後となり,湿度が低いため,過ごしやすい。なお,どの施設(語学学校,ホテル,レストランなど)も非常に冷房が効いており,薄い上着を常備するが望ましい。 4.3 研修施設について今回,留学したFWEAは,セブCityのMJ Hotel内の9階と10階のフロアに校舎を構えている。広さは9階と10階を合わせて約220m2 で,教室が32室ある。一つの教室の大きさは,1.7m×1.2m程である。各教室には机,椅子2脚,ホワイトボードが設置されている。 セブ島をはじめフィリピン内の語学学校の多くは,ドミトリー形式(3〜4人部屋)の寄宿舎を併設している。FWEAには寄宿舎はない。ホテル滞在型(1人または2人部屋)の学校となっている。留学生の宿泊は,MJ Hotelとなり,2014年に開業した比較的新しいホテルである。客室54室の中型ホテルである。ホテルの1階にはレストランがあり,朝食などの食事を取ることができ,外出することなく留学期間中過ごすことが可能となっている。FWEAは,年間700人程度の日本からの留学生を受け入れている。10〜20歳代の留学生は,全体の15%程度である。ホテル滞在型のため30歳以上の社会人がその多くを占めている。多くは1〜2週間程度の短期留学者である。学校には,フィリピン人講師が20人,フィリピンに精通した日本人スタッフ2人とフィリピン人スタッフ2人が常時勤務している。講師の年齢は,平均25歳位(20〜40歳代)である。男女比は1:9と女性が圧倒的に多い。講師は皆とても気さくで,また南国特有の陽気さを兼ね備えている。英語学習はもちろん,現地生活などについても懇切丁寧に相談に乗ってくれる。 5.研修の概要について 5.1 事前研修・出発事前研修は,出発1週間前に春日キャンパスで行った。研修の目的や日程,渡航時の注意点や滞在中の心得などについて説明した後,各学生の視覚障害状況や必要な支援についての確認を行った。また,研修に期待することなどについてディスカッションを行った。出発当日は,つくばから成田空港へ2名が,そして残りの2名は各自,空港へ行き,空港で合流した。 5.2 研修の概要レッスンはすべて講師1人につき生徒1人のマンツーマンによるプライベートレッスンを採用している。マンツーマンのみを採用している語学学校はセブ島では非常に少ない。留学生1人1人の希望やレベルにあったレッスンをオーダーメイドできるため,落ち着いた環境の中で,非常にきめ細やかに,効率よく受講することができる。語学学校内は,カフェテリア以外は英語以外の言語を話すことが原則禁止されている。なお,同時期に入学した留学生は7名で20〜60歳代と年齢層の幅があった。レッスンは,月曜から木曜の全日と金曜午前に行われた。午前午後それぞれ4レッスン(1レッスン50分)を,8時から17時まで受講し,1週間で計36レッスンを受講した。なお,レッスンごとに教室を移動する。レッスンの内容は,Listening, Speakingなど,事前の希望に即した内容であった。 5.3 レッスンスケジュール1日目は,8:00から,オリエンテーションを行った後,希望するカリキュラムの内容についてのアンケートが行われた。9:00からListening, Speaking, Reading, Writingのレベルチェックテスト。12:00から17:00までレベルチェックテストの結果に応じたレッスン(BeginnerからAdvancedの6段階)が行われた。2〜5日目は,8:00〜17:00まで終日レッスン。なお,毎日,一日の最後の授業担当講師が,Buddy Teacher(相談担当教員)となり,その日の授業のレビューを行い,留学生の理解度を確認した。また,授業やその他で難しさを感じる場合は相談役として対応していた。6日目は,8:00〜12:00までレッスンを行い,13:00から1時間程度で卒業式が行われた。式終了後,卒業生一人一人が英語でのSpeechを行った(表2)。 6.視覚障害に対する配慮について FWEAで視覚障害補償について配慮してもらった内容は,視覚障害学生への声かけ,スケジュール表の拡大,教室移動サポートである。1日目と2日目は授業終了ごとに対象学生に日本人スタッフが声かけをし,トラブル等の有無を確認してもらった。教室の移動は担当した講師が,次の教室までサポートしてくれた。スケジュール表は,通常の2倍程度に拡大して配布してもらった。なお,ルーペなど視覚障害補償機器については,用意がないため,持参するように事前に依頼があった。またこれまで,ホテルの規模が小規模であったためかホテル内で両替することができなかった。しかし,視覚障害を有する学生が極力外出しなくてもすむようにホテル側と交渉し,今回のイベントを期に両替が可能となった。なお,これまでは両替のために近隣のショッピングモールの換金所や銀行まで行かなければならなかった他の留学生にとってもメリットになる変更となった。現地の語学学校には,視覚障害を有する留学生が入学することは初めてのことであった。最終日,すべてのカリキュラムが終了した後に日本人スタッフと教員との面談を行った。その中で,視覚障害の程度と共に対象となる視覚障害学生がレッスンを受講する際に,なにができて,なにができないかのかについての情報が事前にわかると,担当講師に説明ができたかもしれないと述べていた。レッスン中,講師が壁掛けのホワイトボードに板書した内容を学生がルーペで読むことがあったようである。しかし,その姿を見た講師が,次から板書する場合は,ホワイトボードを使用せず,用紙に記入し,学生に渡す方法に変更したようである。また,語学学校にとって究極のレッスンは,黒板(ホワイトボード)を使わないことかもしれないと述べていた。つまり,正しい発音を習得するには,発音を自国の言葉に置き換えて,無理に発音させるよりも耳からの情報に重点に置き,繰り返し学習したほう方が有効かもしれないということである。また,レッスンの内容は変更可能であるため,視覚障害を有する学生に特化した専用のレッスンモデルのコースを設定でき,必要な場合は,事前に本学担当者と協力しながら作成してはどうかとの提案があった。例えば,重度の視覚障害学生の場合は,Speakingを中心とした,読み書きを伴わない科目の設定などである。また,レッスン内容が予め明らかであれば,配布される資料やテキストについて本学で事前に点訳やテキストのデータ化などが行えるかもしれない。いずれにせよ,FWEAにとって視覚障害を有する留学生が入学した初めてのケースであったが,講師や学校スタッフが視覚障害に対する理解や支援を積極的に行ってくれたことに感謝したい。 表2 レッスンスケジュール 7.今後の課題について 研修期間は5日間で非常に短期間であったものの自立心の向上や学習に対する前向きな姿勢がうかがえた。しかし,語学力や英会話力の向上を目指すためには,研修期間の長期化などについて検討する必要があると考える。今回,本研修に参加した学生は軽度の視覚障害を有する学生であった。今後,全盲など重度の視覚障害学生が参加する場合の情報補償や語学学校との情報共有のあり方について検討する必要があると考える。 8.参加学生(代表)の感想(「基金への感謝のことば」より抜粋,原文のまま) 今回,フィリピンでの語学研修に参加するにあたり,筑波技術大学基金から助成金を受けたことを心より感謝申し上げます。現在私が専攻している理学療法学はアメリカを起点に発展した学問であり,さらなる理解を深める上で英語は欠かせないと考えておりました。しかし,普段の学生生活の中では,授業に追われなかなか英語の語学学習に取り組むことが難しかったため,今回の長期休暇を利用した語学留学に参加をすることで語学学習に取り組むことのチャンスだと考え,参加を決心しました。フィリピンでは1日8時間のマンツーマンによるレッスンを受け,SpeakingやListening能力の向上を目指しました。また英語について学ぶだけでなく,フィリピンの文化や風習に少し触れることもできました。このことは単に英語を学ぶということ以上に,幅広い知識や視野を広げることにも役立ち,語学を学ぶことと同じくらい,私にとっては貴重な経験でした。現在,グローバル化が進む中で,日本国内のリハビリにおいても日本語を母国語としない患者が増え,英語の能力がさらに必要とされることが予想されます。そのため研究だけでなく,医療現場でも役立てられるよう,今回の経験を活かしていきたいと考えます。1週間という短い時間ではありましたが,今後の人生に大きな刺激を得られた語学留学であり,このような機会をいただけたことに,本学基金をはじめ,関係の皆様に改めて深く御礼申し上げます。 9.得られた成果・まとめ 英会話能力の向上や海外での生活を通して自立心・社会性を養うことを目的に保健科学部学生2名がフィリピン・セブ島にて1週間の語学留学を行った。短期間の語学研修ではあったが,学生にとって英会話能力の向上のみならず,語学学習を通じて現地の文化や人との交流など貴重な経験が得られ,国際感覚を濡養する良い機会となった。 10.謝辞 学生の旅費に関して筑波技術大学基金より多大な支援を頂きました。記して深く感謝します。 参照文献 [1] 近藤宏,張建偉,周防佐知江.2015年度 大学間協定に基づく国際交流 中国研修報告.筑波技術大学テクノレポート.2016:23(2);54-59. [2] 井口正樹,松下昌之助.第9回アイオワ大学研修報告.筑波技術大学テクノレポート.2015:23(1);78-82. [3] 井口正樹,松下昌之助.第11回アイオワ大学研修報告.筑波技術大学テクノレポート.2017:24(2);52-56. [4] 小林真.欧州の視覚障害学生サマーキャンプICCの変遷 ―本学からの10回の参加を振り返って―. 筑波技術大学テクノレポート.2016:22(2);24-28. [5] 小林真,福永克己.欧州の視覚障害学生サマーキャンプICC2015参加報告.筑波技術大学テクノレポート.2016:23(2);60-64. A Short-term Study of English in Cebu, Philippines KONDO Hiroshi, SASAOKA Tomoko, IGUCHI Masaki Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: For seven days in March 2017, two students from the Department of Health and two faculty members visited a language school in Cebu, Philippines with the goal of improving their English conversation skills. The students took one-on-one lessons from Filipino lecturers for a total of 36 hours over the course of 5 days. Although it was short-term training, not only did the students improve their English conversation skills, but they also experienced exposure to local culture and interactions with local people. The training proved to be a good opportunity to cultivate international sentiment. Keywords: International exchange, English study, English conversation, Language training