東西医学統合医療センター鍼灸外来における2015年度患者動態調査 福島正也1),櫻庭 陽1),松下昌之助1,2) 筑波技術大学 保健科学部 附属東西医学統合医療センター1)筑波技術大学 保健科学部 保健学科 理学療法学専攻2) 要旨:本調査は,2015年度における当センター鍼灸外来の患者動態を調査・分析し,患者特性および臨床活動実績を明らかにすることを目的に実施した。調査は,施術部門の受付で管理する患者データベースを用い,調査対象期間は2015年4月1日から2016年3月31日までとした。調査の結果,2015年度の鍼灸外来の患者総数は9,066人で,内訳は,初診患者346人,初診扱い患者(前回施術後半年以上が経過した患者)169人,再診患者8,551人であった。2015年度の患者総数は,前年度に比べ増加を示した一方で,初診患者数および初診扱い患者数は前年度からの減少がみられた。初診患者の特性として,性別は女性(220人,63.6%)が多く,年代は60代(82人,23.3%)が最多であった。愁訴では腰痛,下肢痛,肩こりが多くみられ,本邦における鍼灸患者の愁訴と同様の傾向が認められた。 キーワード:鍼灸,統合医療,患者動態 1.はじめに 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター(以下,当センター)は,筑波技術短期大学の附属診療所および施術所として1992年に開設し,2005年10月からは四年制に移行した筑波技術大学保健科学部附属の医療センターとして臨床・教育・研究活動を行っている。2015年度の当センター専属の常勤スタッフは12名で,専任教員5名(医師1名,鍼灸師2名,理学療法士2名),医療スタッフ5名(看護師2名,薬剤師1名,臨床検査技師1名,診療放射線技師1名),事務2名である。その他に契約職員,非常勤職員が在籍している。当センターは,診療部門と施術部門からなり,相互が独立した部門でありながら,情報を共有し統合医療の実践を図っている。2015年度の診療部門は,曜日および午前・午後ごとに,循環器内科,精神科,脳神経外科,リハビリテーション科,神経内科,整形外科,漢方内科,腎臓内科,内科,内分泌・代謝内科を開設した。診療は,当センターおよび本学鍼灸学専攻,理学療法学専攻,保健管理センター所属の医師免許を有する教員7名が担当した。また,リハビリテーション科は,当センター所属の理学療法士2名と理学療法学専攻の教員6名,特任研究員1名が担当曜日ごとに2〜4名体制で運営した。施術部門は,2015年度から鍼灸外来とあん摩・マッサージ・指圧外来を開設している。鍼灸外来は当センター所属の教員2名と鍼灸学専攻の教員9名,特任研究員2名が担当曜日ごとに2〜4名体制で施術を担当した。また,施術部門では,2015年度に3名の臨床研修生を受け入れており,2年目以降の研修生を合わせた計10名が各指導教員の元で臨床に従事した。この研修制度は1993年の発足以来,鍼灸学校養成施設を卒業し国家資格を取得した鍼灸師を対象とする卒後臨床研修として,鍼灸臨床に必要な技能および環境維持業務や受付補助業務を通じた施術所運営に必要な技能の習得を目的として運用されている[1]。当センターは,本学保健科学部の教育・研究に関わる臨床の場として機能するとともに,西洋医学と東洋医学を統合した診療・施術を通じて,地域医療に貢献することを目的に活動している。また,前述の鍼灸師を対象とした卒後臨床研修や日本東洋医学会の研修施設として,人材育成に取り組んでいる。こういった当センターの活動を継続・向上させていくため,患者動態を調査・分析し,臨床活動の実績や課題について考察することは重要な意義をもつ。そこで本研究は,2015年度における当センター鍼灸外来の患者動態を調査・分析し,患者特性および臨床活動実績を明らかにすることを目的に実施した。なお,あん摩・マッサージ・指圧外来の報告は別稿に譲る[2]。 2.方法 調査は,施術部門の受付で管理する患者データベースを用い,個人情報の取り扱いに十分に配慮して実施した。調査対象期間は,2015年4月1日から2016年3月31日までとした。調査項目は,開設日数,患者総数,初診患者数,初診扱い患者(前回施術後半年以上が経過した患者を指す)数,再診患者数,月および日あたり平均患者数とし,初診患者については,性別,年代,居住地域,主訴についても調査対象とした。主訴の調査は,治療対象とした愁訴を“愁訴部位”と”愁訴(病態)の種類”の二要因に分類し,複数の愁訴を有する場合には各々を独立して集計した。なお,割合の算出において端数処理を行ったため,合計が100.0%にならない場合がある。 3.結果 3.1 鍼灸外来の患者動態2015年度の開設日数は240日であった。患者総数は9,066人で,内訳は,初診患者346人,初診扱い患者169人,再診患者8,551人であった。月別の開設日数および平均患者数を図1に示す。一月あたりの平均患者数は756人,一日あたりの平均患者数は38人であった。月別の患者数は,7月(893人)が最多で,次いで6月(852人),3月(823人),最少は5月(651人),次いで2月(691人),9月(692人)であった。月別の一日あたりの平均患者数は7月(41人)が最多で,次いで8月,9月(各39名)であり,最少は2月(35人),5月,9月(各36人)であった。 図1 総患者数と初診患者数の推移(棒グラフが総患者数,折れ線グラフ[赤]が初診患者数,折れ線グラフ[緑]が開設日数を示す。) 3.2 初診患者動態・特性調査月別の平均初診患者数を図1に示す。一月あたりの平均初診患者は29人,一日あたりの平均初診患者数は1.4 人であった。月別の初診患者数は,7月(46人)が最多で,次いで4月(39人),6月(32人),最少は2月(22人),次いで9月(23人),3月(24人)であった。月別の一日あたりの平均初診患者数は7月(2.1人)が最多で,次いで4月(1.9人),1月(1.5名)であり,最少は2月,3月(各1.1人),次いで9月(1.2人)であった。性別は女性220人(63.6%),男性126人(36.4%)であった。年代別の初診患者数を表1に示す。年代別では60代(82人,23.3%)が最も多く,次いで70代(71人,14.9%),40代(55人,15.6%)であった(表1)。 表1 初診患者の年代 居住地域別では,つくば市内が163人(47.1%),つくば市外の茨城県内156人(45.1%),茨城県外の関東23人(6.6%),関東以外が4人(1.2%)であった。初診患者の主訴分析では,554の愁訴が抽出された。初診時に治療対象とした愁訴の数は,1つが198例(57.2%),2つが99例(28.6%),3つが38例(11.0%),4つが11例(3.2%)で,平均は1.6であった。愁訴部位を表2に示す。主訴部位は腰部が96例(17.3%)で最多,次いで下肢が85例(15.3%),頚肩部が72例(13.0%),殿部が33例(6.0%),頚部が26例(4.7%)であった。愁訴(病態)の種類を表3に示す。愁訴(病態)の種類は,痛みが320例(57.8%)で最多,次いでしびれ(感覚異常を含む)が61例(11.0%),こり・張りが54例(9.7%),骨盤位(逆子)が20例(3.6%),運動麻痺が17例(3.1%)であった。愁訴部位の上位5部位における愁訴(病態)の種類は,腰部では痛み(94例,97.9%),下肢では痛み(44例,51.8%),頚肩部ではこり・張り(44例,51.8%),殿部では痛み(32例,97.0%),殿部では痛み(32例,97.0%),頚部では痛み(22例,84.%)が最多であった(表4)。 表2 初診患者の愁訴部位(n=554) 表3 初診患者の愁訴(病態)の種類(n=554) 表4 初診患者の主要な愁訴部位と愁訴の種類 4.考察 4.1 鍼灸外来における患者動態2015年度の鍼灸外来における患者総数(9,066人)は前年度[4]に比べ+259人(+2.9%)の増加を示した。一方で,初診患者数(346人)は前年度(416人)と比べ-70人(-16.8%),初診扱い患者数(169人)は前年度(207人)と比べ,-38人(-18.3%)となっており,減少がみられた。このことから,患者総数の増加は,再診患者数の増加(+367人)によるものと考えられる。鍼灸外来における初診および初診扱い患者数の減少の要因としては,当センターにおけるリハビリテーション部門の拡張やあん摩・マッサージ・指圧外来の新設が影響している可能性が推測される。月別の患者総数が多かったのは順に7月,6月,3月だったが,一日あたりの平均患者数では7〜9月の夏期がピークを示した。これは,8月,9月の初診患者数は低迷していることから,7月の初診患者数の増加がその後の再診患者数の増加につながっていると推測される。なお,7月の初診患者数は2014年度において最多[4],2013年度においては2番目に多くなっており[5],明確な要因は明らかではないが,近年の当センター鍼灸外来では7月に初診患者が増加する傾向が認められている。一方,月別の患者総数が少なかったのは順に5月,2月,9月で,一日あたりの平均患者数では順に2月,5月,9月だった。これは患者数が多かった月と異なり,月別の患者総数と一日あたりの患者数が同じ傾向を示していた。また,これは初診患者数についても同様であった。今回の報告では,新たに月別の患者数を開設日数で除した,一日あたりの平均数を算出しており,毎月の患者数の変動要因から開設日数の影響を除外した傾向を明らかにすることができたと考える。 4.2 鍼灸外来における初診患者の特性初診患者は,男女比が約4:6となっており,当センターの過去の報告 [4-10]や他大学附属施術所[11]からの報告とほぼ同様であった。年代別では,県内の人口構成に比して30〜70代が高く,特に60代と40代で割合が高かった。これは当センター鍼灸外来の利用者には,退行変性を基盤とした愁訴を有し,かつ社会活動が比較的活発な年齢層の受診が多いためと考えられる。居住地域については,東京都内の他大学付属施術所の報告[11]では所在地の同一区内が68%を占めているのに対し,当センターでは所在地のつくば市内(47.1%)に加え,つくば市以外の県内からの患者(45.1%)も多くみられた。これは,来所時の交通手段における自動車利用率の高さ[12]が影響している可能性が考えられる。初診時に治療対象とした愁訴の数は,1つないし2つの症例が約9割を占めた。これは当センター 鍼灸外来では,正確な病態の推測とそれに基づく治療を重視しており,愁訴に優先順位を付けることで,治療対象や目的を明確にした施術を推奨しているためと考えられる。愁訴では,腰部の痛み(腰痛)が最多で,次いで下肢の痛み(下肢痛)と頚肩部のこり・張り(いわゆる肩こり)であった。平成25年度 国民生活基礎調査の有訴者率[13]は,男性では腰痛,次いで肩こり,女性では肩こり,次いで腰痛が多くみられる愁訴となっており,当センターで鍼灸施術の対象となっている愁訴との一致がみられた。また,鍼灸師を対象としたアンケート調査[14]の結果ともほぼ一致がみられた。一方で,本学教員や研修生が臨床研究の対象としている愁訴や病態(骨盤位[逆子]や頭痛),レアケースへの鍼灸治療も行われていた。当センターでは,研修生らによる学術活動を推奨しており,レアケースの学会発表等を通じた臨床成果の社会還元を図っている。 参照文献 [1] 山下 仁,津嘉山 洋,丹野 恭夫,他.鍼灸師の卒後研修.筑波技術短期大学テクノレポート.1998; 5: p.211-216. [2] 福島 正也,成島 朋美,周防 佐知江,他.統合医療システムの中でのあん摩マッサージ指圧療法の有用性と課題 ― 筑波技術大学東西医学統合医療センター あん摩・マッサージ・指圧外来統計からの考察 ―.日本東洋医学系物理療法学会誌.2016;41(2): p65-72. [3] 茨城県庁企画部統計課人口労働.茨城県の年齢別人口(茨城県常住人口調査結果)四半期報.(平成29年8月1日取得)http://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/tokei/fukyu/tokei/betsu/jinko/nenrei/index.html [4] 福島 正也,櫻庭 陽,佐久間 亨,他.東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2014 年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析.筑波技術大学テクノレポート.2016;23(2): p44-49. [5] 福島 正也,櫻庭 陽,近藤 宏,他.東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2013 年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析.筑波技術大学テクノレポート.2015;23(1): p46-50. [6] 近藤 宏,櫻庭 陽,佐久間 亨,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2012 年度 鍼灸部門 外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2013;21 (1): p103-107. [7] 近藤 宏,櫻庭 陽,萩野谷 泰朗,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2011 年度 鍼灸部門 外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2012;20 (1): p99-103. [8] 近藤 宏,櫻庭 陽,平山 暁,他.地域医療における統合医療を目指して 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2010 年度 鍼灸部門 外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2012; 19 (2): p73-77. [9] 近藤 宏,櫻庭 陽,堀 紀子,他.鍼灸臨床における統合医療を模索して 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2009年度鍼灸部門外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2010; 18 (1): p111-115. [10] 近藤 宏,津嘉山 洋,堀 紀子,他.質の高い鍼灸医療を目指して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター鍼灸部門 外来報告2008.筑波技術大学テクノレポート.2009; 17 (1): p73-77. [11] 木村 友昭,水出 靖,菅原 正秋,他.東京有明医療大学附属鍼灸センター報告(第1報).東京有明医療大学雑誌.2012; 4: p.39-43. [12] 櫻庭 陽,武笠瑞枝,水木知恵,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 患者の利用状況やサービスに関するアンケート調査2.筑波技術大学テクノレポート. 2014; 21(2): p73-77. [13] 厚生労働省.平成25年 国民生活基礎調査の概況. (平成27年8月4日取得)http://www.mhlw.go.jp /toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/[14] 小川 卓良,形井 秀一,箕輪 政博,他.第5回現代鍼灸業態アンケート集計結果【詳報】.医道の日本.2011;70 (12): p201-244. The Statistical Report on Outpatientsat the Department for Acupuncture and Moxibustion in 2015 FUKUSHIMA Masaya1), SAKURABA Hinata1), MATSUSHITA Shonosuke1,2) 1)Center for Integrative Medicine, Department of Health, Faculty of Health Sciences,Tsukuba University of Technology2)Course of Physical Therapy, Department of Health, Faculty of Health Sciences,Tsukuba University of Technology Abstract: This study is intended to analyze the dynamic statistics of outpatients at the Department for Acupuncture and Moxibustion, Center for Integrative Medicine, Tsukuba University of Technology in fiscal 2015 (April 1, 2015, to March 31, 2016). The total number of outpatients was 9,066 (346 first-time visits, 169 semi-first-time visits: patients have not visited for more than six months, and 8,551 revisits). The total number of outpatients increased, but the numbers of first-time and semi-first-time patients decreased compared with fiscal 2014. The first-time outpatient trends were as follows: 220 females and 126 males; patients were mostly aged between 60.69 years; and common complaints included low back pain, leg pain, and stiff shoulders. The trends resemble those of acupuncture patients in Japan. Keywords: Acupuncture, Moxibustion, Integrative medicine, Outpatient