2018 年度オーストラリアシドニー工科大学研修報告 白岩伸子,近藤 宏 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 要旨:筑波技術大学の国際交流事業の一環として,シドニー工科大学(オーストラリア,シドニー)での海外研修を2018 年3 月17 日から6日間行った。この研修は,2017 年度より開始され,第1回目の研修では鍼灸学専攻学生から 2名の学生が参加した。第 2回目となる今回の研修にも,昨年同様鍼灸学専攻から2名の学生が参加した。同大学では,中医学(鍼治療,漢方治療)の 4年制学部教育・研究を行っており,現地学生と共に,中医学の講義,同大学付属の traditional chinese medicine(TCM)クリニックでの臨床見学実習に参加した。また,シドニー市内の鍼灸クリニックでも臨床見学実習を行った。短期間の研修ではあったが,現地の教員,学生や地域のクリニックとの交流を通じて,欧米圏での中医学の高等教育および臨床に触れ,日本との相違や類似点など多くのことを学ぶことができた。またグローバル・コミュニケーションとしての英語の重要性,異文化体験など貴重な経験を得ることができた。 キーワード:海外研修,短期留学,中医学,英会話,異文化体験 1.はじめに 筑波技術大学では,国際交流事業の一環として,海外短期訪問プログラムを実施している[1-3]。保健科学部では,中国の北京連合大学,長春大学と大学間協定を結び,鍼灸専攻を中心に交換学生を行うなど,長年国際交流を行ってきた [4]。今後さらに,本学視覚障害学生に対するグローバル教育を発展させるために,英語圏での研修を検討した。 オーストラリアシドニー工科大学(University of Technology Sydney(UTS)は,ビジネス,デザイン,建築,工学,コミュニケーション,IT,サイエンス学部等を開講しており,世界 120 か国以上から学生の集まる多国籍な総合大学で,サイエンス学部内で,中医学(鍼治療,漢方医学)の 4年制学部教育・研究を行っている高等教育機関である。 本研修は,昨年度に初めて実施し,鍼灸学専攻から学生 2名が参加した。シドニー工科大学を訪問し,欧米圏における中医学(鍼治療,漢方医学)の授業への参加や医療センター訪問,現地学生・研究者・教員との情報交換を行った。本報告では,第 2回目の本研修について,欧米圏における中医学の,高等教育機関での教育について見聞を広めるための取り組みについてまとめた。 2.活動の目的 本研修では,シドニー工科大学を訪問し,欧米圏における中医学(鍼治療,漢方医学)の授業への参加や医療センター訪問,現地学生・研究者・教員との情報交換を行い,見聞を広めることで医療人としての将来像を描き,向上心を持って学業に取り組む姿勢を養うことを目的とした。また,英語圏での研修であり,英語力向上や,海外における異文化体験も目的の一つとした。 3.参加者 3.1 参加者選定 国際交流加速センター運営委員会が定める学生募集に従い,保健科学部学生に対して募集を行った。その結果,鍼灸学専攻の学生 2名から応募があった。応募動機は,日本と欧米での鍼灸マッサージ教育の比較検討のため,授業見学や実習を通じて学びたいこと,英語力を高めたいこと,異文化に触れ,見聞を広めたいことなど様々な体験を通じて今後の学習や将来に生かしたいという,向上心や探求心があり,今回の研修に対する熱意が強く感じられた。成績,応募動機,クラス担任の推薦状に基づく書類審査が行われ,2名とも選定された。なお,引率教員は,鍼灸学専攻から,白岩と近藤が担当することとなった。 3.2参加者および引率教員 参加者 秋吉桃果:保健学科鍼灸学専攻 3年生 望月美奈:保健学科鍼灸学専攻 3年生 引率教員 白岩 伸子(保健科学部保健学科鍼灸学専攻・准教授) 近藤 宏(保健科学部保健学科鍼灸学専攻・講師) 4.研修期間および研修日程 研修期間は2019 年3 月17(日)~2019 年3 月22(金),日程は表1の通りである。(表1)。 表1 オーストラリア研修の日程 日にち 概要 3/17(日) 羽田空港 発 3/18(月) シドニー国際空港 着シドニー工科大学授業見学,歓迎会 3/19(火) シドニー市内中医学クリニック見学シドニー工科大学授業見学,学内見学 3/20(水) シドニー工科大学授業見学同大学付属 TCM クリニック4年生実習に参加研修終了書授与 3/21(木) オーストラリア文化体験(シドニー旧市街ロックスやオペラハウス,タロンガ動物園等)シドニー国際空港 発 3/22(金) 羽田空港 着 5.研修の概要 5.1 事前研修 事前研修としては,まず各学生の視覚障害状況や必要な支援についての確認を行った。また 10月から2月まで,オーストラリア入国時の注意点や,シドニー工科大学の概要,中医学の 4年制教育について,また研修の目的や日程について白岩,近藤より説明を複数回行った。また,英語圏での研修に備えて,英会話練習を行った他,ネイティブスピーカーと会話する機会が得られる英語ラウンジ(English Lounge)への参加も促した。 5.2 シドニー工科大学での研修 シドニー工科大学(UTS)は,オーストラリアニューサウスウェールズ州シドニーにある州立大学で,シドニー市の中心部にメインキャンパスが存在する唯一の大学である(図1)。 図1 シドニー工科大学(UTS)正面入口 同大学ではビジネス,デザイン,建築,工学,コミュニケーション,IT,サイエンス学部等を開講しており,世界 120 か国以上から学生の集まる多国籍な大学である。サイエンス学部内に,医療系としては,理学療法学,看護学の他,中医学(鍼治療,漢方医学)の 4年制コースがあり,大学付属の Traditional Chinese Medicine(TCM)クリニックが併設されている。 今回は,昨年度の研修に引き続いて第 2回目の研修となった。研修は,まず中医学の Chris Zaslawski 先生によるオリエンテーションがあり,学生の自己紹介,今後の予定の説明等が行われた。Chris Zaslawski 先生は,オーストラリアで 35年以上,中医学に従事し,オーストラリアにおける中医学の公的登録制度の整備に携わってきた方で,中医学委員会の中心的メンバーである。 授業は各 2時間で,初日には,伝統的中医学基礎に関する講義を見学した。本学では,鍼灸学専攻 2年で学ぶ,東洋医学概論に当たる内容で,学生らは,東洋医学概論の教科書を参照しながら,英語での授業に取り組んでいた。初日夕方には,UTS によるWelcome dinner に出席し,意見交換や親睦を深める機会となった。 2日目は,午前中にシドニー市内で開業している,伝統的中医学クリニック見学を行った(図 2)。施術者は,日本で鍼灸を学んだ経験もあり,日本における鍼灸治療に準じた方法で施術を行っているとのことで,興味深く臨床見学実習を行った(図3)。 図2 シドニー市内の中医学クリニック見学 図3 同クリニックでの実習風景 午後からは,「オーストラリアにおけるChinese Medicine の歴史,公的登録制度について」,および特別講義「シドニー工科大学(UTS)におけるChinese Medicine program」を聴講した。オーストラリアでは,中医学(鍼治療,漢方治療)の施術者は,登録制度によって規制されていること,中医学委員会を中心に,標準治療やガイドライン作成,施術者の認定基準,教育認定コースの承認,中医学従事者・学生の登録,業務に関する調査,海外からの研修生の受け入れ等の業務を行っているなどの公的社会制度について学んだ。 また,UTS学内見学ツアーを行い,経絡経穴授業,附属 TCM クリニック等を見学した(図4)。 図4 UTS 附属TCM クリニックの見学 3日目には,午前中は艾の種類・精製法についての講義,午後は,TCMクリニックにて,学部 4年生と共に,臨床実習に参加し,地域の患者への施術を体験した。また,実習を通じて,4年生との親睦も深めた。 最後に,サイエンス学部長 Peter Meier 先生より研修了書が授与された(図 5)。 図5 研修修了書を学部長より授与 最終日には,オーストラリア文化体験も行った。シドニー発祥の地である,旧市街ロックス,またオペラハウスを見学した。また,オーストラリアならではの広大なタロンガ動物園にて,コアラ,カンガルーなどが自然の中に憩う姿に感銘を受けた。またタロンガ動物園からシドニー全景が眺望できた(図6)。 図6 広大なタロンガ動物園よりシドニー全景を望む 6.学生の感想(基金への感謝の言葉より) 本事業は,筑波技術大学基金からの支援をいただき実施した。参加学生が筑波技術大学基金へ宛てたレポートを原文のまま紹介する。 ・鍼灸学専攻 3年 秋吉桃果 この度,筑波技術大学基金からの助成を受け,平成 31年 3 月17 日(日)~平成 31 年 3 月22 日(金)の 6 日間に渡りオーストラリア研修に参加させて頂きました。研修ではシドニー工科大学を訪問し,中医学の講義や付属のクリニックを見学したり,治療院をされている方から施術に関してのお話を聞いたりと貴重な経験をして参りました。オーストラリアの病院・医療制度の仕組みや鍼灸治療のあり方,実際の施術の様子を日本の現状やこれまでの経験と比較し,新たな知見を得ることができました。 短い期間でしたが,大変有意義な研修となりました。改めて御礼申し上げます。 ・鍼灸学専攻 3年 望月美奈 この度は,オーストラリアへの研修におきまして,筑波技術大学基金から助成金をいただき,誠にありがとうございました。 短期間ではありましたが,シドニー工科大学(UTS)に3日間訪問し,中医学に関する講義への参加や 4年生の実習見学,UTSの施設内見学等をしました。また鍼灸治療を行うクリニックの見学をし施術を受けることができ,3日間で学生のうちにしかできない体験を多くさせていただきました。 渡航前は英語に対する不安もありましたが,現地で先生や学生と話したり,お店で料理を注文したりする中で,単語を調べながら少しずつ会話に慣れることが出来ました。また,私は初めての海外渡航であったため,母国以外の人や文化に触れることができた点においても,大変貴重な経験になりました。 オーストラリア研修での気づきを今後の学習に生かしていきたいと思います。改めて,ご支援いただきありがとうございました。 7.研修の成果と今後の課題 訪問先のシドニー工科大学(UTS)では,教職員の大変な協力を得て,施設見学や交流授業を行うことができた。 現地学生との交流もできたことで,十分な異文化交流の機会を与えることができ,本研修の目的を達成するに余りある活動となった。 また,今回オーストラリアの地域での中医学治療やその社会制度についても学ぶことができたことで,専攻している鍼灸学のみならず,医療全般について日本との相違について学ぶなど,広い視野を持つ機会が得られたと考えられる。 なお,前年度の訪問で,本学の視覚障害学生教育についての説明をし,理解を求めつつ,今回の研修を迎えた。障害補償という点では,前回の研修で,授業でのスライド教材を,どのように準備するのか等について,話し合った結果,今回の研修では,教材を PC,i-Phone,や i-Pad 等にて各学生の見やすい形で手元に配布すること,また PCで情報検索をする等の工夫で,視覚障害学生にも通常の英語による授業への積極的な参加が可能になることが確認できた。 また,個々の学生の必要に応じて障害補償を提供することを基本とする欧米式の考え方を理解する機会ともなった。 8.まとめ 第 2回目のオーストラリアシドニー工科大学研修について報告した。本研修では,同大学教職員の協力を得て,施設見学や交流授業を行うことができた。十分な異文化交流の機会となり,欧米圏での中医学の高等教育,地域での受け入れや社会制度についても見聞を広げることができた。 また学生にとって,現地の教員や学生と積極的にコミュニケーションを図ることで,英語力の向上や今後の学習意欲の向上にもつながったと考えられた。 謝辞 オーストラリア研修に際して,多大なご協力をいただいたシドニー工科大学の関係者に心から感謝の意を表したい。また,筑波技術大学基金から,参加学生への助成をいただいたことに深く感謝します。 参照文献 [1]井口正樹,野津将時郎.第12回アイオワ大学研修報告.筑波技術大学テクノレポート.2018; 25(2): p.46-50. [2]小林真,笹岡知子.欧州の視覚障害学生サマーキャンプ ICC2018参加報告.筑波技術大学テクノレポート.2018; 26(2): p.57-62. [3]松井 康,岡本 健,井口正樹.2017 年度フィリピンンセブ島での語学留学に関する報告.筑波技術大学テクノレポート.2018; 26(1): p63-67. [4]近藤 宏,張 建偉,周防佐知江.2015 年度 大学間協定に基づく国際交流中国研修報告.筑波技術大学テクノレポート.2016; 23(2): p.54-59. Report on an Overseas Training at the University of Technology, Sydney, Australia in 2018 SHIRAIWA Nobuko, KONDO Hiroshi Course of Acupuncture and Moxibustion, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: As part of the international exchange program at Tsukuba University of Technology, we conducted a six-day overseas training program at the University of Technology Sydney (UTS, Sydney, Australia) from March 17-22, 2018. This program began in 2017, and two students from the Department of Health participated in the first training. In 2018, two third-year students studying Acupuncture and Moxibustion in the Department of Health participated in the second training. UTS conducts four-year undergraduate education and research in Chinese medicine (acupuncture and Chinese medicine). Together with local students, our students took classes on Chinese medicine and participated in practical training at the Traditional Chinese Medicine (TCM) clinic in UTS. In addition, we conducted clinical tour training at a local Chinese medicine clinic in Sydney. Though it was a short-term training, exchanges with local teachers, students, and local clinics as well as participation in higher education and clinical practice in Sydney helped our students learn about many things such as differences and similarities in TCM between Japan and the West. In addition, they gained valuable experience such as the importance of English as a language of global communication and cross-cultural experience. Keywords: Overseas training, Short-term study abroad, Chinese medicine, English conversation, Cross-cultural experience