プレ評価実習の実施報告 井口正樹1),佐久間亨2),杉田洋介2)筑波技術大学 保健科学部 保健学科1) 筑波技術大学 保健科学部 附属東西医学統合医療センター2) 要旨:理学療法学専攻では3年次に臨床実習2(評価実習)が学外の病院等で行われる。今回,授業の一環として,評価実習の準備のためプレ実習を本学医療センターで初めて行った。学生らは緊張しながらも,実際の患者を対象に様々な検査や測定を行い,評価実習までの間に何をすべきかが,明らかになったと思われる。 キーワード:理学療法,臨床実習,評価実習 1.はじめに 保健科学部保健学科理学療法学専攻では,4回の学外臨床実習が義務づけられている。2年次に1週間の臨床実習1(見学実習),3年次に3週間の臨床実習(評価実習),4年次に8週間の臨床実習(総合実習)が2回,である。今回,評価実習前のプレ実習として,本学東西医学統合医療センターのリハビリテーション科(以下,リハ科)で,実際の患者を対象に,様々な検査・測定を行い,評価実習の準備として有意義であったと思われるので,ここに報告する。 2.背景 見学実習は2年次の夏季休業中,そして評価実習は3年次の年度末に行われるため,その間には約1年半のブランクがある。また,見学実習はその名の通り,基本的には見学のみであるのに対し,評価実習では,患者の疾患・障害・生活様式などに関する情報を,カルテ,問診,検査,測定などから収集し,その情報を統合・解釈し,最終的にはリハ目標や治療プログラム作成を行うことが要求される。理学療法では,「評価に始まり評価に終わる」といわれるほど,評価は非常に重要である。そして,見学実習では2人の学生が同一の施設で実習を行うことはあるが,評価実習では原則,1人の学生が1施設で実習を行う。このように,長いブランクがあるにも関わらず,非常にハードルが高い評価実習であるため,今回,3年次の第2学期の授業の一環として,プレ実習を行った。この授業は,3年次の必修科目である「神経筋疾患理学療法学実習」と「整形外科疾患理学療法学実習で,両科目を担当する井口が中心となりプレ実習を行った。またリハ科で行ったため,リハ科教員である,佐久間と杉田も指導にあたった。 3.準備 プレ評価実習ということで,基本的には評価実習で行うであろう実技などを,評価実習前に学内で行うこととした。そのため,学生が慣れるよう,実際の評価実習と同様な環境作りに努めた。実際の評価実習との相違点としては,1.実際の評価実習では学生は1人で実習を行うが,プレ評価実習では1学年10人の学生を,5人ずつの2グループに分け,グループで行った,2.教員のサポートを実際の評価実習より多くした,の2点である。実際の評価実習同様,各グループには事前に患者の性別,年齢,疾患名,現病歴(疾患の履歴)などを伝え,グループで,どのような問診,検査,測定が必要と思われるか,を挙げさせて,教員がフィードバックを行った。 4.当日 学生は1時間を,1週あけて,2回(計2時間)で,プレ実習を行った。評価実習同様,プレ実習中は教員の監視の下,血圧管理や転倒予防など安全第一で行われた。また,学生の不手際などが原因で,検査・測定等がスムーズに進まなかった場合は,教員が随時,助言をその場で行った。 5.発表・フィードバック 評価実習は必修科目であり,その成績は,1.実習施設からの成績,2.実習終了後に本学で行われる報告会の成績,の両者を考慮して,総合的に理学療法学専攻が評定する。また,理学療法において,記録・報告は重要であり,プレ実習でも,2回のプレ実習終了後に発表を行った。発表後には,活発な質疑応答が行われた。また,最後に学生は教員からフィードバックを受け,評価実習までに改善すべき点などの再確認を行った。 6.アンケート 学生の意見を聞くために,アンケートを,プレ実習発表後で評価実習前と評価実習後の2回,行った。内容は評価実習で臨床実習指導者が学生の評価に用いる成績表をもとにして,1.情報収集,2.検査測定の知識と技術,3.基本的治療計画の立案,4.実習内容の記録と報告,である。評価実習前アンケートでは,各項目について,今回のプレ実習が評価実習で,A.大変役立つと思う,からD.役立たないと思う,の4段階で選択した。また,評価実習後アンケートでは,質問内容は同一で,A.大変役立った,から,D.役立たなかった,の4段階であった。10名中7名から回答が得られ,アンケートから次の2点が明らかとなった。 1.実習前アンケートでは7名中3名が,全てA(大変役立つと思う)だったのに対し,実習後アンケートでは全てA(大変役立った)は,1人もいなかった。この結果から,学生にとって実習は予想も付かず,また実習前は楽観的に考える傾向があったと考える。2.実習後アンケートで,1.情報収集と2.検査測定の知識と技術の方が,3.基本的治療計画の立案と4.実習内容の記録と報告よりも,役立ったと思う学生が多かった。評価実習では,カルテ,問診,検査測定などから情報を収集し,それらの情報を統合・解釈し,リハビリテーションの目標設定や治療プログラムの立案までが求められる。しかし,プレ自習は合計でも2時間のみで,情報収集(上記1・2)までが限界ということを示唆している。自由記載欄では,「プレ実習で評価の流れや検査内容が把握できた。また実際に疾患を有する患者とプレ実習で接したことで,本番での緊張が少し緩和された」,とのコメントもあった。 7.問題点と展望 今回のプレ実習は,第2学期の授業の一環として行い,授業で教えるべきことを教え終わった後に,まとめとしてプレ実習を行った。その結果,患者情報を事前に伝えるのが12月中旬で実際のプレ実習が1月中旬,と冬季休業を挟んでしまい,学生が十分に準備できなかった。今後は時期をずらして改善する。また,プレ実習にご協力いただける患者はボランティアであり,1時間2回が限界であろう。しかし,その後,更に2回,リハ科の理学療法士がその患者を治療する際に学生にも見学や補助をさせ,プレ実習で足りなかった箇所を補うことは可能であろう。それにより,患者のボランティアは2時間で抑えつつ,学生は実質4回,患者と関わる機会が持てる。最後に1グループ5名は多く感じた。実際の評価実習が1人なので,グループにする必要はあったが,グループ内の人数が多すぎると人任せになる。今後は3人程度を1グループとする予定である。 8.終わりに 今回,初めてプレ実習を行い,初回ということで様々な問題点があった。また,学生の緊張感もやや欠けていたように感じた。今後は,このプレ実習を毎年,継続して実施することで,更なる改善と学生への意識づけが期待できると思われる。実習後アンケート結果で,全ての項目で「プレ実習が評価実習で大変役立った」と答えた学生は,1人もいなかった。そもそも2時間のプレ実習であり,プレ実習がそのまま評価実習で役立つとは考えにくい。むしろ,自身がどれだけ準備できているか,或いは勉強不足か,自身は何が出来るか,或いは何が足りないのかを(評価実習に行ってからではなく)可能な限り早期に気づかせることが重要で,今回のプレ実習はその機能を十分に果たしたと思う。冒頭で述べたように,理学療法は評価で始まり評価で終わる,と言われる。逆に言えば,評価実習でいかに多くのことを学べるか,でその後の総合実習をいかに乗り越えられるか,が決まるとも言える。いかに評価実習で学べるかは,いかに評価実習前に準備が出来ているか,で決まる。そう考えると,今回のプレ実習は単なる評価実習のための準備ではなく,総合実習への準備でもあり,プレ実習の継続・改善は必須だろう。 Pre- Clinical Education Practice IGUCHI Masaki1), SAKUMA Toru2), SUGITA Yosuke2)1) Course of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology2)Center for Integrative Medicine, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: Before third-year students in the physical therapy course went to the second clinical education, they spent two sessions (two hours in total) at the Center for Integrative Medicine with faculty members and actual patients to become better prepared for clinical education. Keywords: Physical Therapy, Clinical Education, Evaluation Practice