筑波技術大学でのボッチャへの取り組み 石塚和重,中村直子 筑波技術大学 保健科学部 学部保健学科 理学療法学専攻 要旨:ボッチャは脳性麻痺などにより,運動能力に重度障害がある競技者向けに考案された障害者スポーツである。リオデジャネイロパラリンピックで日本のボッチャチームが銀メダルを獲得はボッチャの歴史の流れを大きく変えることとなった。リオでの活躍は日本のボッチャの歴史が変わる瞬間でもあった。筑波技術大学でのボッチャ普及活動は今から12年前の2007年からつくば市と下妻市にある特別支援学校の生徒8名から開始した。その後,定期的に活動してきた。リオデジャネイロパラリンピック後,茨城県でも知名度が上がり,ボッチャ講習会が頻繁に開催されてきた。2017年9月にはボッチャ普及するためにカーリングボッチャを考案し,11月19日に第1回茨城カーリングボッチャ選手権大会が開催された。 キーワード:筑波技術大学,重度障害者,ボッチャ,カーリングボッチャ 1.はじめに 私が筑波技術大学に来て13年が過ぎようとしている。つくばでのボッチャ活動の開始は,今から12年前,茨城県のつくば市や下妻市の特別支援学校に脳性麻痺の子供たちの家族からの余暇活動の一環としてスポーツをさせてみたいという希望からであった。ボッチャを開始した当初,子供たちはルールもわからないでただボールを投げている感じであったが,数年経過して子供たちもルールを理解し,試合形式で活動ができるようになった。何とかボッチャをする子供たちが出てきたが,茨城県内での普及はかなり困難なものがあった。しかし,2016年に開催されたリオデジャネイロパラリンピックで日本ボッチャチームが銀メダルを獲得したことはボッチャの流れを大きく変えることとなった。リオでの活躍は日本のボッチャの歴史が変わる瞬間でもあった。リオデジャネイロパラリンピック後,ボッチャの知名度は茨城県内で急速に上がっていった。 2.ボッチャとは ボッチャ(Boccia)とは,ボッチー(英語版記事)(イタリア語・ボッチェ)から派生した障害者,とりわけ脳性麻痺などにより,運動能力に障害がある競技者向けに考案された障害者スポーツである。 ボッチャは赤又は青の皮製ボールを投げ,白い的球〔まとだま→ジャックボール(目標球)〕にどれだけ近づけられるかを競う競技で,パラリンピックの公式種目となっており,全世界で40カ国以上に普及している。 試合としては個人戦,団体戦(BC1・BC2チーム戦,BC3ペア戦,BC4ペア戦)がある。 3.ボッチャの歴史 日本に取り入れられたのはレクリエーション的用途であり,養護学校教員であった古賀稔啓(前・日本ボッチャ協会理事長)がヨーロッパでの脳性麻痺患者の国際大会出席時に,ボッチャに出会い,授業に取り入れようと持ち帰ったのが最初と言われている。その後1997年に日本ボッチャ協会が設立され,国際ルールを紹介,全国的に広まっていくこととなった。 日本代表チームは「火ノ玉JAPAN」の愛称で呼ばれ,2016年のリオデジャネイロパラリンピックで混合団体戦(BC1・BC2チーム戦)は銀メダルを獲得している。 4.ボッチャのクラス分け 障害者スポーツには障害の程度に応じてクラス分けがされている。BISFed(国際ボッチャ競技連盟)は脳性麻痺者に対して,BC1クラス,BC2クラス,BC3クラス,BC4クラスと分けてクラス分けをしてきたが,2017年1月から新たなクラスとしてBC5クラスが新設された。 BC1クラス アシスタントが車いすの操作,ボールを渡してもらえるなどのサポートをしてもらう者。 BC2クラス 上肢での車いす操作がある程度可能な者。 BC3クラス 自身での投球ができないため,アシスタントによるサポートにてランプ(勾配具)を使用する者。 BC4クラス BC1・BC2と同等の四肢運動機能障害を有する者。(頸髄損傷,筋ジストロフィ-など) BC5クラス 車いす使用者でBC2,BC4より障害が軽い者。 5.筑波技術大学の取り組み 筑波技術大学は今から12年前の2007年からつくば市と下妻市にある特別支援学校の生徒8名から開始された。毎月各週の火曜日18時~19時が練習日である。その活動は筑波技術大学の理学療法学専攻の学生が中心になって「やっぺ」というクラブを立ち上げて活動が開始された。「やっぺ」の活動は12年たった現在でも続けられている。筑波技術大学は聴覚や視覚に障害のある学生が学ぶ大学である。当時は視覚障害のための大学に車いすで来校する脳性麻痺の子供たちの姿は非常に珍しい光景であった。視覚障害の学生と車いすの利用者の活動は想像もつかなかったことでもあった。 茨城県のボッチャの普及活動はなかなか進まなかったが,三大学(筑波大学・茨城県立医療大学・筑波技術大学)連携障害者のためのスポーツイベントに取り入れられ,少しづつボッチャへの普及が始まっていった。スポーツイベントの派生事業として,月1回のスポーツ教室を開催している。障害の種別に関係なく,誰もが定期的にスポーツ活動のできる場所づくりを提供している。障害者や障害者スポーツ指導員を含め障害者スポーツに興味のある方にも,ボッチャ,卓球バレー,ハンドアーチェリー,車椅子ダンス等のスポーツを体験する機会を提供し,障害者スポーツへの幅広い理解と参加を推進している。 2014年には「茨城ぼっちゃ倶楽部」が設立し,普及活動が更に進んでいった。 以下,筑波技術大学のボッチャ普及活動を示す。 平成29年2月14日 筑波技術大学春日キャンパス体育館にて審判講会を開催する。 平成29年2月26日 筑波学院大学体育館にてボッチャ講習会を開催する。 平成29年3月20日 筑波技術大学春日キャンパス体育館にて茨城ボッチャチャレンジピック2017を開催する。(図1) 平成29年6月12日 つくば特別支援学校で教員向けの審判講習会を開催する。 平成29年7月13日 つくば特別支援学校と茨城県立茎崎高等学校との交流会。 平成29年9月8日 つくば特別支援学校(小学部4年生)とつくば市立栄小学校との交流会。(図2) 図1 茨城ボッチャチャレンジピック2017 図2 つくば特別支援学校(小学部4年生)とつくば市立栄小学校4年生とのボッチャ交流会 平成29年11月19日 筑波技術大学でボッチャキャンプが開催された。 リオデジャネイロパラリンピックの2016年から特別支援学校によるボッチャ甲子園大会が開催された。茨城県も2017年7月の第2回大会から下妻市,つくば市,水戸市にある特別支援学校3校が出場することになった。ボッチャ甲子園は茨城県でのボッチャ普及活動を推進する大きなきっかけになった。(図3) 図3 つくば特別支援学校ボッチャ甲子園初参加。ボッチャ甲子園大会初出場で8位入賞。 6.カーリングボッチャというアイデア つくば特別支援学校とつくば市立栄小学校との交流会の際,小学生のレベルで直接ボッチャを知ることは困難と考え,代わりにサークルの中にボッチャボールを入れて楽しむというアイデアからカーリングボッチャを発案してみた。子供たちが興奮してカーリングボッチャをする様子を見,ボッチャ導入段階にとても良いスポーツであると感じた。 以下にカーリングボッチャについて記す。 A.カーリングボッチャとは カーリングボッチャはカーリングとボッチャの両者の特徴を取り入れた競技である。重度障がい者そして子供から高齢者まで誰でも手軽に楽しめるユニバーサルスポーツでもある。 B.カーリングボッチャのルール カーリングボッチャ競技は,「スキップ(主将)」「リード」「セカンド」の3人1チームまたは2人1チーム(ペアー)の団体戦と個人戦で行う。 スキップの指示によってリード,セカンド,スキップの順で相手チームと交互にひとりが1個づつ2回投球する。チームでボールを12個投げて1エンド(1回戦)とする。 正規にはこれを6エンド(6回戦)行う。(1エンド5分以内)。但し,個人戦,ペアー戦は4エンド行う。(1エンド4分以内)。 a.投球者 ボールは手または足で蹴って投球する。 *手で投げられない人はランプ(勾配)を使用することができる。 *スキップ  スキップは投球者に対してゲームの状況にあった作戦を指示することができる。投球コースや場所を伝えることができる。 b.用 具 ①ボッチャボール(赤6個,青6個) ②ボールは周長が270mm±8mm以内,重さは275g±12g以内である。 ③カーリングボッチャサークルは100cm正方形の合成紙に標的となる直径90cmの円形が中心から黄,白(またはピンク),緑の3色カラーで印刷されている。カーリングボッチャサークルは床面に片面テープで固定する。 c.ゲーム (1)ゲームの進め方 ①ジャンケンで,先攻後攻を決める。先攻は赤から始め,青→赤の順でボールを投球する。 ②先攻,後攻の順に交互にスローラインからゾーンをねらって投球する。 ③1エンド5分以内に投球する。投球できなかったボールは無効とする。 ④ゾーンの位置は先攻するチーム(選手)の3m,5m,7m,9mのコールで決定する。 (2)反 則(ペナルティー) ①投球順を間違えると,ペナルティーとして相手チームにボールが1球与えられる。 ②投球者が,スローイングゾーンから出てはいけない。出た場合, ペナルティーとして相手チームにボールが1球与えられる。 d.カーリングボッチャの得点 ☆得点は両チームがボールを投げおわった時点で決まる。 ☆ハウス(円)の中心に最も近いボールのチームがそのエンドの勝者になる。 勝ったチームの得点は相手のチームのボールよりさらに中心に近いボールの数だけ得点となる。(相手チームは0点)サークル内のボールのみ有効となり,サークル外のボールはすべてデッドボールとなり無効となる。 1エンド目はコイントスで先攻(赤),後攻(青)を決めますが赤→青→赤→青→赤→青の順に6エンドまで行う。6エンドの総合点で点数が高い方が勝者となる。 コート 7.第1回カーリングボッチャ選手権大会(団体の部)の開催 第1回カーリングボッチャ大会が筑波技術大学春日キャンパス体育館で平成29年11月19日に開催された。まだ十分普及していないこともあり参加者は21名で3人一組7グループと少なかったが実施することができた。本学の視覚障害のある学生も参加した。(図4. 5) 図4 第1回カーリングボッチャ選手権大会(団体の部)の様子 図5 第1回カーリングボッチャ選手権大会(団体の部)の参加者 8.終わりに 私自身ボッチャを指導して20年になろうとしている。日本のボッチャもリオパラリンピックで大きく変わった。今後,東京パラリンピックを目指して茨城県内にボッチャという競技というスポーツを普及し根付いて行けるように努力していきたいと考えている。 障害者スポーツが東京オリンピック・パラリンピックを通して一般市民の方々に理解して頂き,障害者スポーツがもっと身近なものになることを期待している。 参照文献 [1] https://ja.wikipedia.org/wikipedia [2] japan-boccia.net:日本ボッチャ協会 [3] Classification and Sport Profiles2017V3: BISFed[4] http://www.curling.or.jp:日本カーリング協会[5] http://www.curolling.com:日本カローリング協会 Efforts towards Boccia at Tsukuba University of Technology ISHIDUKA Kazushige, NAKAMURA Naoko Course of Physical Therapy, Department of Health, Faculty of Health Sciences,Tsukuba University of Technology Abstract: Boccia is a disabled sport designed for athletes with severe disabilities in exercise capacity, such as cerebral palsy. The Japan Boccia team winning the silver medal at the Rio de Janeiro Paralympic Games has significantly changed the flow of the history of Boccia; their success was also a turning point for the history of Boccia in Japan. In 2007, Boccia dissemination activity at Tsukuba University of Technology began with 8 students from special support schools in Tsukuba city and Shimotsuma city, 12 years ago from now. I have been working regularly ever since. After the Rio de Janeiro Paralympics Games, which were popular in Ibaraki prefecture, Boccia Workshops have been held frequently. In September 2017, we devised a type of curling Boccia to popularize Boccia, and the First Ibaraki Curling Boccia Championship was held on November 19, 2017. Keywords: Tsukuba University of Technology, Severe persons with disabilities, Boccia, Curling Boccia