平成29年度学生生活研究会報告 加藤一夫 1),黒木速人 2),大鹿 綾 3),岡本 健 4),宮城愛美 5),若月大輔 2) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 1) 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 2) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部 3) 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 4) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者支援研究部 5) 要旨:平成29年度学生生活研究会を開催した。「発達障害の基本と聴覚障害との関係」,「e ラーニングを活用した教育」の2つの講演会を中心に,① 本学における発達障害への対応 ② e ラーニングを活用した教育 ③ リーダーになりうる学生をどう養成するか ④ 学生の主体性をどう育てるか の4つの分科会を設け各内容に関して議論,意見収集,情報の共有を行った。 キーワード:発達障害,e ラーニング,リーダー論,主体性,学生委員会 1.はじめに 本学学生委員会では毎年,学生生活研究会を開催している。本研究会は,本学学生の教育及び生活への適応,人間形成として行われる課外活動の指導,助言および学内秩序の維持等の諸問題について,関係教職員間で共通意識を持ち,よりきめ細かい日常業務の推進を図り,学生生活支援体制の円滑な運営に資することを目標としたものである。学生生活研究会は平成7年度から開催されており,講演会(あるいはパネルディスカッション)とそれに続く分科会で構成されている。毎年,教職員にアンケートを行い, up-to-date な話題で,本学の最近の問題点等に関して議論を深めている。特に,学生委員会の趣旨に鑑みて各教職員間の共通の問題点をアンケートにより抽出し,本年の学生生活研究会の内容,構成を決定した。 2. 平成29年度の学生生活研究会の構成と内容 全体会,分科会のテーマは全学のアンケートを基に学生委員会においてその日程,プログラムを作成した。講演会では本学で近年問題となっている「発達障害をもつ学生への対応」と「eラーニングを活用した教育」に関わる2つの講演会を企画した。また,分科会ではこの2つの講演会と連動して議論を深める分科会2つと,本学の設立時からの目標である「リーダーの養成」,さらに「学生の主体性を高めるためには」という2つのテーマを追加し,全4テーマに関し分科会を行った。分科会終了後には,担当者がその議論の概要を報告し,情報の共有を行った。以下に,全体会,分科会のテーマ,担当者を記しておく。 2.1 全体会 全体会では,本学で近年問題となっている「発達障害をもつ学生への対応」と「eラーニングを活用した教育」に関わる2つの講演会を企画した。 ①「発達障害の基本と聴覚障害との関係」講師:障害者高等教育研究支援センター大鹿 綾 講師 ②「e ラーニングを活用した教育」講師:保健科学部情報システム学科岡本 健 准教授 図1 全体会 全体会は大越教夫学長の挨拶から始まり,その後,全体として60分間の講演会を行った。全体会の参加者は59名であった。 2.2 分科会 分科会では次の4つの話題が提供された。 ①本学における発達障害への対応 大鹿 綾 講師 ②e ラーニングを活用した教育 岡本 健 准教授 ③リーダーになりうる学生をどう養成するか 加藤一夫 教授(とりまとめ 宮城愛美 講師) ④ 学生の主体性をどう育てるか 若月大輔 准教授 分科会として80分の議論,意見交換を行い,その後,報告会として分科会ごとに各5分づづ計20分の報告会を行い,情報の共有,意見交換を行った。各分科会の参加者は分科会1 25名,分科会2 13名,分科会3 9名,分科会4 11名であった。 3. 学生生活研究会報告 3.1 全体会(講演会)報告 以下に,全体会の講演者による報告をまとめる。 3.1.1 「発達障害の基本と聴覚障害との関係」講師:障害者高等教育研究支援センター大鹿 綾 講師 発達障害とは①学習面に特定の困難を示す学習障害,②不注意や多動性を特徴とする注意欠陥多動性障害,③対人関係やこだわりに特徴を示す広汎性発達障害等[1]とされており,明らかな知的な遅れはないにも関わらず,特定の領域に著しい困難を示すものである。なお,近年DSM-5[2]など医学的診断方法,診断名が変わったため,教育上の用語と医学用語に若干の違いがあることに留意が必要である。発達障害の共通した特徴として,個人内の能力差が大きいことが挙げられる。そのため,本人の感じる困難さが分かりづらく,適切な理解を得られにくいことがある。うつや統合失調症,依存症などの精神障害と混合されてしまうこともあるが,全く別の機序によるものであるとされている。しかし,そのわかりづらさ故に長期間にわたり適切な理解が得られなかったり,不適切な対応を繰り返し受けることで二次的困難として精神疾患を引き起こすことは少なくない。発達障害の原因は脳の何らかの機能障害とされており[3],しつけや愛情,本人のやる気が直接的原因ではない。しかし,実際の生活上の困難度には影響する面も大きく,できるだけ早期から正しく理解し,適切に対応していくことが求められる。高等教育機関に在籍する発達障害者は年々増加傾向にあり,平成28年度調査ではおよそ0.1%に発達障害があるとされている[4]。一方,聴覚障害と発達障害を併せ有する小・中学生に関する全国聾学校調査では,その37.4%に何らかの著しい困難があるとされ,これはあくまでスクリーニング調査結果であるが,聴児よりも高率であることが示されている[5]。本学において,発達障害に関する全学的な調査はないが,指導上配慮の必要性を感じる学生の存在を耳にする機会は少なくない。合理的配慮の下,他大学においても聴覚障害学生の受け入れはこれからも更に進んでいくことが予想される。その中で本学を選択する学生の層がどのようなものになっていくのか,本学がどのような存在感を発揮していくのか今後の大きな課題であると感じている。情報保障はもちろん,学問内容,集団性など魅力を丁寧にアピールしていくと共に,我々教職員が発達障害に対する正しい理解をしていくことで,学生にとっても教職員にとっても,適切な環境作りをしていくことが求められる。 3.1.2 「eラーニングを活用した教育」講師:保健科学部情報システム学科岡本 健 准教授  はじめに インターネットおよびICT分野の発展により,大学教育のあり方に大きな変化が起きている。現在,多くの大学生はパソコンやスマートフォン,タブレットといった情報端末機器を所有しており,日常的に使用している。またインターネットの利用により,時間や場所の制約にとらわれず,たくさんの有益なコンテンツにアクセスできる環境にある。このような大きな社会変化の中にあって,eラーニングをどのようにして大学教育に活用していくのか。また本学の場合,視覚または聴覚に障害をもつ学生を多く受け入れていることから,一般的な大学とは幾分異なる取り組みが求められる。全体会では,これらの点に注目し,著者が所属する保健科学部の立場から現状や本学が向かうべきeラーニングのあり方について報告した。本稿では,全体会で述べた内容に加え,関連するテーマについてまとめる。 eラーニングの必要性 大学教育におけるeラーニングの必要性は,国や教育機関,研究機関など,これまで多くの組織で述べられてきた。eラーニングの利用形態の一つとして,学習管理システム(LMS: Learning Management System)が挙げられるが,報告書[6]によると,2015年度において,全学でLMSを導入している大学の割合は,国立大学,公立大学,私立大学の順にそれぞれ,89.9%,63.2%,50%であった。この割合は年々飛躍的に向上しており,本学においてもeラーニングを用いた各種サービスの重要性に変わりはない。保健科学部は,保健学科と情報システム学科の2学科から構成されており,保健学科には鍼灸学専攻と理学療法学専攻があるが,これらの専攻学生は,国家試験に合格しなければ,将来,鍼灸師または理学療法士として就労できない。このため本学の医療系学生に適した国家試験対策のeラーニング教材を構築することは,学生の学力や就業力を向上させるという点で有益である。また,大学をはじめとする医療系教育機関では,医療関係者の交流を目的として,現在,「医療系e ラーニング全国交流会」と呼ばれる交流会が立ち上がっている。この交流会では,医療系e ラーニング分野の学術研究や教育普及活動に従事しており,平成19年度に第1回の交流会が実施され,平成29年度には第12回を数えている。このような交流会での取り組みにより,医療現場におけるシミュレーション学習や,日々アップデートされる医療知識の導入,遠隔教育といったことがe ラーニングを用いて効率的に実施できるようインフラが整備されている。一方で,総務省の報告[7]によれば,視覚障害者がインターネットを利用した際に不便を感じる点として,「障害に配慮したホームページが少ない」,「欲しい情報を見つけるのが難しい」「画面が煩雑で見にくい」といったことが上位に挙げられている。このため本学でeラーニングを導入する際は,これら現状の問題点が改善されるような取り組みが求められる。 利用状況 保健科学部ではLMSにMoodleを採用している。原則としてシラバスで公開されているすべての授業がコースとして登録されており,担当教員は受講学生に対し,小テストやレポート提出,講義資料の配布といったサービスを容易に提供できる。紙媒体でこれらの作業を実施していたときと比べ,管理の手間を大幅に削減できるため,そのぶん教員は生徒と向き合う時間を増やすことができる。また,学生側から見れば,「レポートを提出期限まで何度でも差し替えができる」,「講義資料をインターネット上で入手できるので,授業の予習に役立つ」といった好意的な意見をいただいた。特に全盲学生の場合,従来は紙媒体の点字資料を用いて学習するしか方法がなかったが,Moodle導入後は,これらの資料を持ち運ぶ手間が省け(点字資料は,かさ張ってかつ重い),また電子文字の使用により,どのような漢字が用いられているか,学生が自分自身で容易に知ることができるため同音異義語などの判別に大変助かるという意見があった。大学事務局からの案内もMoodleで知ることができる。Moodleのトップページには,「教務係からのお知らせ」,「学生係からのお知らせ」といったものがあり,学生はインターネットを通じて,事務局から種々の案内を受け取ることができる。これと同じ案内は,春日キャンパス校舎棟の玄関付近に掲示板や点字資料といった媒体を用いて掲示されているが,学生はわざわざそこにいかなくても休講やイベント情報を知ることができる。また,本学部ではMoodleを用いて資格試験対策にも取り組んでいる。現在のところ,語学系,情報系,医療系に関する種々の試験教材を用意しており,語学系にはTOEICや実用英語検定,情報系にはITパスポート試験や基本情報技術者試験,医療系には,はり師・きゅう師国家試験や理学療法士国家試験,などがある。これらのコンテンツの活用については,学生が自主的に受講する場合もあれば,学科や専攻単位でゼミを実施し,教員の指導のもとで実施,または補習授業の教材として使用している。全体会の発表にあたり,著者は本学周辺にある大学のeラーニング担当者に事前にアンケートおよび電話調査を行い,実施状況や支援体制,学習効果などについて調査を行った。調査対象の大学は,筑波大学,筑波学院大学,茨城大学であった。全体会ではこれにより得られた結果や知見を述べ本学の状況と比較検討を行ったが,データの配布条件により本稿では割愛する。 現状の課題 大学でeラーニングを導入する場合,一般的な課題として,人材や資金面の確保が挙げられる。特にeラーニング導入に伴う初期コストは膨大である。また,導入にあたり,学生には一定レベル以上の情報リテラシが求められるが,医療系学生の場合,この確保が難しい。理由として,大学の医療系教育では,必修科目が多く,学生が自由に情報系の授業科目を選択できる余地はあまりない。また,病院や診療所,福祉施設へ行き,実践的な臨床を学ぶ「臨地実習」の科目も多い。必然的に授業でパソコンに触れる機会は減少するため,大学の授業で情報リテラシの向上をはかることは難しい。また,本学固有の課題もある。例えば鍼灸学専攻の学生の場合,中途視覚障害者の割合,および学生の平均年齢が,他学科・他専攻と比較して高い傾向があり,普段の生活でパソコンをあまり利用しない,パソコンの使い方がよくわからないと訴える学生が一定数いる。著者は鍼灸学専攻および理学療法学専攻の学生を対象として,Moodleを用いた各種の実験を実施し,アンケートなどを通してその結果をまとめた[8, 9]。以下にその一部を紹介する。Moodle の一般的な仕様では, 1列目にナビゲーション,2 列目にトピック,3 列目に最新ニュースというように3分割程度のブロックから構成されている。画面レイアウトが多段となり,複雑であるため,弱視学生は,見え方に応じて画面の拡大・縮小を繰り返す必要がある。また全盲学生の場合は,キーボードのみで所定のリンクページをたどる必要があり,操作している場所の特定や構造把握が難しい。情報システム学科に所属する全盲学生の場合,視覚障害者専用の特別なブラウザを使用して問題の解決をはかる場合が多い。例えば,NetReaderは音声ブラウザであり,これを使用すれば上記の問題点の多くを解決できる。しかしながら,専用ブラウザの利用はパソコンの習熟度が高い学生向けであり,医療系学生に対し,一律にこのようなブラウザの利用を求める事はできない。不要なブロックを削減する方法として,Moodle のテーマ変更やjQuery などのライブラリを用いたCSS の改変が考えられるが,いずれを用いても,学生の見え方に大きな違いがあるため,全ての学生に対応したレイアウトは難しく,学生への個別対応により,問題点を一つずつ解決する必要がある。 大学全体としての取り組み 本学でeラーニングを導入する場合,情報のアクセシビリティを常に考え,利用する学生がどの学科・専攻に所属しているかを考慮し,専門性や障害の特性に合わせた取り組みが求められる。一方で,本学の学生数は,一般大学と比べるとはるかに少ないため,予算や人材面においてスケールメリットを生かした取り組みはできない。以上のことから,限られた業務資源の中で,効率的な運用を行うことにより,本学のeラーニングに関するプラットフォームを構築する必要がある。構築に伴うアプローチ例としてLMSを取り上げる。Webの構成要素は,大きくデザインとコンテンツに分類される。このため,LMSの整備にあたり,大学側は前者の設計を重点的に行い,レイアウトやインターフェースの開発に特化する。一方で個々の教員は,専門や所属学部に応じて後者を担当する,という役割分担をすれば,効率的な運用が期待できる。また,学外組織から定期的に助成金を得られれば,その際に適宜コンテンツの充実をはかることができる。大学の授業では,eラーニングでは実現できないことを実践するよう工夫する必要がある。eラーニングは時間や場所の制約がない,受講者の理解にあわせた学習ができる,理解度や進捗の管理が容易,といった長所があるため,この点については,eラーニングでまかなう。一方で,以下は,eラーニングでは実現できないため,授業を使用して重点的に取り組む必要がある。(1)人間形成:教員と学生とのふれあい。仲間との刺激(2)専門技術の獲得:手技や臨床技能。実践的なプログラミング技能また,本学の大学院のなかには,社会人学生も多く含まれていることから,大学院授業では,ICTを活用した遠隔授業やeラーニングの構築が求められる。社会人学生が学びやすい環境を整備するためには,高いアクセシビリティを有するインターフェースが不可欠であり,これらの構築に向けて引き続き本学の精力的な取り組みが求められる。 3.2 分科会報告 以下に,各分科会の座長による報告をまとめる。 3.2.1 分科会1 「本学における発達障害への対応」本分科会は「本学における発達障害への対応」をテーマに23名が参加した。まず,前半の全体講演会の内容を受けて,質疑応答が行われた。その後,5チームに分かれてグループワークを行った。具体的には「学生対応で困っていること」を挙げ,それに対しての「対応策」,「今はないけれどこのようなものがあるとよいと思うもの」を模造紙と付箋を用いながら話し合い,整理していった(図2)。 図2 グループワークでの話し合いの様子(例) 「困っていること」として多く挙げられたものは,入学者選抜あるいは入学時などの早期に情報が欲しい,入試の際に卒業が難しいと思われる学生を受け入れざるを得ない,本人の不適切行動への対応方法が分からず,それが本人だけでなく,周囲の学生や教職員のストレスにつながってしまっている,配慮と甘やかしの境界が分からない,「根拠資料」についてどのように考えればよいのかわからない(医師の診断書でなくてはいけないのか,そもそも本人や親が医療機関にかかることを拒否した場合どうするのか,どのような手続きがあれば公的に「支援」を始めてよいのか等)などが挙げられた。どのグループにおいても目の前の学生に対して何とかサポートして,スムーズな大学生活,卒業,就職とつなげたい思いはあるものの,具体的にどのようにすれば良いのかわからない,日常業務の中で特定の学生のみに時間を割くことが難しいといった切実な声が聞かれた。このようなことに対して,対応策として挙げられたこととしては,複数の教員が関われるようにする(一人が負担を負いすぎないようにする),発達障害専門の非常勤講師や障害学生支援室を新たに設置してすぐに対応できる体制がほしい,地域のリソースや福祉支援等外部機関の活用,周囲の学生へのカウンセリング・理解啓発,柔軟なカリキュラム対応(例:1つの授業を複数年かけて取れるようにする,長期休暇での補習で出席数を補う,コース変更がスムーズに行えるようにする,e-learningや通信教育課程をつくる等),公的に支援を開始するためのチャートを整理するなどが挙げられた。各グループで話し合った結果を模造紙にまとめ,分科会後半では他のグループでどのようなまとめを行ったのかを共有した。どのグループにおいても非常に積極的な意見交換があり,テーマに対する問題意識の強さが感じられた。今後,本学としての具体的な取り組みにつなげていけるよう,検討を続けていきたい。[大鹿 綾 講師] 図3 分科会1 3.2.2 分科会2 「e ラーニングを活用した教育」今回の研究会では,最初に全体会(講演会)を行い,その後,分科会を行った。この中で,「eラーニングを活用した教育」については同じ題目を用いて全体会,分科会の両方で実施された。本稿では分科会であがってきた内容をいくつかの項目にまとめて報告する。 これまでの取り組み 大学院や学部,研究支援センター等,それぞれの組織において,これまでeラーニングをどのように活用してきたか,参加した教職員(13名)から報告を受けた。保健科学部ではLMS(学習管理システム)としてMoodleを用いた授業の活用方法,産業技術学部からは情報教材の利用について等の報告があった。また,授業外で提供しているサービスについても話が挙がった。例えば,保健科学部では「資格試験対策」,として,(1)語学系(TOEICや実用英語技能検定),(2)情報系(ITパスポート試験や基本情報技術者試験),(3)医療系(はり師・きゅう師国家試験や理学療法士国家試験)の試験について,過去問や模擬試験等,学生が自学自習できるeラーニングのコンテンツを用意している。また,研究支援センターからは,アニメーションを用いて手話や字幕が表示される英語教材について紹介された。全学の教職員が共通認識として感じていることは,(1)情報アクセシビリティが高いコンテンツを作成すること,および(2)コンテンツ作成に伴う予算を確保すること,の難しさであった。教材を作成するにあたり,専門の業者に委託することは(1)の点で役立つ場合が多いが,一方で多くの作業を業者に委託すると経費が飛躍的にあがり,それにともなって(2)を達成することが困難になるため,現実的ではない。情報保障を確保し,かつ経費を抑えるためには,種々の工夫が必要であり,そのためには教職員間の情報共有が不可欠であることが確認された。 障害をもつ学生のための理想的なeラーニング環境 本学は主に視覚や聴覚に障害がある学生を対象として受け入れている大学であることから,使用するeラーニング教材には,これらの障害の特性に応じた明示的な配慮が求められる。教職員は学生が十分な情報アクセシビリティを確保できるよう,教材で使用するモジュールやサービスについて,事前に入念な調査や設計を行う必要がある。分科会ではどのような工夫をすれば,情報アクセシビリティの高い良質なコンテンツを提供できるか話し合った。e ラーニングの導入にあたっては,利用する学生がどの学部・学科に所属しているかを考慮し,その専門性に応じた取り組みが求められる。本学では保健科学部,産業技術学部のいずれにおいても情報系の学科があり,所属学生は授業や研究で日常的にパソコンに触れているため情報端末機器の習熟度が比較的高い。一方で,情報系学科以外の学生の中には,パソコンに苦手意識を持つ人も多い。また,eラーニング利用にあたり,求められる技能について学生間で大きな格差があることが確認された。例えば視覚障害学生の場合,スクリーンリーダ(画面読み上げソフトウェア)を用いて,複雑な表の読み取りや詳細な操作をするには,技術の習得に多くの時間を要するため,保健科学部の学生に対し,一律にこのような技能を求めることはできない。e ラーニング活用を推し進めるにあたっては,これらの限られた制約の中で,最も学習効果が高まるよう,各種の取り組みが必要である。 eラーニングを活性化させるための施策 教員や学生によるeラーニング利用を促進させるための全学的な取り組みや大学の施策についても議論した。例えば,LMSを構築し,各種サービスを提供する場合,学生がもつ障害の特性に応じたインターフェース構築が本学において特に求められる。このプラットホーム作りについて,教員が単独で整備し,その教員のみが授業で利用したとしても,スケールメリットが活かせず,そのプラットホームは不十分なものになる可能性がある。また利用する学生側も複数の教員が別々の仕様で構築されたLMSはポリシーが統一されておらず,混乱を招きかねない。このためLMSツールの選定やインターフェース等の各種デザインについては,大学が主体となって整備計画を行い,発信できるような体制作りが求められる。具体的には,年次計画の作成,WG(ワーキンググループ)や設置準備室の立ち上げ,SD・FDの活用が挙げられる。これらは本学でも必要に応じて各種取り組んでおり,引き続き精力的に推し進めることが確認された。[岡本 健 准教授] 図4 分科会2 3.2.3 分科会3 「リーダーになりうる学生をどう養成するか」 本学での,リーダー性を発揮できる分野の話し合い,実際にリーダーとして活躍している卒業生の紹介等が行われた。本分科会では次の4つの話題提起をし,議論を行った。 (1)リーダーになりうる分野にはどのようなものがあるのか。 (2)実際に本学在学中の学生でリーダー的な学生がいるのか。もしいればどのような分野の学生か。 (3)障害者のためのリーダーなのか,障害のない人々を含めた中でのリーダーなのか。 (4)リーダーをどのように養成していくのか。 本学の特徴からリーダーになりうる人材として,産業技術学部では企業内で重要な技術的な指導能力を発揮している学生がいること。また,保健科学部では医療系の実習指導を担当している人材と,障害者のリーダーとして活躍している例が紹介された。また,産業技術学部,保健科学部からスポーツあるいは芸術関連のリーダーとして活躍している例も少なからずあるということが紹介され,特に障害者スポーツのリーダーとして陸上,バトミントン,ブラインドサッカーなどのスポーツ競技で活躍中であるという例が挙げられた。昨今,学生の学力低下が取りざたされているが,本学には少なからずリーダーになることができる優秀な人材がいることも紹介された。そもそも,障害者間でのリーダーなのか,全ての人を対象としたリーダーなのかという議論もなされたが,広い意味で障害者,健常者の区別なくリーダーとして活躍しうる人材を育成すべきであろうという議論がなされた。また,それに関連してリーダーを要請するには在学中にリーダー体験が必要であり,教員はその体験の手助け,機会,経験を積ませる場(例えばサークル,ボランティアの機会等)を作ることが必要であろうという意見がまとまった。また,各障害者団体からは団体内で活躍するリーダー,あるいは障害者を教育する立場としての活躍(理療科教員など)を期待されているという実例も紹介された。また,問題点として本学におけるリーダーを育てる方法について個々の教員が考えなければならないであろうことも意見として挙げられた。本学の設立の1つの目的として,各分野でのリーダー的人材の育成が挙げられており,リーダー育成のため,積極的に学生に経験を積ませる場を与えることが必要であるという結論に至った。[加藤一夫 教授,とりまとめ 宮城愛美 講師] 図5 分科会3 3.2.4 分科会4 「学生の主体性をどう育てるか」 第4分科会は「学生の主体性をどう育てるか」をテーマとして,進行役の若月大輔准教授から話題提供があった後に,同分科会参加者11名によるディスカッションが行われた。話題提供では,まず,「主体性とは,様々な状況下においても自分の意志や判断で行動するということ。かつその行動に責任をもつこと。」という主体性の定義について確認がなされた。次に,主体性を育てる大学教育の動向として,文部科学省中央教育審議会大学分科会にて審議された内容[10]に触れ,近年の一般大学生の授業に対する姿勢が受身的であること,依存傾向が強いという報告[11]について説明があった。一方で,本学産業技術学部の聴覚障害学生に対して同様のアンケート調査を実施したことに触れ,結果として一般大学生よりも主体性が高い傾向が得られたことについて述べた。ディスカッションでは,本テーマについて,参加者一人ひとりから現在の教育や業務の現場から伺える学生の様子,および主体性を育成する提案などの意見をいただき,議論を行った。議論を通して,学生の主体性を育てるポイントとして次の3つが挙げられた。 (1)自分の立ち位置を理解させること (2)意思決定を与えるチャンスを与えること (3)主体的に活動するきっかけを与えること (1)については,障害により社会経験が限定される本学学生に対して,アルバイト体験や課外活動などを促すこと,そして,他者から自分がどう見えているかを意識させることが必要であるといった意見があった。(2)については,障害に対する配慮やサポートの範囲を越えたお世話をしすぎないこと,すぐに問題の解決方法を提示せず,本人に悩んだり考えたりする時間を与えることが重要であるといった意見があった。また,これらを遂行する場合には,指導者側の対応方法を統一することが重要であるといった意見もあった。(3)については,学生が自ら企画を立て実行するきっかけを与えることや,それらが可能な環境づくりが大切であるといった意見があった。本分科会のディスカッションを通して,産業技術学部と保健科学部の両学生の主体性について,本学の様々な教職員の立場からの情報交換がなされ,今後の本学学生の主体性を育てる方向性について議論がなされた。[若月大輔 准教授] 図6 分科会4 3.2.5 4つの分科会終了後に,各分科会にて5分づつの報告会が開催され,情報の共有,意見交換が行われた。 図7 報告会 参照文献 [1] 文部科学省(2007)発達障害者支援法等で定義された「発達障害」の範囲図. http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/10/06/1243499_001.pdf [2] 日本精神神経学会(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. [3] 文部科学省(2003)主な発達障害の定義について. http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/008/001.htm [4] 日本学生支援機構(2017) 平成28年度(2016年度)障害のある学生の修学支援に関する実態調査 http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/index.html [5] 大鹿綾,稲葉啓太,渡部杏菜,長南浩人,濵田豊彦.発達障害に関する第二回全国聾学校調査について-第一回調査との比較を中心に-.聴覚言語障害.2014;42(2): 51-61. [6] 大学ICT推進協議会,高等教育機関におけるICTの利活用に関する調査研究 結果報告書,2016 [7] 総務省 IICP情報通信制作研究所.“障がいのある方々のインターネット等の利用に関する調査報告書”,調査研究報告書,2003, 2012. [8] 岡本健,坂尻正次,三宅輝久,石塚和重,野口栄太郎, 大越教夫:視覚に障害をもつ医療系学生のためのeラーニング支援,情報科学技術フォーラム(FIT2013),第3分冊,pp.655-656, K-043,情報処理学会,2013. [9] 岡本健,坂尻正次,三宅輝久,石塚和重,野口栄太郎, 大越教夫:視覚に障害をもつ医療系学生を対象としたeラーニング教材の作成,第76回全国大会,2H-5,情報処理学会,2014. [10] 中央教育審議会大学分科会,「予測困難な時代において生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ」,文部科学省, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1319183.htm, (2017/11/10参照) [11]樋口健,「第2回「学生の主体性」をどう育むのか」,ベネッセ教育総合研究所,http://berd.benesse.jp/koutou/opinion/index2.php?id=1963, (2017/11/10参照) Report of the Activity in the 2017 Fiscal Year of a Student Life Study Meeting KATOH Kazuo 1), KUROKI Hayato 2), OSHIKA Aya 3), OKAMOTO Takeshi 4), MIYAGI Manabi 5), WAKATSUKI Daisuke 2) 1) Department of Health, Faculty of Health Sciences, 2) Department of Industrial Information, Faculty of Industrial Technology, 3) Division for General Education for the Hearing and Visually Impaired,Research and Support Center on Higher Education for the Hearing Impaired and Visually Impaired,Tsukuba University of Technology 4) Department of Computer Sciences, Faculty of Health Sciences, Faculty of Computer Sciences 5) Division of Research on Support for the Hearing and Visually Impaired, Research and Support Center on Higher Education for the Hearing Impaired and Visually Impaired,Tsukuba University of Technology Abstract: The Student Committee decided to cover a wide range of educational activities at the student life study session in 2017. At first, two lectures and four sub-meetings were held during this conference. The first theme was “Relationship between the fundamentals of developmental disorders and hearing impairment.” The second theme was “Education for disabilities using electric learning, e-learning.” In addition, four sub-committees were established and conducted in-depth discussions. At the subcommittee meetings, the following themes were discussed: (1) “Responding to developmental disorders at our university,” (2) “Education for the disabled using e-learning,” (3) “How to train students who can become leaders,” and (4) “How to nurture student’s subjectivity.” Each sub-committee promoted the exchange of ideas and information with school staff and teachers who participated and also shared their perspectives. Keywords: Developmental disorders, E-learning, Leader development, Student subjectivity