上田法治療とレッドコードとを組み合わせた脳性麻痺(児)者の新たなトレーニングについて 石塚和重,中村直子 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 理学療法学専攻 要旨:上田法治療とレッドコードというスリングセラピーを組み合わせた脳性麻痺(児)者の新たなトレーニング方法について紹介する。このトレーニングは脳性麻痺児の筋緊張を軽減する方法として非常に有効な手段になるのではないかと考え,7年前から筑波技術大学リハビリテーション部門に取り入れて臨床現場から検証してきた。 上田法は筋肉を短くする方向に一定の保持をして緊張を軽減していく方法である。レッドコード・ニューラックはただ単に重力を免荷するだけではなく,適切な動きのために身体の重さを軽減させ,目的動作を獲得するという新しい概念でのトレーニング方法である。本文では上田法治療とレッドコードを組み合わせた脳性麻痺(児)者の筋の緊張を軽減する新たなトレーニング方法と期待できる効果について紹介する。 キーワード:脳性麻痺,上田法,レッドコード,新たなトレーニング 1.はじめに 私が上田法治療セラピストになってからすでに25年が経過した。脳卒中患者の上田法治療を日本に紹介したのが平成4年である。多くの上田法セラピストは上田法講習会で私のビデオをみて脳卒中に対する上田法治療の方法とその効果を講習会で学んできたと思われる。それから25年たって,私自身上田法治療の効果を振り返ってみると決して満足した結果を残しているわけではない。最近,上田法治療はとくに成人において“癒しのためのトレーニング法”となっているような感じがする。今後,身体の自由な動きを獲得するための上田法治療の適応と限界を明確にして技術の更なる修正をしていく必要があると考えている。現在,上田法治療は科学に基づいた治療が確立することが課題となっている。今回は上田法治療とレッドコードというスリングセラピーを組み合わせた脳性麻痺(児)者の新たなトレーニング方法について紹介する。このトレーニングは脳性麻痺児の筋の過緊張を軽減する方法として非常に有効な手段になるのではないかと考え,7年前から筑波技術大学東西医学統合医療センターリハビリテーション部門に取り入れて臨床現場から検証してきた。本文では上田法治療とレッドコードを組み合わせた脳性麻痺(児)者の筋の過緊張を軽減する新たなトレーニング方法と期待できる効果について紹介する。 2.上田法とは 上田法とは脳性麻痺の筋の緊張を軽減する治療である。小児整形外科医 上田正先生が考案した。1988年「脳性麻痺の新しい治療法」として紹介され,1989年に第1回上田法治療認定講習会が開催された。上田法の特徴は筋伸長法とは全く逆の治療法である。すなわち,筋肉を短くする方向に一定の保持をして緊張を軽減していく方法である。上田法の基本手技として@頸部法(Neck法−N法) A肩-骨盤法(Shoulder-Pelvis法−S-P法) B肩甲帯法(Shoulder Girdle法−S・G法) C上肢法(Upper Extremity法−UE法)D下肢法(Lower Extremity法−LE法)などがある。以下に上田法の効果について説明する。@筋緊張を抑制,軽減することによって,関節の動きが改善する。A異常姿勢が矯正され,運動機能が急激に向上する。B特別な介入をしなくても運動発達を促すことができる。C呼吸や摂食,言語機能,自律神経系,表情などにも影響を与える。D上田法は運動システムの構成要素に多様性や自由度を提供し,患者自身が運動システムを作動させるとによって新しい運動パターンを開発していく。 3.レッドコード・ニューラックとはレッドコードの正式名称はレッドコード・ニューラックといい,ノルウェーで生まれたスリングセラピーの新しい技術である。スリングセラピーは,ただ単に重力を免荷するだけではなく,適切な動きのために身体の重さを軽減させ,目的動作を獲得するという新しい概念でのトレーニング方法である。 4.上田法治療とレッドコードとを組み合わせた脳性麻痺児(者)のトレーニング 上田法治療とレッドコード・ニューラックを組み合わせた新たなトレーニング方法及び効果について紹介する。レッドコード・ニューラックで人の身体の一部または全身を宙に浮かせたHanging Position以下H・P法(図1)で全身をリラックス状態に置き10分から15分程度静止させておく。次に一部身体を宙に浮かせた状態で,上田法治療の頸部,肩・骨盤法,下肢法,上肢法を実施する。上田法後,レッドコードを利用して抗重力位でのトレーニングにする。ここで言う抗重力位トレーニングとは重力の変換をかけて座位や立位のトレーニングをしていく。A. 基本 ポジション(Hanging Position−H・P法)レッドコード・ニューラックで人の身体の一部または全身を宙に浮かせたハンギングポジションである(図1)。効果@腰部の筋を伸張し,腰部周辺の筋緊張が軽減する。A全身のリラクゼーション効果がみられる。 図1 基本 ポジション(ハンギングポジション) B. 頸部法(Neck法−N法)頸の左右の回旋しやすい方向にできるだけ回旋させ,その位置で3分間保持する(図2)。効果@頸部の筋の過緊張が軽減し,頸が反対側に回旋しやすくなる。A体幹や肩・上肢の筋の過緊張が軽減する。B下肢の筋の緊張が軽減する。 図2 頸部法(Neck法ーN法) C.肩-骨盤法(Shoulder-Pelvis法−S-P法)骨盤を固定し,体幹をできるだけ回旋しやすい方向から回旋した状態で3分間保持する。これを両側に行う(図3)。効果@体幹や四肢の筋の過緊張が軽減する。A体幹の非対称性が改善する。B脊柱側弯の軽減する。Cバランス反応が良くなる。D四肢が柔らかくなる。E身体の動きが良くなる。F便秘が改善する。G呼吸が楽になる。 図3 肩-骨盤法(Shoulder-Pelvis法またはS-P法) D.体幹-骨盤法(Trunk‐Pelvis法−T-P法)ハンギングポジションの状態で骨盤から動きやすい方向に対して15回程度左右に揺らせる(図4)。効果@腰部の筋を伸張し,腰部周辺の筋緊張が軽減する。A全身のリラクゼーション効果がみられる。B側彎の改善に期待できる。 図4 体幹-骨盤法(Trunk‐Pelvis法またはT-P法) E. 上肢法(Upper Extremity法−UE法 )上肢を体に近づけ,肘関節と手関節をできるだけ曲げて前腕を内側に回旋した状態で3分間保持する。(屈曲相:図5)次に肩を大きく広げ,同時に肩関節を外側に回旋し,手指はできるだけ開き,手関節をできるだけ背屈肢位(伸展相:図6)との交互運動を15回程度行う。再び屈曲相(図5)の姿勢を3分間保持する。効 果@上肢の筋の過緊張が軽減する。A上肢の動きが良くなる。B手の開きが良くなる。C手指の動きが良くなる。 図5 上肢法(UE法)屈曲相 図6 上肢法(UE法)伸展相 F.下肢法(Lower Extremity法−LE法)足をできるだけ下に向けて,踵を突き上げた状態と母趾を下に向けた状態を3分間保持する。(伸展相:図7)次に股関節と膝をできるだけ曲げ,足をできるだけ上にそらすようにして3分間保持する。(屈曲相:図8)最後に伸展相と屈曲相の交互運動を15回程度行う。効 果@下肢の筋の過緊張が軽減する。A下肢の動きが良くなる。B足の形が良くなる。C歩く姿勢が良くなり,歩きやすくなる。 図7 上肢法(UE法)屈曲相 図8 下肢法(LE法)屈曲相 G.抗重力トレーニング抗重力位でトレーニングすることによって,臥位,座位立位を段階的に経験していく。効果@抗重力位では困難とされている動きを容易にさせ,新しい運動,感覚体験をする。(図9・10・11)A全身調整訓練とともに呼吸,循環機能を高め,体力の向上に役立てる。B身体の認知をしながら身体の平衡バランスや運動機能を高める。 図9 身体を浮かせてのトレーニング 図10 座位トレーニング 図11 立位トレーニング 5.終わりに 脳性麻痺児(者)の上田法治療ができて30年になろうとしている。上田法国際インストラクター15年歩んで振り返ってみると,上田法治療が効果のある子どもや十分効果が出なかった子どもと様々であった。一方,レッドコード・ニューラックという新たなスリングセラピーは脳性麻痺児(者)に多くの可能性を示唆してくれた。とくに重度脳性麻痺で身体がこわばっている子どもの筋緊張が解れて眠ってしまう様子を見ると上田法治療やレッドコードによる治療の組み合わせは科学的な証明ができない部分もあるが,緊張からの解放していく子どもの姿は家族にも安心感を得させ,安心して帰っていく家族の姿は印象的である。本内容の一部は第22回日本上田法治療研究会学術集会で発表した。 参照文献 [1] 石塚和重.上田法治療手技における新たなる治療手技の提言と紹介.上田法治療研究会会誌.Vol.13 No.2。2000:p 44-46. [2] 石塚和重.変形の強い重度脳性麻痺の子どもたちに対する上田法治療について.上田法治療研究会会誌Vol.15No.1.2004:p3-8. [3] 石塚和重.脊柱側弯症に対する上田法治療に対する一試案.上田法治療研究会会誌.Vol19No1.2007:15-18. [4] レッドコードhttp://www.irc-web.co.jp/redcord New Training using a Combination of the Ueda Approach and Red Code Approach for Infants with Cerebral Palsy ISHIDUKA Kazushige, NAKAMURA Naoko Course of Physical Therapy, Department of Health, Faculty of Health SciencesTsukuba University of Technology Abstract: We introduce a new training approach for infants with cerebral palsy that uses a combination of the Ueda approach and sling therapy, called red code. Seven years ago, we thought that this training would be effective for mitigating muscle hypertension in children with cerebral palsy. We have incorporated it into the rehabilitation division of the Center for Integrated Medicine of the Tsukuba University of Technology and have verified it from the clinical site.The Ueda approach is a method for keeping the muscles in a direction to shorten the muscles constantly and reduce tension. Red Code New Rack is a training method with a new concept not only to simply relieve gravity but also to relieve the body of some weight for proper movement and to acquire the desired action.In the text, we introduce the new training method and its expected effects to mitigate muscle hypertension in infants with cerebral palsy that uses a combination of the Ueda approach and red code approach. Keywords: Cerebral palsy, Ueda approach, Red code approach, New training approach