聴覚障害学生に対する安全なスキー指導に関する研究(第二報) 向後佑香 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター キーワード:聴覚障害,スキー,指導方法,安全教育 1.研究の背景と目的 平成28年4月の障害者差別解消法施行を受け,全国の高等教育機関に在籍する障害学生数は今後更に増加する傾向にあるとみられている。高等教育機関における障害学生への支援の取り組みとしては,講義や学生生活における支援だけではなく,実技や実習を伴うような体育実技においても,障害特性に応じて適切な支援体制を整備することが必要である。また,現場の指導者は障害学生に対する体育実技指導や支援方法について,正しい知識やノウハウを習得することが求められている。本研究では,自然環境など外的要因の影響を強く受けるスキー・スノーボードに焦点を当て,「聴覚障害者がスキー・スノーボードを行う場合どのような事が危険因子となるか」について明らかにすることで,聴覚障害学生に対する安全なスキー指導方法を確立するための基礎資料を得ることを目的とする。 2.研究の方法 前年度のアンケート調査において,主に聴覚障害者の立場から,“聞こえない・聞こえにくい”事でスキー・スノーボード活動中にどのような事が危険(不安)になるかを明らかにした。そこで本年度は,指導者の立場から再度回答を分析し,実際の指導場面において留意が必要と思われる項目を精選した。分析方法は平成28年度に実施したアンケート調査のうち,高等教育機関において大学生の体育実技及びスキー・スノーボード指導に関わっている指導者(大学教員)の回答に焦点を当て,記述内容を集計・分類した後,状況及び場面ごとに危険因子を整理した。 3.成果の概要 3-1.回答者の属性 平成28年度大学体育スキー指導者研究集会に参加した大学教員のうち,計41名から回答を得た(表1,2)。 表1 回答者の年齢 表2 回答者の技術レベル 3-2.聴覚障害者に対する指導経験の有無 聴覚障害者に対してスポーツ指導をした経験について,「経験なし」は71%であった。また,スキー/スノーボードの指導経験は「経験なし」が83%であった。聴覚障害者に対してスポーツやスキー・スノーボードの指導を経験したことがある指導者は非常に少ないことが明らかとなった。 3-3. スキー・スノーボードのリスク 「聴覚障害者がスキー・スノーボードをする際にどのようなことが危険になると思いますか」という問に対して,「後方・側方からの注意喚起が聞こえないことによる衝突」,「放送が聞こえない」,「事故が起こった時の連絡・対応が出来ない」等,聴覚障害特性に起因するリスクが挙げられた。また,「指導者の指示が上手く伝わらない」や「滑走中の技術指導の難しさ」,という指導上の難しさに関する記述も見られた。 4.成果の今後の教育上の活用 高等教育機関に在籍する全ての学生が安全により質の高い体育実技を享受できるよう,今後,指導上の留意点をまとめた教材(ハンドブック)等の開発を試み,本研究の成果を指導現場に還元していきたい。