視覚障害者対応「情報補償コンテンツ型e-learningシステム」開発とユーザへの効果的配信方法の研究 太田智加子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター キーワード:情報補償型コンテンツ,英語自主学習支援,e-learningシステム 平成28年度から各大学において,障害者差別解消法に則った学生対応が求められるようになった中,障害学生自身の能動的な学習意欲の促進も必要とされている。文部科学省の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(中央教育審議会答申,平成24年)では,学習者の能動的な学修への参加を取り入れた教授法・学習法の総称として「アクティブ・ラーニング」が推奨され,成果を上げる大学も出てきている。高等教育段階にある視覚障害学生も例外ではなく,語学学習を能動的に進めていく力が求められる。平成25年科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究)により,これまで行ってきた研究(「視覚障害者対応の『情報補償コンテンツ』型e-learningシステムの研究」,以下「現研究」とする)では,市販の英語教材を,視覚障害対応の内容とする「情報補償型コンテンツ」を開発し,その作成方法を確立するとともに,物理的情報補償と相乗効果を持たせた総合的な自主学習支援e-learningシステムを構築し,現存する問題を解決してきた。このシステムへの登録学生は平成30年4月時点で400名を超えており,大いに利用されている。しかし現段階では,著作権の問題上,学内利用のみにとどまっており,全国の高等教育機関のニーズには供していない。そこで,現研究で開発したシステムの問題点を分析し,全国の高等教育に学ぶ視覚障害者のみならず一般の視覚障害者の英語自己学習に供し,より学習者の意欲を高め能動性を引き出すシステムを確立すべく,本研究を行った。このシステムの確立により,学習者の動機づけが上がり,文部科学省の推奨する「アクティブ・ラーニング」の成果も望めると考える。申請者がこれまで取り組んできた現研究では,市販教材のテキスト化・点訳等にとどまらず,教材自体に視覚障害者が利用しやすい改良をくわえ,教材自体の情報補償を設けた「情報補償型コンテンツ」の開発を行った。学内の視覚障害学生の自主学習に供し,TOEIC受験に道を拓くなど,その効果が確認できた。その結果,特に重度視覚障害学生からよく寄せられていた以下の問題を解決するとともに,今後の研究に一定の方向性を示した。・TOEICを受験したくても点字の対策本がない・墨字が読めないが語彙力を高めるにはどうしたら良いか・文法を一から復習したいが学習媒体がない一方で,このe-learningシステムは著作権の関係上,利用者は学内学生に限定されている。本研究では,当システムを全国の視覚障害者の様々な障害特性や要望に応じられるよう,配信方法の研究も行った。配信方法としては,一般には公開サーバを設けるが,一部の視覚障害者はその操作が困難な場合も多々ある。申請者のサーバ学内利用において,その課題も分かってきた。そのため,教材自体の配布方法と利用形態の指導なども併せて必要となる。1つには,作成済みコンテンツが収録されているDVDを全国配布する方法が考えられるが,プルダウンメニュー等,ムードルの機能を利用しないと学習できない制約がある。また,エクセルファイルの形で配布する方法も考えられるが,利用者の一括管理ができないことにくわえ,セキュリティ上の問題がある。平成29年度は予算の制約上,配信方法の研究・試行に至らなかったため,学内利用者からのフィードバックを集め,今後のシステム改良,一般公開等に関する研究に活かすこととした。