視覚障害者スポーツにおける位置情報提供システム 小林 真 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:レーザースキャナ,障害者スポーツ,ボッチャ 1.はじめに 昨年度実施したレーザースキャナを用いた視覚障害者ボウリング軌跡計測に引き続き,平面レーザースキャナの障害者スポーツへの利用可能性を探った。各方面より情報収集をした結果,本学の授業「健康・スポーツ」を担当する天野和彦准教授より,ボッチャにおけるボールの位置情報提供に関するニーズを伺うことができた。ボッチャとは,主に運動能力障害者向けに開発されたパラリンピックの正式種目であり,視覚障害者を含め様々な障害者が参加可能なスポーツである。本学も開催場所になっている「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント」でも実施され,毎回多くの来場者が楽しんでいる。コートは6m×12.5mの広さで,2チームに分かれて競い合う。最初に投げられた白いジャックボールに対して赤いボールと青いボールを投げ合い,より近くに寄せた方のチームが勝つというルールで進められる。ボッチャの実際の試合においては,投げる前にコート中にあるボールの状況を確認しなければならない。電動や手動の車椅子を利用する選手たちは,ジャックボール周辺まで移動して状況確認する場合もあるということで,手元で位置を確認したいというニーズがある。また,視覚障害者がボッチャを楽しむ場合にもボールの位置関係を把握する必要があるため,なんらかの形で状況を分かりやすく伝える仕組みがあると選手たちは助かる。また,ボッチャは状況の変化が急激ではなく,動作を与える対象が止まっていることや,どのプレーヤーがアクションを起こしているのかが明確であるといったことなど,ゲームの進行速度やルール的に支援システムを構築しやすいスポーツだと言える。 2.ボッチャのボール位置の計測と提示 以上のような背景から,今回,ボッチャのボールを実際にレーザースキャナで計測し,データの取得可能性について確認した。更に重度視覚障害者向けに点図ディスプレイで表示することを想定し,スキャナライブラリと画像処理ライブラリを用いたC#プログラムを作成して,得られた平面距離画像を点図ディスプレイに表示するシステムを構築した。図1は測定用ソフトウェアを用いたボールの検出結果例である。用いたスキャナは1度あたり8点の測定が可能な分解能を持つため,コートの広さとボールの大きさのバランスから,十分検出可能であった。しかし図1におけるジャックボール右奥の青ボールのように,センサから見て手前の赤ボールと位置が重なってしまうと検出できない場合もある。これらの解決のためには,複数のセンサ利用や,継時的な記録により判別することなどを検討する必要があると考えられる。図2は,計測した情報を点図ディスプレイに提示するシステムの外観である。センサと点図ディスプレイを駆動するために12Vと5Vの出力か可能なバッテリーを用意し,電源のない環境でも計測と提示ができるようにした。画像処理としては単純な縮小処理を施しただけだが,ボールの位置が触覚で認識できることが分かる。今後は様々な画像処理を適用することで,より点図ディスプレイで理解しやすい情報を提供するよう改良していきたい。 図1 ボッチャのボールの検出結果例 図2 距離画像を点図ディスプレイに提示するシステムの外観と2点を表示している様子 謝辞 本研究は筑波技術大学競争的教育研究プロジェクト事業として実施しました。記して深く感謝します。