ブラインドサッカーのペナルティキック精度向上に関する研究─ 新・旧ゴールにおける比較 ─ 木下裕光1),福永克己2),佐久間亨3),松井 康1),野津将時郎1) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科1),情報システム学科2),東西医学統合医療センター3) キーワード:視覚障害,サッカー,ペナルティキック 【目的】 視覚障害者がスポーツを行う上で最も必要な配慮は,視覚情報を保障する事である。人間は周囲の状況に関して,圧倒的に多くの情報を視覚から得ており,視覚障害は情報障害といわれている。スポーツの実践,指導,支援の場面で視覚情報を全て保障するのは困難であり,課題が多い。視覚障害者が行う5人制サッカー(以下,ブラインドサッカー)において ,フィールドプレーヤーは,プレー中の公平性を保つためにアイマスク等を装用し,視力0(全盲)の状態で競技を行う。サイドフェンスのあるフットサルコートにおいて,音源入りボールを使って,敵味方が入り乱れて行うスポーツであり,競技者の安全性確保や競技力向上のために視覚情報を保障することは特に重要である。われわれは,これまでにブラインドサッカーにおけるペナルティキック(以下,PK)精度向上など競技力向上に関する研究を行ってきたが,平成28年にブラインドサッカーの国際的な新ルールが制定され,ゴールの大きさが変更となった.ゴールマウスの大きさが,旧ゴール縦2m・横3mから,新ゴール縦2.14m・横3.66mとなり,約1.3倍に拡大されたが,新ゴールにおけるPK精度に関する検討はなされていない。本研究の目的は,新・旧のゴールにおけるPK精度の比較・検討を行い,選手に対する有効な指導方法への示唆を得ることである。 【対象・方法】 対象は,ブラインドサッカー・クラブチームに所属する視覚障害者を有する選手5名であった(男性4名,女性1名)。選手のプロフィールは,年齢32.6 ± 8.7(平均値±標準偏差;以下,同様)歳,競技歴6.8 ± 5.3 年,身長170.4 ± 2.9 cm,体重73.0 ± 13.1 kgであった。各選手には,事前に研究の目的,方法などを口頭と文書により十分に説明し,参加の同意を得た。なお,本研究は筑波技術大学医の倫理審査委員会の承認を得て実施した。 各選手は,ブラインドサッカー試合中の第1PK(ゴールから6mの地点よりPKを行う)に準じて,ゴールマウスにゴールキーパーを配置せずに,旧ゴールと新ゴールに対し,各々10回のシュート試技を行った。毎回のシュート試技について,キック後のボール速度(以下,ボール速度)とシュート方向を記録した。ボール速度は,スピードガン(Bushnell社製Velocity RADARGUN)を用いて測定した。シュート結果に関して,ゴール指数(満点10点)を算出し,その平均点を旧ゴールと新ゴールで比較した。ゴール指数算出時の最低ボール速度は,64.5 km/時と規定した。測定結果は,全て平均値±標準偏差で示した。 【結果】 ゴール指数は,旧ゴール 0.6±0.3点,新ゴール0.2±0.3点で,有意差はなかった(P=0.34)。また,ボール速度は,旧ゴールでの試技 54.9±5.9 km/時,新ゴールでの試技55.0±5.7 km/時で,有意差はなかった。 【考察】 ブラインドサッカーの国際ルール改正により,ゴールマウスが拡大され,新ゴールでゴール指数が大きくなることが予想されたが,旧ゴールと比べて差が認められなかった。この原因として,ほとんどの試技で規定のボール速度より低かったためと考えられた。松井らの研究によれば,ブラインドサッカーのPKにおけるボール速度について成功と失敗のカットオフ値は,64.5 km/時であった。PK精度を向上するためには,ボール速度を高めることが重要である。今後,ボール速度を高めるキック方法を動作解析等により究明し,その結果をブラインドサッカー選手に対して指導する方法を確立する必要があると考えられた。