評価実習前後の学生による自己評価結果の考察 井口正樹1),佐久間亨2),杉田洋介2) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科1)筑波技術大学 保健科学部 附属東西医学統合医療センター2) 要旨:平成28年度より授業の一環として,理学療法学専攻3年次が履修する臨床実習2(評価実習)の準備のためプレ評価実習を本学医療センターで行っている。今回,プレ評価実習後(評価実習前)と評価実習後に学生から自己評価の回答を得た。回答は,19項目においてA~Dの4段階として,低い評価(CとD,それぞれ十分な助言・指導で・・・ができた,十分な助言・指導でも・・・ができなかった)がついた項目数の評価実習前後での推移に着目し結果を分析した。全体的に低い評価がつけた項目数は評価実習前と比較して評価実習後で減少したため(10/19→6/19),プレ評価実習の有効性が示唆された。一方,評価実習前後で共通して低い評価の項目があり,中には評価実習後に新たに低い評価のついた項目もあった。これらの結果は,改善が容易な項目と改善にはより時間のかかる項目を区別するのに役立ち,今後の教育方針を検討する上で貴重な情報となり得る。 キーワード:理学療法,臨床実習,評価実習,自己評価 1.はじめに 理学療法とは病気や怪我などによって運動機能が低下した人々に対し,運動機能の維持・改善を目的に運動や温熱,電気などの物理的手段を用いて行われる治療法である。理学療法士は,治療に先立ち「評価」を行う。運動機能低下の程度や原因を把握するために筋力の検査や関節の動く範囲の測定などに代表される様々な検査・測定や問診を行い,まずは情報を収集する。収集した情報を統合・解釈し,目標設定,治療計画立案へと進める。この評価は,医師が治療に先立ち診断するのと同様に,理学療法でも非常に重要である。 令和元年現在,計18単位の臨床実習が理学療法士養成施設で義務づけられており,本学保健科学部保健学科理学療法学専攻では4回の臨床実習を行っている。その中でも3年次末に3週間で行われる臨床実習2(評価実習)は,2年次夏期授業休業中に1週間で行われる見学実習から長いブランクがあるにも関わらず,理学療法で重要となる評価が求められるため,ハードルが非常に高い。そのため,平成28年度から,本学東西医学統合医療センターのリハビリテーション科(以下,リハ科)で,実際の患者を対象に評価実習の準備としてプレ評価実習を3年次2学期に行っており,前に報告している[1]。今回,このプレ評価実習の有効性を確認すべく,プレ評価実習後(評価実習前)と評価実習後で,学生が自身でどれだけ出来たかを回答する自己評価の結果を分析し,興味深い結果が得られたので,ここに報告する。 2.プレ評価実習の概要 詳細は既に報告済みであるため[1],ここでは概要のみを示す。プレ評価実習の主な目的は評価実習の準備であるため,評価実習と同様な環境作りに努めたが,評価実習との相違点として2点,ある。一つ目は,評価実習では学生は1人で行うが,プレ評価実習では3~5人のグループで行った。二つ目として,教員の指導・助言を評価実習より多くするよう努めた。大まかな流れは,事前に担当する患者の疾患名や年齢などの基本情報を与え,学生はどのような検査測定が必要かを挙げ,それらを教員の監視・監督の下,患者に行い,情報を収集した。その後,収集した情報の統合と解釈を行い,問題点抽出,目標設定,治療計画立案まで行い,最後に報告会にて発表した。 3.自己評価シートの作成 評価実習前後で同一の評価シートを使用したため,回答時期としてプレ評価実習後か評価実習後のいずれかを選択するようにし,各項目に対してA~Dの4段階で学生は回答した。4段階の選択基準は,評価実習で臨床実習指導者が学生の評価に使用する評価表に準じて,Aは「わずかな助言・指導で・・・ができた」,Bは「時々の助言・指導で・・・ができた」,Cは「十分な助言・指導で・・・ができた」,Dは「十分な助言・指導でも・・・ができなかった」とした。自己評価シートは全19項目あり,大きく,1.情報収集,2.検査測定の知識と技術,3.基本的な治療計画の立案,4.実習内容の記録と報告,に分け,それぞれ2,9,5,3項目が含まれた。加えて,以下の5~7に関しては,優先順位で上位2点までを簡潔に記入するよう指示し,5.結果を振り返り,改善すべき反省点,6.上記を踏まえ取り組むべき具体的な課題,7.(指導者の)フィードバック内容,を自由記載で書かせた。 自己評価シートの作成に当たっては,下記の点に注意した。まず,記入に要する時間が短くなるよう,各項目の質問は簡潔に記載し,かつ必要最小限の項目に絞った。また,例えば検査測定の実施に関する質問では,単に「検査測定を実施する」ではなく,「正確かつ手際よく検査測定を実施する」という具合に,可能な限り具体的に質問した。最後に,自らを振り返り考え直す機会を与えるために,A~Dの選択のみならず,自由記載を加えた。 4.分析方法と結果 3年次学生8名に対し,自己評価の意義を説明した上で回答を依頼したところ,全員から回答を得た。低い評価(CとD:それぞれ,十分な指導・助言で・・・ができた,十分な指導・助言でも・・・ができなかった)がついた項目数に注目し,評価実習前後でその変化を分析した。具体的には,評価実習前後でそれぞれCとDの合計を求め,回答数の半分である4以上を「多い」と定義し,評価実習前は多かったが,評価実習後では多くなくなった等,前後での変化を分析した。 その変化には3つのパターンが見つかった。一つ目は,評価実習前にC・Dの数は多かったが,評価実習後で多くなくなった項目(5項目,表1),二つ目は,評価実習前後で共通してC・Dの数が多かった項目(5項目,表2),最後に評価実習前にC・Dの数は多くなかったが,評価実習後で多くなった項目(1項目,表3)である。 自由記載で特記すべきは,反省点・改善点として,8名中6名が「検査測定技術の向上」を評価実習前で,8名中7名が「検査測定がスムーズに行えなかった」を評価実習後で挙げていたことである。 5.考察 まず,評価実習前にC・Dが多くついた項目数は,評価実習後で減少した(表1~3,C・Dの多い項目数 = 10/19→6/19)。この結果は,プレ評価実習後では苦手だった項目が,プレ評価実習後から評価実習開始まで,或いは評価実習中に改善できた・苦手でなくなったことを示唆する。前の報告[1]でも述べた通り,プレ評価実習そのものは時間が短く,プレ評価実習を終えること自体が評価実習の準備になるというよりは,学生に自身ができないこと・練習が必要なこと・苦手なことを気づかせる意味合いが大きいと思われる。上記の結果は,プレ評価実習が「気づき」の機能を十分に果たしたと考えられる。 またプレ評価実習で苦手と感じた項目の中には,2パターンあることがわかった。1つ目は,指導・指摘された内容を適切に反映する等,比較的,改善が容易な項目である(表1)。もう一つのパターンは,正確かつ手際よく検査測定を実施する等,改善にはより多くの時間・努力・練習が必要な項目である(表2)。 表1 評価実習前にC・Dの数が多かったが,評価実習後で多くなくなった項目 表2 評価実習前後で共通してC・Dの数が多かった項目 「検査測定の当日までに十分,準備する」に関しては,プレ評価実習後には苦手と思わなかったが評価実習後で初めて苦手と感じた項目であった(表3)。当然,プレ評価実習でも,予定している検査測定の準備は十分に行うよう,指導している。それにも関わらず,このような結果が得られたのは,おそらくプレ評価実習がグループワークであったためと思われる。指導できる教員数は限られているためグループワークにせざるを得ない事情もあるが,評価実習の準備として位置づけられたプレ評価実習では,意図的にグループワークを取り入れている。しかし,プレ評価実習がグループワークであったため,個々の学生の準備不足がプレ評価実習では表面化しなかった可能性がある。 表3 評価実習前にC・Dの数が多くなかったが,評価実習後で多くなった項目 今回の結果から,学生は授業で既に指導を受けているにも関わらず,実際にはその内容が反映できないことが明らかとなった。例えば,授業では目標を設定する際,「具体的で適切かつ実現可能な目標を設定する」よう指導しているが,プレ評価実習後の回答で8名中7名がCかDを付けた。学生へは繰り返しの指導が必要であり,この繰り返しは授業で何度も指導するよりは,今回のように実際の患者から得たデータを元に考え,不十分であれば指導を受ける,という具合に形を変えて指導することで,学生への定着が期待できる。 幸い,比較的容易に改善できる項目も多かった。これらの項目については,評価実習が開始される前までに改善させるようにする。通常,評価実習ではかなり多くの問題点が見つかる。容易に改善できる項目は早期に改善することで,改善により時間のかかる項目に,より多くの時間が割ける。 臨床実習のスタイルには,伝統的な課題消化型(患者担当制)実習と体験学習型(診療参加型)実習(クリニカルクラークシップ,以下CCS)がある[2]。患者担当制では臨床実習指導者が厳選した症例(通常は1~3名)を学生が担当し理学療法全般を学ぶスタイルである。一方,CCSでは,学生は助手として診療チームに参加し,実体験を通して療法士として習得すべきスキルや態度,倫理観を学んでいく。患者担当制実習は経験の浅い未熟な学生にとっては,患者を担当するという大きな責任を負わせ,一つ一つの課題を消化させることで先に進むため,学生,特にストレスに弱いと良く言われる最近の学生,へは過剰なストレスとなりやすい。そのため,近年はCCSが注目されている。知識重視ではなく体験学習型のCCSがより普及することで,「学び」はしっかりと養成施設で臨床実習前に行う,という当然の姿勢が更に強調される。 井口は今年度から担当授業の中で,患者情報を学生に示し,問題点抽出,目標設定,治療計画立案を学生に課すこととした。既に授業で習っている「目標は具体的に」ということが出来ていない学生も中には,いる。このような既に習ったことが定着していない学生を早期に発見し,繰り返し指導する。このような地道な取り組みをしていくことで学生に知識が定着すると考える。 6.まとめ 前の報告[1]と同様に,本報告からもプレ評価実習が有効であることが示唆された。気づきの機会を提供する,このプレ評価実習後に自己評価を学生にさせることは,自分を振り返る良いきっかけとなるだろう。気づいた後は「学生」が行動を起こし改善に努めなければ何も変わらないが,そもそも何が出来ていないのか,何を改善しなければいけないのかがわからなければ,良くならない。教員として出来ることは,学生に気づかせることであろう。今後も継続してプレ評価実習と自己評価をペアで行っていきたい。 今後の課題としては,現在行っているプレ評価実習は,従来型の患者担当制実習を念頭に行っている。今後,CCSがより普及すると,プレ評価実習もCCSを念頭に再構成する必要がある。 参照文献 [1] 井口正樹,佐久間亨,杉田洋介.プレ評価実習の実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2017:25(1);18-20. [2] 鶴見隆正(編),辻下守弘(編).理学療法 臨床実習とケーススタディ(標準理学療法学 専門分野 第2版.医学書院.2013. Discussions Regarding Self-assessment Results by Students Before and After Clinical Internship IGUCHI Masaki1), SAKUMA Toru2), SUGITA Yosuke2) 1)Course of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology 2)Center for Integrative Medicine, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: Third year physical therapy students have the opportunity to partake in pre-clinical practice at the Center for Integrative Medicine before they actually attend their second clinical internship, which focuses on patient evaluation. We obtained self-assessment results from students after the pre-clinical practice (before the internship) as well as after the internship. Overall, students rated themselves higher after the internship compared to before the internship, which suggests that the pre-clinical practice has some beneficial effects. Conversely, there were some items with low ratings even after the internship, which would indicate that some of the items require substantial time and effort to correct or improve. Keywords: Physical therapy, Clinical internship, Patient evaluation, Self-assessment