手技療法が現代社会において予防医学として貢献できるかの研究 殿山 希 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 キーワード:予防医学,婦人科がんサバイバー,肥満,あん摩療法,オイルマッサージ 1.成果の概要 手技療法が現代社会において予防医学として貢献できるかを検討するために,今後の高齢社会において増加すると考えられる病態(がん治療後に発生した愁訴・肥満)を研究のターゲットとした。 1.1 婦人科がんサバイバーに対するあん摩療法の心理・気分・健康関連QOLへの効果(論文投稿) がんサバイバー(がん治療後の生存者)に対して,日本の国家資格が与えられているあん摩療法が心身の愁訴の改善・健康維持に貢献できることが明らかになれば,患者・患者を取り巻く家族や介護者にとって有益であると考えて,平成22~26年度科学研究費補助金により2年間のランダム化比較試験を行った。その後,さらに,解析や発表,執筆等を大学競争的経費の一部で継続させてきた。今回のあん摩施術の効果を最終的には,治療ガイドラインに反映させるという目的から,成果は医師が読む雑誌に発表したいと考えた。身体的効果の発表には,昨年度,客観的データとVASの結果を含めて執筆し,婦人科腫瘍学の英文誌にアクセプトは早かった[1]。一方,QOLと心理面への効果については,あん摩療法を行う日本の手技療法としては重要な示唆を多く含んでいるのだが,昨年度,正統医学雑誌A~D誌に次々リジェクトされた[2]。E誌では,実験の方法論が正しく,データ分析が厳密に行われている論文はスコープに関わらず採択する,また,採択までの期間が短いという。そこで,あん摩療法の論文投稿先としては良さそうと考えて,最後の挑戦として今年度の始めに投稿した。その2ヵ月後,”Unfortunately, the Academic Editor originally assigned to handle your submission is now unavailable. To expedite the review process, we are searching for a new editor to handle your manuscript.”とのメールがあった。 ようやくその7ヵ月後に論文修正要求があり修正したが,その後も”As you may know, the Academic Editor is no longer available to handle your manuscript…we have not yet been able to assign an editor for your submission. We will continue to try to find a new Academic Editor to evaluate your manuscript.”との連絡である。査読待ちで既に1年を経過する。どうしたらよいものかと思案に暮れる。  1.2 肥満に対するオイルマッサージの効果 1.2.1 学会発表 予備研究の成果を第82回日本温泉気候物理医学会学術総会で発表した(2017年6月24日北海道余市郡)[3]。 1.2.2 学術雑誌投稿 学会で発表した内容について,再度統計解析方法を見直し,10月末に投稿した。対象数が少なく,介入群・対照群が同一であったことから原著投稿を断念して即時報告として有意義なLetter to Editorの論文タイプを選んだ。500 words以内と投稿規定にあるにも拘わらず,査読者から膨大な加筆修正等が何度も求められた。ついに筆者は査読者が投稿規定を理解していない旨を指摘し,2月にようやくアクセプトされた[4]。これまた呆れた状況であり,馬鹿馬鹿しくも何ヵ月もの無駄な時間と心労を費やした。 1.2.3 試験の準備・プロトコル作成 本研究から以下の仮説が考えられた。仮説1. 皮膚の上に直接刺激を行い,脂肪組織の深さで刺激を行うオイルマッサージは皮下脂肪組織に影響して,アディポネクチンの産生,あるいは活性に変化を与える。仮説2. あん摩療法は筋肉の深さで刺激を行うため,骨格筋にあるアディポネクチン受容体の活性を促し,オイルマッサージと同様かそれ以上に血中アディポネクチン濃度に貢献する。これらを明らかにするために保健科学特別研究1(鍼灸学専攻3年次,選択授業)履修学生2名と試験に向けて準備を始めた。ゼミ形式で実験プロトコルを作ることを指導した。 2.成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果 本研究を礎に今後解明を進めて行く予定である。日本の手技療法が医療の場で活用されるためのエビデンスとなる。しかしながら,昨年度から今年度の筆者の論文投稿を通して,手技療法の学術としての発展に対する問題点が浮き彫りとなったので列挙する。・ インパクトの高い医学雑誌に掲載されるためには,客観的評価が求められる。手技療法は患者の主観的愁訴の改善を目的に行う場合が多い。よって,手技療法の論文の価値・意味が理解されにくい。理解できる評価者が世界にもほとんど存在しないのかもしれない。 ・編集者・査読者の能力により投稿論文は判断されるので良質の雑誌を選びたい。しかし,補完代替医療の雑誌では,名が通っていても編集者・査読者が良質とは言えない状況に遭遇した。 ・国内・海外ともに手技療法が学術たるにはあと百年はかかると感じた。 参照文献 [1] Donoyama N, et al. Physical effects of Anma therapy (Japanese massage) for gynecologic cancer survivors: a randomized controlled trial. Gynecol Oncol. 2016;142: p.531-538. [2] 殿山希.あん摩・マッサージは高齢社会の健康増進に貢献できるかについての科学研究.筑波技術大学テクノレポート. 2017;25(1): p.134-135. [3] Donoyama N, et al. Effectiveness of massage therapy in people with obesity. J Jpn Soc Balneol Climatol Phys Med. 2018;81(1):p.35. [4] Donoyama N, et al. Adiponectin increase in mildly obese women after massage treatment. Journal of Alternative and Complementary Medicine. accepted on 17 Feb. 2018.