聴覚障害者のための効果的な災害情報伝達手法に関する研究 若月大輔,倉田成人 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:聴覚障害者,災害弱者,災害情報,情報伝達,SNS(Social Networking Service) 1.背景と目的 災害時の音声による情報伝達は,リアルタイム性が高い。しかし,聴覚に障害がある人々は,音声による情報獲得が困難であり,災害時に最も不利な情報弱者になる可能性がある。本研究では,災害時の避難を想定した訓練などを対象にして,聴覚障害者に対して災害情報を伝達する方法を検討し,情報弱者を作らない環境の実現を目標としている。より効率良い情報伝達手段の調査のために,本研究で継続的に行っている聴覚障害学生が学ぶ本学天久保キャンパスにおける避難訓練を対象とした災害情報伝達実験を実施した。また,大規模商業施設の防災に関する調査ならびに情報伝達実験を実施した。 2.情報伝達実験 本学天久保キャンパスの避難訓練,イーアスつくばおよびイオンモールつくばにおいて,SNSを利用した情報配信実験を行なった。5/16と12/12の避難訓練については,避難終了後に安否確認などの指示の情報も配信した。10/25以降は眼鏡型カメラを用いた避難行動の記録,11/15以降は専用アプリと腕時計型端末を用いた情報配信を行なった。実験実施概要を表1に示す。 表1 実験実施概要(2017年度) 日付場所など 参加者数 5/16天久保学生寄宿舎避難訓練8名 6/30, 7/2イーアスつくば22名 8/7イオンモールつくば(第1回)20名 10/25イオンモールつくば(第2回)10名 11/15イオンモールつくば(第3回)12名 12/12天久保キャンパス防災避難訓練33名 12/12イオンモールつくば(第4回)10名 3.大規模商業施設における防災に関する調査 某大規模商業施設(延床面積100,000平方メートル以上,約200店舗入居のショッピングセンター)の施設管理責任者お会いしてインタビューする機会があり,当該施設の防災訓練の状況と防災設備に関する情報を提供していただいた。消防法に基づいた検査に合格しているものの,実際に施設を調査したところ,気付きづらい避難誘導灯や非常階段があることがわかった。不案内な施設における災害時の避難情報配信の必要性を確認できた。 4.まとめ 実験参加者が防災情報を見知っている本学天久保キャンパスでの継続的な災害情報配信実験と,不案内な商業施設における情報伝達実験を実施した。その結果,情報伝達には災害発生場所や避難所を図示した図付きの情報が有用であり,情報が得られることで安心して避難行動に移ることができること,避難後の避難所での安否確認など指示に関する情報も役立つことが確認できた[1]。眼鏡型カメラで避難時の行動を分析したところ,避難誘導灯の存在に気がついていない様子が確認できた。また,腕時計型端末の振動機能は情報伝達を装着者に気づかせる効果が高いことを確認できた。今後は,災害情報の伝達に加えて,避難者同士が互いに災害情報を投稿し,共有することができるシステムを試作し,避難行動や避難所における行動に与える影響や効果について検討したい。 参照文献 [1] 若月,倉田,聴覚障害者に対する災害情報伝達に関する基礎的検討(第2報)〜筑波技術大学学生寄宿舎の防災訓練を対象とした実験〜,信学技報, Vol.117, No.188, pp.39-44, 2017.