聴覚障害学生の日本語に関する困難点の分析(5)~敬語や文章校正の問題を中心に~ 脇中起余子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部 要旨:筑波技術大学における1年次必修科目「日本語表現法A」の中で,聴覚障害学生の日本語に関する困難点を,期末試験の結果の分析を通してまとめる。授業の中で,『敬語の指針』について説明したが,尊敬語と謙譲語の状況に応じた使い分けは相当難しいことがうかがえた。自動詞と他動詞の使い分けについて,短文では正答できても,長文になると難しい例や,不自然な文章の校正において,文の構造(冒頭句と文末のつながり,主語と述語のつながりなど)を考えての校正が難しい例,2通りの意味にとらえられる文章をそれぞれの意味とはっきりわかるように書き換えることが難しい例がみられた。 キーワード:聴覚障害者,日本語,敬語,文章校正 1.はじめに 筑波技術大学の聴覚障害学生に対する1年次必修科目「日本語表現法A・B」は,助詞や敬語を使う力,日本語の文章を正しく書く力の向上を目的としている。 敬語について,尊敬語や謙譲語を簡単にまとめたあと,2007年に出された文化審議会答申『敬語の指針』の内容を紹介した。また,学生によくみられる不自然な文章を校正する問題などに取り組ませ,同一問題や類似問題を期末試験で出した。本稿では,敬語や文章の校正問題について,同意書が得られた学生45名の結果をまとめる。 2.敬語に関して 2.1 敬語を使って書き換えることの難しさ 期末試験で,「敬語を使って書き直せ(誤用文があれば正しく書き直せ)」という問題を出した。 「(1)先生がご飯を食べる」では,尊敬語を用いて「先生がご飯を召し上がる・お食べになる」などとする必要がある。授業では,「いただく」を使う間違いが多くみられたが,期末試験では,43名(96%)が正答できており,その内容は「,召し上がる」が37名(82%)「,お食べになる」が4名(9%)であった。 「(2)社員が客に『お客様は,食事はいただきましたか?』と言ってよいか? 不適切な場合は正しく書き直せ」という問題で,「召し上がる」「お済みになる」などを使って正しく書き換えた者は,34名(76%)であった。 「(3)先生がお花をもらう」では,尊敬語を用いて「先生がお花をおもらいになる・お受けになる」などとする必要がある。期末試験では,正答者は20名(44%)であり,その内容は「,おもらいになる」が10名(22%),「もらわれる」が3名(7%)などであった。謙譲語の「いただく」を用いて誤答した者は11名(24%)であったので,「いただく」が使える場面を的確に判断できない学生がまだ2~3割いることがうかがえる。この「いただく」以外の誤答を分析すると,授受の方向を逆にした者が5名(11%)(「くださる」が4名,「お渡しになられる」が1名),「もらいになる」「おもらいになさる」など尊敬語の雰囲気がある誤答が3名(7%),謙譲語の「たまわる」「うけたまわる」を用いた者が2名(4%)などであった。 「(4)私は,~と思います」という問題では,謙譲語を用いて「存じます」などとする必要がある。「思っております」は「思っています」を謙譲語に直したものであるが,期末試験では誤答としなかった。「存じます」「存じています」「存じております」と回答した者は24名(53%),「思っております」が4名(9%)であった。「思われる」には尊敬と自発の意味があり,「私は,~と思われます」は不適切であるが,「思われます」を使って答えた者が5名(11%)みられた。他,「考えております」「考えます」「考えられます」など,「考える」を用いた回答が6名(13%)であった。 「(5)私は,今新聞を読んでいます」という問題について,「います」を謙譲語の「おります」に変えることを期待したが,「読んでおります」と回答した者は16名(36%),「拝見する」を使った者は19名(42%),「拝読する」を使った者は4名(9%)であった。この「拝見」や「拝読」は,基本的に相手の著作やメールに対して敬意を表する時に使われるものであり,部長から借りた本を「拝読した」と言った場合,その敬意はその本の著者に向けられることを,期末試験の後の解説で紹介した。この問題で,尊敬語「お読みになる」を使って答えた者が4名(9%)みられ,ここでも尊敬語と謙譲語の使い分けの難しさがうかがえた。 2.2 場面に応じて敬語を使い分けることの難しさ (1)社外の人がいるかどうかによる使い分け 「1)社内の忘年会で社員が司会をする時と,2)社外の人が多数いる会合で社員が司会をする時のそれぞれで,司会の言い方として次の ア)とイ)のどちらが適切か。ア)社長からご挨拶を申し上げます。イ) 社長からご挨拶をいただきます。」という問題を出したところ,1)では,37名(82%)が正答「イ」を選び,2)では,37名(82%)が正答「ア」を選んでいたので,上司と自分だけの場面と社外の客がいる場面とで,同じ上司の行為であっても尊敬語と謙譲語を使い分ける必要があることは,約8割の学生に理解されたと思われた。 その一方で,「3)[  ]に「持つ」を敬語(適切な形)に直して書き入れよ。A子「課長,その資料も会議室に[ ]か?」→課長「うん,自分が持って行くよ」という問題で,授業中に同一問題を用いて解説したにもかかわらず,尊敬語の「お持ちになる」を用いて正答した者は25名(56%)であり,半数近くの学生がまだ理解できていないことになった。一方,謙譲語の「お持ちする」を用いて誤答した者は,9名(20%)であった。この問題は,空欄の後の「うん,自分が持っていくよ」という文から答えを判断する必要があるが,このように手がかりが空欄の後にある問題の難しさがうかがえた。 (2)「田中部長」や「田中」の使い分け 『敬語の指針』の中で,「田中部長」の言い方について,客に対しては「田中」と呼び捨てにする必要があるが,抵抗感がある場合は「部長の田中」としてもよいと書かれていることを授業中紹介し,期末試験で,客に言う文の中で「田中部長」「田中」「田中さん」「部長の田中」のどれを使うかを選ばせたところ(複数回答可とした),正答の「田中」と「部長の田中」を選んだ者がそれぞれ32名(71%),38名(84%)であった。誤答となる「田中部長」は10名(22%),「田中さん」は2名(4%)であった。なお,『敬語の指針』では,「田中先生」の言い方は許容範囲とされていることも,授業中紹介した。 2.3 目上の人に対する表現に関わって 授業中に,目上の人に対しては,①「ご苦労様でした」は使わないほうがよいこと,②「参考になりました」は,「勉強になりました」などと言い換えるほうがよいこと,③「話し方が上手ですね」などとほめる行為は目上の人に対しては控えたほうがよいため,「大変わかりやすかったです」などと言い換えるほうがよいことを紹介し,①~③を理解できたかを調べる問題を期末試験で出したところ,正答した者は,①は28名(62%),②は13名(29%),③は18名(40%)であった。「相手をほめたりねぎらったりする意味であれば,目上の人に対しても使える」という感覚を払拭することの難しさがうかがえた。 ④「(お客様は)コーヒーをお飲みになりたいですか」について,目上の人の希望を直接尋ねることは良くないので,「コーヒーはいかがですか」「コーヒーをお飲みになりますか」などと言い換えるほうがよいこと,⑤「お客様は,英語もおできになるのですか」について,目上の人の能力を直接尋ねることは良くないので,「お話しになりますか」のように言い換えるほうがよいことを授業中紹介したが,期末試験で正答できた者は,④は40名(89%),⑤は22名(49%)であった。この④と⑤の正答率の差(40%)は,日頃からそのフレーズに接する経験の差の違いと関連するかもしれない。 2.4 二カ所以上書き換える問題の難しさ 2.1で紹介した問題は,「先生がご飯を食べる」などを敬語を使って書き換える問題であり,言わば一カ所だけを敬語に直す問題であるが,以下の問題は,二カ所を正しい敬語に直す必要があるものである。 「社員が客に言う文章」を正しく直す問題で「,お客様は,パリで田中部長とお会いしたそうですね」という文では,「田中部長」を「田中」や「部長の田中」に,「お会いした」を「お会いになった」などと変える必要があるが,両方とも正しく直せていた者は8名(18%)のみであった。「田中部長」のみ正しく直した者は15名(33%),「お会いした」のみ正しく直した者は3名(7%)であり,いずれも正しく直さなかった者(「この文は正しい」と回答した者を含む)は19名(42%)であった。 「田中部長が『今日はお会いできず,残念です』と言っておられました」という文では,社員が客に言う文であるため,「田中部長」を「田中」や「部長の田中」に,「言っておられました」を「申しておりました」などに変える必要があるが,両方とも正しく直せた者は5名(11%)であった。「田中部長」のみ直した者は13名(29%),「言っておられた」のみ直した者は8名(18%)であり,いずれも正しく直さなかった者(「これは正しい」と回答した者を含む)は19名(42%)であった。 このように,二か所以上を直す必要がある問題の難しさがうかがえた。 3.文章の書き換えに関わって 3.1 述語が1つの文と2つの文 野内(2010)の問題を参考にして,「彼が優勝したので,母は喜んだ」を「彼の優勝は,母を喜ばせた」に直したり,逆に「会社の破産は,彼女に不幸をもたらした」を「会社が破産したので,彼女は不幸になった」に直したりするというように,述語が2つの文を1つの文に変えたり,逆に述語が1つの文を2つの文に変えたりする問題を出し,授業中取り組ませた。なお,野内(2010)は述語が2つの文を「動詞中心文」,述語が1つの文を「名詞中心文」としているが,学生にとってはわかりにくいと思われたので,「述語が1つ(2つ)」の説明を加えた。 期末試験で,「1)彼は,その経験をしたので,疑い深い性格に変わった」という述語が2つの文を「その経験は,彼を疑い深い性格に変えた」などの述語が1つの文に変えたり,逆に「2)物価の上昇は,新たなストライキを引き起こしかねない」という述語が1つの文を「物価が上昇すると,新たなストライキが引き起こされかねない」などの述語が2つの文に変える問題を出したところ,最も多かった誤答は,1)では「彼のその経験は,疑い深い性格に変わった」,2)では「物価が上昇すると,新たなストライキを引き起こしかねない」であった。すなわち「そ,の経験をしたので」を「その経験は」に変えたり,「物価の上昇は」を「物価が上昇すると」に変えたりすることはできても,その後の述語を元の文のままとした者が多かった。「彼のその経験は,【何が】疑い深い性格に変わった」「物価が上昇すると【,何が】新たなストライキを引き起こしかねない」のように,隠された主語を考える必要があるが,それが難しいようであった。 自動詞と他動詞の区別は,聴覚障害児にとって難しいものの一つであるが「彼,は壺をお金に{変わる・変える}」「事故が{起きる・起こす}」のような短文で正答できても,上記のような長文や主語あるいは目的語が省略された文になると正答できない例が多いことになる。「彼のその経験は,疑い深い性格に変わった」「彼のその経験は,疑い深い性格に変えた」「彼のその経験は,彼が疑い深い性格に変わった」「彼のその経験は,彼を疑い深い性格に変わった」「彼のその経験は,彼が疑い深い性格に変えた」「彼のその経験は,彼を疑い深い性格に変えた」のどれが自然な言い方か,「物価の上昇は,新たなストが引き起こしかねない」「物価の上昇は,新たなストを引き起こしかねない」「物価の上昇は,新たなストが引き起こされかねない」「物価の上昇は,新たなストを引き起こされかねない」のどれが正しいかを考えて文を作成することの難しさがうかがえよう。 3.2 文章の校正 学生のレポートを見ると,「授業の内容は,盲聾体験をした」や「授業で盲聾体験だった」,「スポーツや本を読んだ」のように文の組み立てが不自然な例が多くみられる。そこで,樋口(2013)や古郡(1997)も参考にして,以下のA)とB)を解説し,例題に取り組ませた。 A) ①【時】で,【動詞】。    例)「明日の奉仕活動で,草むしりをする」   ②【内容】は,【名詞・名詞句】である。    例)「明日の奉仕活動は,草むしりである」 B)「PやQをVする」では「,PをVする」と「QをVする」の両方とも正しい文になるようにする必要がある。  例:「運動や本を読む」→「本を読む」は言えても「運動を読む」は言えないので,「運動をしたり本を読んだりする」「運動や読書をする」などとする必要がある。 その後,期末試験で,以下の1)~5)の文を校正する問題を出した。 「1)午後中の授業の内容は視覚障害について学んだ。」について。「授業では,視覚障害について学んだ。」のように上記の①の形に直せた者が13名(29%),「授業の内容は,視覚障害についてだった。」のように上記の②の形に直せた者が19名(42%)であった。「午後の授業は~についてであった。」とした者は2名であり,②に含まれると考えられる。「午後の授業は,~について学んだ。」とした者は3名であり,「午後の授業(で)は」の「で」が省略された形,あるいは「午前の授業は~について,午後の授業は~について学んだ。」のように「対比」の意味がある文と考えられたので,正答とみなした。なお,「午後中」を校正しなかった者が4名(9%)みられた。 「2)盲聾体験で感じたことは,私たちはアイマスクをつけても記憶情報を頼って移動する。」について。「盲聾体験で(を通して),~を学んだ。」のように①の形の文を書いた者は16名(36%,うち1名は不自然な文),「感じた(分かった・行った)ことは,~することだ。」のように②の形の文を書いた者は22名(49%,うち1名は不自然な文)であった。なお,2)で「~を頼って」のままとした者が19名(42%),「~に頼って」と直した者が12名(27%)であり,この二つの違いを理解しない者が相当数いることをうかがわせる。また,「~を頼りに」などと直した者が14名(31%)みられた。 「3)サポートする人は段差を降ろす時に手を足でたたいて段差があることを知った。」では,「サポーターは,段差を降ろす時に,足を手でたたいて段差があることを知らせた。」や「盲聾体験者は,段差を降りる時に,サポーターに足を手でたたいてもらって,段差があることを知った。」のように主語と述語の整合性を考える必要がある。これができなかったのは3名(7%)のみであった。 なお,「手を足でたたく」について,この状況はありえるが,実際の盲聾体験ではそのようにした者は見かけなかったので,この文は誤答として採点した。「手を足でたたく」のままであった者が6名(13%),「~にたたく」とした者が7名(16%)であった。「手で足をたたく」のように正しく直せていた者は20名(44%)であり,それ以外の12名(27%)は「肩をたたく」などと書き換えていた。 「4)社会で,盲聾者が読んでみたい本をすぐに読めてもらえるようになりたい。」について。「社会で活躍する」は言えるが,「社会で絵を描く」は不自然であるのと同様に,「社会で~のような本を作りたい。」は「社会で~のような本を作る活動をしたい。」と比べて違和感を感じる人が出てこよう。「社会に出たら,~のような本を作りたい。」であれば可能であろう。また,「盲聾者が~読めるようになってほしい・したい・してほしい」は言えるが,「盲聾者が~読めるようになりたい」は不自然である。この問題では,「社会で,盲聾者が~読めるようになってほしい(したい・してほしい)。」とした者は10名(22%)であり,「社会で」の部分に違和感があることから少し減点の対象とした。「社会で,盲聾者が~読めるようになりたい。」とした者は6名(13%)であり,「社会で」と「なりたい」の部分に違和感があることから,これも減点の対象とした。「~ような社会を作りたい・社会にしたい・社会になってほしい」に変えた者は11名(24%),「社会に出たら,~を~たい」に変えた者は3名(7%)であった。なお,「読めてもらえる」のまま,あるいは「読められる」とした者が5名(11%)みられた。 「5)情報が少ないと恐怖や不安になる。」という問題では,「不安になる」は言うが,「恐怖になる」は言わないので,この文は不自然である。また,「恐怖をもつ」や「恐怖な気持ちになる」は言えないので,「恐怖や不安をもつ」や「恐怖や不安な気持ちになる」も不自然である。「AやBをVする」(「BをVする」は自然だが,「AをVする」は不自然)の形で回答した者は,9名(20%)であった。「恐怖や不安を覚える」のように,「AやBをVする」(「AをVする」と「BをVする」のいずれも自然)の形で回答した者は,18名(40%)であり,「怖くなったり不安になったりする」のように述語を2つに変えた者は8名(18%)であった(助詞の使い方が不自然な例を含む)。 3.3 複数の意味に取られる文の書き換え 野内(2010)や阿部(2009)を参考にして,複数の意味に取られる文の書き換えに関する問題を出した。以下にまとめたように,読点を使う方法や語順を変える方法,他の語を使う方法がある。 A)読点を使う方法  例1)「ここではきものをぬぐ」→①「ここで,はきものをぬぐ」,②「ここでは,きものをぬぐ」 B)語順を変える方法  例2)「彼は不安そうに電話で話している彼女を見ている」→①不安そうなのが「彼女」の場合,「彼は,電話で不安そうに話している彼女を見ている」,②不安そうなのが「彼」の場合,「彼は,電話で話している彼女を不安そうに見ている」 C)他の語を使う方法  例3)「私は,AとBの家へ行った」→①「私は,Aと一緒に,Bの家へ行った」など,②「私は,Aの家とBの家へ行った」など 授業の中で,2通りの意味に受け取れる文を,それぞれの意味とはっきりわかるように書き直す問題に取り組ませた時,例2)のところで,「彼は不安そうに,電話で話している彼女を見ている。」と「彼は,不安そうに電話で話している彼女を見ている」を書いた学生がかなりみられた。前者は「不安そうなのは彼」の意味と考えられるが,後者はまだどちらが不安そうなのかが曖昧なことを伝えた。そして,期末試験で,授業中取り組ませた問題の中からいくつか選んで出題した。 「1)私は,部長と田中さんの家へ行く。」について,「部長と一緒に」と書き換えたり,「部長の家と田中さんの家へ」のように書き換えたりした学生が多く,この問題は比較的容易であった。読点で区切っただけの文章として,「私は部長と,田中さんの家へ行く。」は「部長と共に行く」意味として認めたが,もう一つの文のところで,問題文そのものを記した学生が4名(9%)みられた。この4名は,「私は」と「部長」の間に読点があるので,もう一つの意味を表す文になると考えた可能性がある。また,書いた2つの文が同じ意味になっていた学生が3名(7%)みられた。 「2)20日に店を閉めると決定された。」について,①閉店日が20日の意味と,②決定した日が20日の意味が考えられる。a)読点で区切る方法では,①は「20日に店を閉めると,決定された。」,②は「20日に,店を閉めると決定された。」となる(やや不自然に感じる人や「まだどちらの意味かはっきりしない」と言う人がいるだろうが,減点の対象としなかった)。b)語順を変える方法の場合,①は「店を20日に閉めると決定された。」,②は「店を閉めると20日に決定された。」が考えられる。c)他の語を使う方法の場合,①は「20日で店を閉めると決定された。」などが,②は「20日の会議で,店を閉めると決定された。」などが考えられる。期末試験では,①と②の両方ともa)を用いた学生は11名(24%),両方ともb)を用いた学生は3名(7%),いろいろな方法を組み合わせて答えた学生は13名(29%)であった。また,片方の文がどちらの意味かまだ曖昧な文になっていた学生が6名(13%),書いた2つの文が同じ意味になっていた学生が5名(11%)みられた。 「3)彼は彼女のようにうまくない。」という文では,授業中「彼=うまくない,彼女=うまい」か「彼=うまくない,彼女=うまくない」のどちらか曖昧であり,答えの一例として「彼は,彼女と同じで,うまくない」「彼は,彼女と違って,うまくない」を紹介した。しかし,期末試験では,「彼は,彼女のようにうまくない。」と「彼は彼女のように,うまくない。」を書いた学生が4名(9%)おり,読点の位置が異なれば意味も異なると考えていると思われた。他に,まだどちらの意味か曖昧な文を1つ以上書いた学生が27名(60%)みられた。 これらのことから,表1 に示したように,読点で区切るだけで語と語を意味的につなげることができると考えている学生がいる可能性がうかがえる。 表1 読点で区切ることによる意味の変化 4.漢字の読みに関わって 学生から「今まで読みを間違えた漢字」を集め,それを授業中紹介し,「期末テストでは,この中から出す」と予告して出題したが,以下のことを感じさせられた。 ①単なる読み方の修正は,比較的容易である。「年俸」(×「ねんぼう」,〇「ねんぽう」,正答率87%),「句読点」(×「くどくてん」,〇「くとうてん」,正答率89%)などがその例である。 ②イメージが似ている語の読みの修正は,意外と難しいようである。「呆然」を「あぜん」と読んだ例が7名(16%),「貼付」を「はりつけ」と読んだ例が9名(20%),「てんぷ」と読んだ例が2名(4%),「暫時」を「ぜんじ」と読んだ例が6名(13%)みられた。すなわち,「呆然」と「唖然」,「貼付」と「貼り付け」「添付」,「暫」と「漸」の混同がみられたのである。著者の前任校の聾学校で,「長点」を「ちょうしょ」,「強固」を「がんこ」と読む例が多かったが,「点」や「強」の漢字を指さすとすぐに修正できており,聴覚障害児は,漢字を一字ずつ見て読みを考えるのではなく,単語全体のイメージから読みを考える例が多いようだと思ったが,②で述べた間違いはこの聾学校での間違いと共通すると感じさせられた。 ③意味がよくわからない語の読みの修正も難しいようだ。「法面」(正答率60%)などがその例である。 ④聴覚障害児は音韻の入れ替えが多いことが従来から指摘されているが,「血眼」を「ちなまこ」と読んだ例を授業中紹介したにもかかわらず,期末試験で「ちなまこ」と書いた例が3名(7%)みられた。本人は「授業中紹介された時は笑ったが,期末試験でつい同じ間違いを繰り返してしまった」と語っていた。 謝辞 同意書を書いてくださった学生や保護者の方々に厚くお礼を申し上げます。 参照文献 [1] 阿部紘久.文章力の基本,第1版.日本実業出版社(東京),2009. [2] 古郡廷治.論文・レポートのまとめ方,第1版.ちくま新書(東京),1997. [3] 樋口裕一.小論文これだけ!,第1版.東洋経済新報社(東京),2013. [4] 野内良三.日本語作文術,第5版.中央公論新社(東京),2010. Difficulties Encountered by Hearing Impaired Students Regarding Japanese Honorifics and Sentence Proofreading WAKINAKA Kiyoko Division for General Education for the Hearing and Visually Impaired,Research and Support Center for Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: This study analyzed the difficulties encountered by hearing-impaired first-year students enrolled in the mandatory subject Japanese A at Tsukuba University of Technology. After an explanation regarding “the guidance of the honorific,” it was still very difficult for them to properly use honorifics in the humble vs exalted forms, depending on the situation. Even when they could correctly use an intransitive or transitive verb in a short sentence, it was difficult for them to use it correctly in a long sentence. Moreover, it was difficult for them to correct unnatural sentences in terms of the structure of the sentence. Students also found it difficult to rewrite an ambiguous sentence in two ways that could clearly distinguish between the two possible meanings. Keywords: Hearing impaired, Japanese, Honorific, Sentence proofreading